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   ― 物語は突然に ―





  オレの名前は大和(やまと)。 一応これでも大学の2回生。
 大学は自宅から遠く離れているので入学と同時に一人暮らしをしている。
 オレの家族は親父とお袋、姉貴、そして一歳下の妹がいる。
 両親は海外で仕事をしているので、日本にはたまにしか帰ってこない。
 姉貴はすでに社会人で別のところで一人で暮らしている。
 妹はまだ小さいころに両親と共に海外へ行ったのだが、もう十年近く会っていない。
 なぜなら、両親が帰ってきても滞在するのは1〜2日なので、留守番をする方が楽だからだ。
 と、まあとんでもない家族だが、一応家族である。

 大学は住んでいるアパートから近いが、地元でも有名なレベルのかなり低い大学だ。
 そう、オレは勉強が苦手。
 というよりむしろ、めんどくさくて勉強なんてやってられない。
 それ故に高校も低レベルの学校だった。
 大学の入学式だって行ってないし、講義も必要最小限しかとっていない。
 周りからは「よく進級できたな」と言われたもんだ。
 すべては「めんどくさい」の一言で済ませてきた、どうしようもないヤツなのだ。


  「はぁ〜、今日もよく頑張ったな、オレ」
 講義の間、寝てたり飯を食ったり、抜け出してタバコを吸っていたのは内緒。
 「さてと、元気よく帰りますか」
 オレは家に向かって歩き始めた。
 「晩飯でも買って帰るか」
 もうすっかり常連になったコンビニでいつもの唐揚げ弁当を買いさっさと出る。
 家に着くと、ドアの前でカギを差し込む。
 「あれ? 開いてる・・・掛け忘れたかな・・・」
 泥棒だなんて疑うこともしない。
 なぜなら金目の物は何も無いし、通帳や印鑑などは常に携帯しているからな。
 とりあえず入るか。

 ん? 玄関には見慣れない靴が・・・
 「げっ! なこ姉っ!!!」
 「あ、おかえり〜」
 言って手をひらひらと振る一人の女性。
 何を隠そう、こいつは正真正銘オレの姉貴の撫子(なでしこ)。
 小さい頃からの愛称が「なでしこ」の「な」と「こ」をとって「なこ姉」。
 今はタバコを咥えながらテレビを見ている。
 「な、なんでココにいるんだよっ!」
 「や、管理人に『姉です』って言ったらカギ開けてくれてさぁ」
 「違う! そうじゃなくて何でなこ姉が・・・ってこの大量の荷物は何・・・?」
 「あ、しばらくココに住もうと思って。昔から弟と一緒に住むのが夢だったのよねぇ」
 なんて言いながらわざとらしくニッコリと微笑みかけてきやがる。
 「嘘つけ。どうせうるさく騒いで追い出されたんだろ」
 「・・・・・・そんなことはどうでもいい。それよりあんた、ちゃんと大学行ってんの?」
 図星かよ(汗)
 「あたりめーだろ。今行ってきたとこだ。なこ姉、今日仕事は?」
 「ん? 今日は引越しって言って休みにした」
 なんてヤツだ、平日に引越しで休みをとる・・・・・・え?
 「待て。本気でココに住む気か!?」
 「さっき言ったじゃん。しばらくの間お世話になります、撫子でございます」
 なこ姉はそう言いながらオレにちょこんと頭を下げた。
 マジかよ・・・

 「なこ姉の分の飯、無いぞ」
 オレはコンビニの袋から弁当を出して言った。
 「何? あんたご飯はコンビニで済ませてんの? それぐらい自分で作りなさいよ」
 「じゃあなこ姉作ってよ」
 「・・・コンビニの弁当もいいかもね」
 おいおい(汗)
 まあ、なこ姉が料理できないことを知ってて言ったオレもオレだが。
 確かに一人暮らしを始めた頃は自分で料理を作っていた。
 むしろ極めるぐらいの勢いだった。
 しかし今ではめんどくさい。
 何もかも、引っ越して半年後に出来たコンビニが悪い(違)
 「じゃあオレ寝るから。なこ姉はそっちの部屋ね」
 オレは適当に言ってさっさと布団にもぐる。
 実はオレの住んでいる部屋はアパートなのにマンション並の3LDK。
 家賃と生活費は親持ちなので金には困らない。
 「あれぇ? もう寝ちゃうの? こんなに綺麗なお姉さんがいてるっていうのに・・・」
 うわぁ、酔っ払ってる・・・ここは早めに退散したほうが・・・
 「ぐはぁっ!!」
 いきなり後ろから襟を掴まれた!
 「大和く〜ん、ほら、こっちで一緒に飲もうよ〜♪」
 オレはそのままズルズルと引きずられるように椅子へと戻された。
 結局、姉貴に付き合う羽目になってしまい、朝方まで飲み続けた。


