街
生まれ月を祝ふにいちばんふさわしき額あぢさゐのほんたうの花
空または海と呼ぶなり灰色の折りたたまれてある一枚を
名乗るたび聞き返されて灰白の電話の線のほそきを憎む
護岸より這い上り来て今は眠るヒヒラギナンテンやうのいきもの
水際に投げ出されある脚のやうな埠頭の膝のあたりにて 夜
貼紙の痕跡ばかり法面の青いセメントにも私にも
ばつさりと落丁をしてゐるやうできみの結論よくのみこめぬ
中吊りの広告さみしうはつらにすぎない肉に名前をつけて
楽しかつたこともあつたよ川の面の油膜のやうな虹を見てゐて
つくろへば繕ふほどにひきつれてつじつまの合はぬわれのスカート
夕雲の棚引く下にどこまでも石油を焚きてあたたまる街
ストローと氷が残りストローがここまでのことを氷に問へり
道ばたの青柿を蹴りとばすべしたとへ幾つになつても夏は
すずかけの並木を打ちて降る雨は足裏合はせの世界にも降る
存在
朝の日は細く射し入りわれの吸ふ埃のひとつひとつに宿る
憎むほど憎まれてをり満員に見ゆる電車に押し入りゆけば
俯いてゐるのではなくほんたうに顔がないのだ この並木には
高層のたはめる窓にまた一つ油の玉のやうな満月
階段をかならず上る いまはまだ地表に住むことゆるされてゐて
背を見せて記憶の中を歩み去るメタセコイアのやうな存在