○ 大倉隆介 (1,2)・西田仁 (1,2)・西村紳一郎(2)・和田成生(1)・狩野猛(1)・西川雄大(1)・下村政嗣(1)
北大電子研(1)・北大院理(2)
近年、マイクロパターン化された接着ドメインや、マイクロメータースケールの規則的な表面形状を有する基板に対する、細胞の接着性や応答に関する研究が注目を集めている[1,
2]。このようなパターン構造は現在、フォトリソグラフィーを用いて作製されている。これに関連して我々は最近、両親媒性ポリマーを固体基板上に高湿度下でキャストして作製したフィルムに、ハニカム状のマイクロパターンが形成されることを見い出した[3]。この方法は従来のパターン化フィルム形成法に比べ、コストが低くかつ簡便である。このことから、先のパターン化フィルムを細胞培養基板として用いることができれば、ポリマーの種類やパターンの形・大きさの制御により、その上に接着した細胞の応答を制御できる可能性がある。
そこで我々は、数種類の両親媒性ポリマーを用いてガラス基板上にパターン化フィルムを作製し、その上での動物細胞の培養を試みた。本講演では、このパターン化フィルムに対する細胞の接着性について報告する。
また我々は、固体基板上のみならず水面上にも同様の方法でパターン化キャストフィルムを作製できることを見出した。これを固体基板上に移し取ることにより、さまざまな種類や形状の基板上にパターン化フィルムを作製することが可能である。この方法を用いると、フィルム作製時のポリマー展開量や温度を制御することにより、ハニカムパターンの制御が可能である。
固体基板上でのパターン化フィルムの作製
側鎖にラクトースを有する両親媒性ビニルポリマー(Lac)のベンゼン溶液(0.5mg/ml)、側鎖にカルボキシル基を有する両親媒性ビニルポリマー(Cap)のクロロホルム溶液(0.5mg/ml)、アニオン性多糖(コンドロイチン硫酸およびヘパリン)とカチオン性脂質(ジメチルジヘキサデシルアンモニウム)からなるポリイオンコンプレックス(Hep、ChS)のクロロホルム溶液(濃度;0.5mg/ml)のそれぞれ20μlをカバーグラス(丸型、直径15mm)上に塗布し、高湿度下で乾燥させてハニカムパターン化フィルムを作製した。
水面上でのパターン化フィルムの作製
シャーレ(内径9.0cm)にMilli-Q水(50ml)を入れ、上記のポリマー溶液を水面上に展開し崩壊膜を作製した。その後、さらに一定量のポリマー溶液を滴下して液滴を形成させ、それに水蒸気を当ててハニカムパターン化フィルムを作製した。水温・滴下量などの条件を変化させて、形成されるフィルムの大きさやパターンの形状の制御を試みた。
光架橋によるパターン構造の安定化
光架橋性物質としてビスアジド化合物を合成し、それをポリマー溶液に混合してキャストフィルムとした後に紫外線を照射して光架橋させた。架橋処理をしたフィルムとしないフィルムをリン酸バッファー(0.1M,
pH 7.3)に24時間浸し、パターンの形態変化を観察した。
ウシ大動脈由来の血管内皮細胞の培養
ウシ大動脈由来の血管内皮細胞をポリスチレン培養皿(24穴)上に設置したハニカムフィルム上に播種し、20%ウシ胎児血清を含むIMDM培地を加え、細胞数を3.3×105
cells/wellとした。これをCO2インキュベーター内(CO2濃度;5%、温度;37℃、相対湿度;80%)で培養した。キャストフィルム上の血管内皮細胞は位相差顕微鏡で観察した。
上記4種類のポリマーからは、いずれもハニカムパターン化フィルムを作製することが可能であった。
水面上でのパターン化フィルムの作製において、水温を低くすると水面の表面張力が増大するため、キャストフィルムの大きさと厚さが変化することが明らかになった。したがって、この方法を用いて作製したパターン化フィルムを培養基板に用いることにより、より多様な条件下での培養が可能となり、パターンフィルムの構造とこれらの細胞応答についての知見が得られるものと期待される。
光架橋により、水溶液中におけるパターンの安定性は増大することがわかった。これにより、培養液中におけるパターンの崩壊を防ぐことができる。
血管内皮細胞は、ハニカムパターン化フィルムが培養液中でその構造を維持できる限りそれに接着できることがわかった。このことより、ハニカムパターン化フィルムが血管内皮細胞の接着面として機能することが示唆された。
[1] C. S. Chen, M. Mrksich, S. Huang, G. M. Whitesides, and D. E. Ingber;
Science, 276, 1425-1428 (1997)
[2] A. Curtis and C. Wilkinson; Biomaterials, 18, 1573-1583
(1997)
[3] N. Maruyama, T. Koito, J. Nishida, T. Sawadaishi, X. Cieren, K. Ijiro,
O. Karthaus and M. Shimomura; Thin Solid Films, 327-329,
854 (1998)