宇宙戦艦ヤマト 「堕ちた英雄」

それに最初に気が付いたのは背の高い相棒の方であった。
ここで人が集まるような事は滅多にないが、なにかあったのだろうか。
少し撚れた黒服を纏った二人はゆっくりと近づいて行った。
ここではなにも慌てることなど起こるはずがないので、その足取りは、
まるで避暑地を散策する程度のものである。
だが、近づくに従い、慌てふためき泣き喚いているかのような男の声と、
それを宥める人の声が聞こえてきたのであった。
背の高い方の男が、取り巻く人々の頭の上から覗こうと背筋を伸ばし、
爪先立ちになるがよく見えないようだ。
垣間見えたところによると、黒髪で髭を生やした男が、茶色い髪のゴツイ
男に羽交い絞めにされてなにやら叫んでいるらしい。
私は、同じように人垣の後ろから女性と共に様子を伺っている男性に
なにがあったのかを聞いてみることにした。
「ズオーダさん、なにかあったのですかな?。」
緑色の肌と、頭髪に繋がった白い眉が特徴の彼は不意に声をかけられた
ことに驚いたのか、周囲をキョロキョロと見回してから、二つほど背の低い
私に気がついたようである。
「おぉっこれは沖田さん、今日もよい天気でなによりですなぁ。」
アンドロメダ星雲を征服し、地球を後一歩まで追い込んだ張本人とは
思えない穏やかな表情で時候の挨拶など交わしてくる。
横にいた女性も、ズオーダに腕を絡めたまま、軽く頭を下げ幸せそうに微笑んでいる。
にしても、いつも思うのだが、ガトランティスの人間と言うのは、
なぜにして男性は緑色で女性は肌色なのだろうか。
確かガミラス人は、男も女も青色をしていたはずだったからガトランティス人
独特のものなのだろう。
いや、違ったかな、ガミラス人も女性は肌色をしていたような気もするが、
彼らの場合青色になったり肌色になったりしていたからいろいろとあるのかも知れない。
確かに地球人も白や黄色、黒色があるのだから、あちらから見れば
地球人の肌は何色ってことになるのかも知れない。
うん、まぁそんなところなのだろう。
それはそれとして、私は彼にこの人だかりはどうしたのかと尋ねてみることにしたのである。
「あぁ、これね、なにやら誰かが穴に落ちたらしいんですよ。」
眉間にシワを寄せと言っても、前述の通り眉毛が繋がっているのであるから
シワが寄ったかどうか判別し難いのではあるが、困ったような表情から
きっとシワを寄せているのだろう。
「落ちたって? 誰がですかな?」
一緒にいた土方君は、なんとか前の方を見ようと動き回っているらしく、
少し離れた場所で彼らしい頭がピョコピョコと見え隠れしているので
ここはズオーダさんに話を聞くしかないかと顔を向けたとき、一際大きく
男の叫びが耳に届いたのである。
「放してくれぇ〜っドメル将軍、総統がぁっ、デスラー総統がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
この声には聞き覚えがある。
確かガミラスのデスラーさんの部下のタランさんとか言う、実直な男性の
ものではなかったか。
どうやら穴?にデスラーさんが落ちて、タランさんがそこに飛び込もうと
しているのをドメルさんが押し留めているようだ
そうそう、ドメルさんと言えば、一度だけスクリーン越しに話を交わした
ことがあったが、実に質実剛健な漢(おとこ)である。
詰めが甘いのが玉に傷との噂も聞いてはいるのだが・・・。
ズオーダさんに礼を言い、私も土方君の後を追って人ごみをかき分け前の方に
進んでいった。
「土方君、見えるかね。」
しかし最近の奴らはどうしてこう背が高いのだろうか。
まぁ、今ここに集まっているのはほとんどが地球人以外の人たちばかりの
ようであるから単に民族の違いなのかも知れない。
人込みを掻き分け掻き分けしながら、最前列で眺めている彼の隣に
行き着くことができた。
やはり騒いでいたのはタランさんとドメルさんであった。
それとドメルさん一人では抑えきれなかったのかタランさんに後二人ほどの
ガミラス人が取り付いている。
誰かと思ったら我々には馴染み深いシュルツさんと確かガンツとか言う
人ではなかっただろうか。
「放してくれドメル将軍、総統なくして私の存在意義がどこにあると
言うのかぁ。
 総統このタラン 今すぐにお傍に参りますぞぉっ。」
「タラン将軍、気をお静めください。
貴方が飛び込んだとて総統がお喜びになられるとお思いか。
今、斉藤とか言う若者がロープを取りに行っています、もう少し
落ち着いてください。
それにいざとなれば私のドリルミサイルを使って地中を探索することも
できますから。」
思わずのけぞってしまった。
「どうした沖田?」
私の様子を見て、土方君が訝しげな顔を向けているが、このドリルミサイルには
肝を冷やさせられた記憶があるので、身体が勝手に反応してしまったのだ。
「いや、別にどうもしとらんよ。」
何気ない表情を作ったつもりだったが、頬の筋肉がピクピクと痙攣しているのが
自分でもわかった。
うむ、ヒゲを生やしていてよかった。
人生なにが幸いするか判らないものだ。
そんな事でと思われるかも知れないが、指揮官と言うものはいついかなる時にも
動揺を部下はもちろんのこと、同僚にすら悟られてはいけないものなのだ。
特にこの土方に知られてしまったとすれば、いつまでも事アルごとに
それを持ち出してくるに違いない。
あの時もそうだった・・・、いつもなら決して油断なぞしないのだが、困難な