  「・・・ん・・・んん・・・っは!!」
 朝、オレはテーブルにに突っ伏している状態で目が覚めた。
 「今何時っ!? なにぃ! やべぇ、遅刻するっ!!」
 講義中は不真面目だが入学以来、遅刻をしたことがない。
 ここで妥協してしまえば、今後大学に行くことすら面倒に思えてくるだろう。
 故に遅刻するわけにはいかない!
 「・・・ん〜、大和・・・おはよぉ〜、大学行くの〜?」
 「なこ姉、起きたか! 戸締りだけ頼んだぞ!」
 それだけ告げてオレは部屋を飛び出した。
 「えっ!? ちょ、ちょっとカギ・・・」
 なこ姉は何か言っていたようだが、すでにオレには聞こえていなかった。

 「な、なんとか、間に、合った・・・」
 オレは息を切らしながら教室に着いた。
 間に合ったはいいが、二日酔いで頭が痛い。それに吐きそうだ。
 「おぇ・・・ちょっとトイレ・・・」
 急いでトイレへと駆け込む。
 結局、その日は講義そっちのけでウンウンと唸っていることしか出来なかった。
 ・・・まあ講義そっちのけっていうのはいつものことか。

 周りの友達に中途半端に慰められながら家路についた。
 「くそぅ、なこ姉め・・・これだからなこ姉と飲むのは嫌なんだよ・・・」
 誰に話し掛けるでもなく一人呟く。そしていつものコンビニへ。
 「あ、そうか、今日から二人分なんだっけ」
 唐揚げ弁当2つをレジへと持っていく。
 「あれ? 今日は2つも買うんだねぇ。もしかして・・・コレ?」
 店員のオヤジはそういって小指を立てる。
 ・・・「彼女」と言いたいのか。まったく、人の気も知らないで・・・
 「違うよ、なこ姉が・・・あ、いや、姉貴がウチに来ることになったから」
 金を払いながら説明するオレ。
 「またまたぁ〜。嘘ついてもおじさんにはすぐにわかるんだよ。はいお釣り。」
 分かってねぇじゃねぇか。とりあえず適当に「はいはい」と返事してコンビニを出た。