作戦を見事に成功に導いた安心感から隙ができていたのだ。
人前では決して外すことのない髪の毛でできた帽子を外している時、
静かに近づいていた彼に気づかなかったのは痛恨の一事だ・・・。
それからだ、こいつは会議中など、やたらと頭のことに話題を持って
いこうとするのだ。
この事件以後なのだ、私がいついかなる時でも、例え宇宙服、ヘルメットを着用している
時でさえ帽子を脱がないようになってしまったのは。
もちろん、用心に用心を重ね、帽子の下に髪の毛の帽子も被っていたことは
言うまでもないだろう。
私はこれをハニカムヘッドと呼んでいる。
これならば、例えなにかの拍子に帽子が取れたとしても、さらにその下の髪の毛の
帽子が自然な状態に見えるのである。
ついでに言っておくと、ベッドに横になる時には、流石に帽子は脱いでいる。
それはそうだろう、寝ている時まで帽子を被っていては、かえって不審の目を
引くことになってしまうではないか。
もちろん髪の毛の帽子は被ったままなのはもう言わなくても判ってもらえて
いることと思う。
まぁ、佐渡先生と徳川機関長、それとこの世界には来てはいないが
東堂長官には同士としての連帯感から話してはあるのだが、
まだ、彼らのようにカミングアウトする勇気がない。
そうだ、今度シュルツさんやヒスさんも同士として誘ってみよう。
私がそんな葛藤を心中で繰り広げていると、後ろの方から複数の男の大声が
聞こえてきた。
「オラオラッ、野次馬は道を開けろいっ!」
それは数人の空間騎兵隊隊員が一段となって人ごみを掻き分け進んでいる
声だった。
先頭はもちろん隊長の斉藤だ。
うむ、さっきは異星人だから背が高いと思ったが、こいつらもそれに劣らず
背が高い・・・。
まったく最近の若い者は何を考えて、そんなに背を伸ばしているのだ。
そうそう、土方も若くないくせに背が高いっ、まったく世の中乱れておる。
シークレットブーツを後、5センチは高くしないと、いやっ思い切って10センチ
上げてみようか、人生には冒険も必要だしな。
「おっと、沖田艦長、見物ですかい。」
近づいた斉藤が、頭の上から声をかけてきた。
「んっ、斉藤か・・・なにもかも皆懐かしい。」
うほっ、ついついワシの名セリフが出てしまったわい。
まぁ、斉藤あたりで、直接ワシの口からこのセリフを聞けるのはさぞかし
名誉なことだろう。
と、斉藤を見上げてみたら、未だに錯乱気味のタランさんを見ておった。
まったく最近の若い連中ときたら、もののありがたみを全く理解しとらんっ。
が、私はそんな素振りさえ見せる事はない。
人間ができておるから、こんな連中の無能ぶりでさえ広い心で包み込んで
やることができる。
「デスラーさんが穴に落ちたらしいな。」
「えぇ、そうなんです。
いや、滅多に穴なんか開くことがありませんから、ものの見事に落っこち
ちまったらしいんです。
で、今からちょっと穴ん中にこいつらと潜ってきます。」
確かに穴が開くなんて滅多にないことだし、丁度そこに居合わせるなんて
なんと運が悪いと言うか・・・、まぁ、デスラーさんの場合 因果応報かも
知れない、なにか下品な冗談でも言っていたのかも。
斉藤が、ガミラスの四人組を脇に押しやり、ロープを穴に垂らし始めた。
平坦なこの場所では、ロープを繋いでおく場所もないので、周囲の者がロープの
端を握って支えとなった。
あのズオーダさんでさえ、人込みの中に入り、ロープを握っているとあっては
ワシもただ見ている訳にはいかない。
だが、ただロープを握るだけと言うのも芸がないので、指示を出している
斉藤に耳打ちをしてやった。
「明日のために、今日の屈辱に耐えるんだ。」
くぅぅぅ、渋いっ渋すぎるっ。
これも私の名セリフの一つだ。
あの時は守の奴に言い返されてしまったが、斉藤ならよもや言い返して
くるなんてことはないはず。
思ったとおり、斉藤は何も言わず私の顔をじっと見つめ、近くにいた隊員に
アゴをしゃくったのである。
二人の隊員が近づき、なんとしたことか、ヒョイと私の両手を抱え群集の中に
押し込みロープを握らせたではないか。
うぬぬ、なんと言う扱いかっ。
手にしたロープを叩きつけ引き換えそうかとも思ったのだが、皆の見ている前で
そんなことができるはずもなく、人間の器の大きさを示し大人しく
ロープを握っておくことにした。
穴の傍ではロープの強度を試し終わった斉藤の奴が掛け声とともに穴の中に
滑り降りて行った。
落ちてしまえっと心の中で念じてみたが、餅は餅屋と言うわけか、危ない
素振りを見せる事すらなかった。
と同時にガクンと手にしたロープに人一人の体重がかかる。
全員の身体が一歩前に出た。
中には腰が浮いてしまい、前のめりになる者さえいる始末だ。
体重の支え方さえ知らないのか、こんな場合は私のように腰をグッと落として
綱引きの要領で体重をかけてさえいれば・・・。
いやっ、なんだこの重さはっ。
一体何を食べればこんなに重くなると言うのだ斉藤よ。
30人はいると言うのに、全員の身体がズルズルと穴に向かって引っ張られて
いるではないか。
先頭のドメルさんなんかは、額に血管を浮き立たせ、真っ青な顔をして
踏ん張っているものの、足下の地面に溝を刻みながら引っ張られている。
いかんこのままでは支えるどころか、我々まで穴に落ちてしまう。
「ダメだっ、もっと人数を呼んで・・・っ!」
誰かの声が聞こえるとともに、ロープを手放す間も与えず、全員が穴の中に
引きずり込まれてしまったのだった。

 地球防衛軍本部長官室では、東堂平ら九郎が頭に白いカツラを乗せ
腰を抜かしていた。
丁度地球に向かう水の惑星アクエリアスの報告が入り、一人で思索に
耽っている最中に、人間が空間から降ってきたとすれば、たまげるなと
言う方が無理な話である。
「まさか、沖田か・・・、君なのかっ。」
そう穴に引き込まれた沖田 十三はなぜか長官室に落ちてきたのだ。
沖田の方も、目を丸くして目の前でイスからずり落ちそうになっている
東堂長官を見つめていた。
「なぜ長官がここに・・・、まさかお前さんもついに死んだのか・・・。」
互いに見詰め合ってしまったが、長官の顔がパッと明るくなった。
「そうかっ、そうかっ、判ったぞっ。
やっぱり沖田だ、地球の危機を見捨てられず帰ってきてくれたんだなっ。」
机の上に飛び乗り、脱兎のごとく私の許に駆け寄ってくる。
その目にはキラキラと星が輝き、涙さえ浮かべているではないか。
こいつは一体何を言っているのだ、そうかまた地球が侵略を受け、その
戦いの中でこいつもついに悪運が尽きてしまったのだろう。
私も死んだ時は、自分が死んだことに気が付かなかったものだ。
「長官、お前さんもついに・・・。」
なにか一言かけてやろうとしたのだが、彼はそれ以上私に言わせなかった。
がっしりと手を握り、早口でまくし立てたのだ。
「よくぞ生き返ってくれたっ。
ヤマトも傷つき、地球艦隊はまた謎の艦隊に全滅させられ後がないのだ。
だが、君が帰ってきてくれたなら、もう心配はない。
早速、ヤマトの艦長として地球のためにたたかってくれ。」
必至の形相で話をする東堂長官から手を外し、とりあえず彼の頭に
チョコンと乗っている私の髪の毛の帽子を自分の頭に乗せたのである。
 こうして、私は訳も判らぬうちにアクエリアスとか言う星の接近を
回避するため担ぎ出されてしまったという訳なのである。
いちおうヤマトのクルーへの説明では、佐渡先生の誤診と言うことに
なったようだが、皆本当にそんな理由を信じたのか?
疑うことを知らないにもほどがあるぞ。
それにしても、一緒に穴に落ちた皆はどうなったのだろう。
無事でいてくれればいいのだが・・・。

その頃 ガルマン・ガミラス艦隊旗艦デスラー艦内は、上を下への大騒ぎと
なっていた。
なんと、指揮をとっていたデスラー総統の上に、デスラー総統が落ちてきたの
であるから。 

−完−
2007年6月8日(金)                 
オフィス アカンデミー配給 夏休み全国一斉公開。


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