 「あれ? またカギが開いてる・・・なこ姉のヤツ、閉め忘れたか?」
 ドアを開けて中に入る。
 「ん? なこ姉、もう帰ってる・・・?」
 玄関に靴が2足揃えられている。 え? 2足? なこ姉のか?
 「ただい・・・まっ!?」
 「お帰り〜。お風呂先に入ったよ〜」
 「お帰りなさい、兄さん」
 風呂上りで頭を拭いているなこ姉とその隣に座る綺麗な女の子。
 「・・・・・・え、兄さんって・・・もしかして、小町!?」
 「あら、兄さんは妹の顔も忘れてしまったんですか?」
 いや、妹の存在なんて忘れるはずがない。この女の子は確かに妹の小町(こまち)だ。
 しかし多少面影を残しているものの、オレの憶えている妹とはずいぶん違う。
 まあ10年近く会ってないわけだから違ってて当然か。
 っていうか、こんなに綺麗な女の子がオレの妹だったのか(笑)
 「小町・・・戻ってきたのか・・・?」
 「ええ、つい先ほど」
 そういって小町はやたらくつろいでいる。
 「どうでもいいけど兄さん、そんなところに立ってないでこちらへ座ったらどうです?」
 「え、あ、ああ・・・」
 オレは促されるままに小町の前に座る。
 一瞬、小町に見惚れてしまった自分が情けない。
 「そういや、あんたねぇ、朝カギ閉めろって言ったけど、あたしカギ貰ってないんだけど」
 なこ姉はビール片手に文句を言う。
 「え、そうだっけ? じゃあ今日は開けっ放しで仕事に?」
 「はっ! 開けっ放しでなんか行ける訳ないでしょ。今日は休みましたぁ」
 この女・・・よくこれで仕事クビにならねぇな・・・
 「あ、そういえば何で小町がココにいるんだよ。親父達も帰ってきてんのか?」
 オレは静かに座っていた小町に声を掛けた。
 「私、来週から兄さんの大学に通うことになったの。だから私だけ帰ってきたんです」
 「おいおい、なんでまた・・・オレの大学はレベルが低いのに」
 小町はなこ姉とオレに比べてかなり頭がいい。
 こいつだけが両親の本当の子供なのではないかとなこ姉と真剣に話し合ったぐらいだ。
 「あら、兄さんは自分の大学のことも分からないのかしら?」
 小町は冷たい視線を向けてくる。
 「大和の大学はレベルは低いけど、ひとつだけ世界レベルのモノがあるのよ」
 様子を見ていた姉が横から口を出す。
 「世界レベル?・・・あ、もしかして『家庭の味学科』とかいうヤツか?」
 「ええ、そうです」
 そう、ウチの大学には「家庭の味学科」という謎な学科がある。
 大学として見ればレベルは低いのだが、この学科だけは世界的に高い。
 「しかし何でまた小町がそんな学科に入ったんだ? お前ならもっと他にあったろうに」
 「まったく、兄さんは何も分かってませんね」
 言いながら小町は持っていたコップをテーブルに置き、こちらに向き直した。
 「いいですか? そもそも『家庭の味』というのは家庭それぞれによって違うものなんです。
 それはどんな素晴らしいシェフでも決して作ることはできない味。
 そんな魅力的なモノに興味をそそられるのは当然でしょう」
 「はぁ・・・そんなもんかねぇ」
 なんだかよくわからんが、結構すごいものらしい。
 「だいたい兄さんは食べ物に関して・・・」
 むぅ、長くなりそうだ(汗)
 「あ、どうでもいいけど今日の晩飯、二人分しかないぞ。小町がいるなんて知らなかったし」
 「別に構いません。冷蔵庫の中のもので適当に作りますから」
 それだけいうと小町は冷蔵庫を開けた。
 「・・・兄さん、これは・・・」
 からっぽ。
 入っていると言えばなこ姉のビールとジュースやお茶ぐらいか。
 「兄さん、いくらなんでもこれは酷すぎませんか・・・?」
 心なしか、小町がプルプルと振るえている・・・
 「そうねぇ、ちょっと酷いわよねぇ」
 「なこ姉に言われたくないよ!」
 結局オレの弁当を小町に譲り、自分はコンビニへひとっ走りすることに。

 「ところで小町、お前はどこに住むんだ? お前までココに住むとか言わないでくれよ?」
 「・・・・・・」
 「・・・住むのね・・・」
 もう驚かない。
 「まあいいんじゃない? 部屋もちょうど3つあるし」
 「なこ姉、たまに口を開いたと思ったらいい加減なことばっかり言いやがって」
 「兄さんは私がいると何か不都合でもあるんですか?」
 小町がまた冷たい視線を向けてくる。
 「や、そういう意味じゃないんだけど・・・」
 「まあ今更ダメだと言われても、もう荷物は運んでありますから」
 「なっ! まったく、誰にことわってそんなことしてんだよ!」
 その瞬間、オレと小町の視線がもう一人の方へと向けられた。
 「・・・やっぱり3人で住んだ方が楽しいじゃん?」
 やはりお前か、なこ姉・・・

 小町は親父からいくらかの生活費を持たされていた。
 3人で暮らすには十分過ぎるぐらいの金だ。
 もしかして、すでに両親は3人で住むことを知っていたのだろうか。
 とにかく、こうして苦難の日々は始まったのだった。

        ( つづく )



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