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   ― メイドさんといっしょ ―





  ――僕は森の中を走っていた。

 「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・・・」

 何かに追われている・・・・・・。

 しかしそれが何者なのかはわからない。

 とにかく逃げなければならない、何故かそんな気がするのだ。
 途端、僕は樹木の根っこにつまづき、派手に転んだ。
 ダメだ! 追いつかれる――


 「浩史様、朝ですよ〜!」


 ――っは!
 ・・・・・・夢、だったのか。
 「おはようございます、浩史様。今日もいいお天気ですよ」

  「ッ!!」

 慌てて声のする方へ顔を向ける。
 メイドの水月が窓のカーテンを開けながら微笑んでいた。
 ・・・・・・そうだった。昨日からこのメイドが一緒なんだったっけ。
 「あ、ああ、おはよう」
 「服はこちらに置いておきますね。朝食の準備もできてますのでお着替えになったらお越しください」
 水月はそれだけ言うと部屋を出て行った。
 「・・・・・・」
 なんとなく悪い目覚めだと思うのは気のせいだろうか。
 寝ぼけ眼のまま、着替えに取り掛かった。

  僕はパンを頬張りながら新聞を読んでいる。
 (お、今日の映画は面白そうだなぁ・・・・・・ビデオ予約しなきゃな)
 「浩史様、朝食はパンでよろしかったですか?それともご飯の方がお好みですか?」
 「(もぐもぐ)ん。僕はどっちでも構わないよ。それより水月はいいのかい?パンで」
 実は水月も僕の目の前で同じように朝食をとっている。
 僕が一緒に食べるように説得したのだ。やはり食事はみんなで食べるもんだと思う。
 水月は初めは納得できなかったようだが結局、今二人で食べている。
 「あら、私のことなんてどうでもいいですよ。浩史様って優しいんですね」
 「ッ!! ゴホッ、ゴホッ。・・・・・・あ、当たり前だろう。作ってもらってるのに文句は言えないからな」
 危うく飲みかけたコーヒーをぶちまけるところだった。それも目の前の水月に。
 その水月は僕の様子を見て微笑んでいる。「大丈夫ですか」の一言ぐらい言ってほしいもんだ。
 「こうして食事ができることに、そしてそれを作ってくれた人に対して感謝の気持ちを忘れない。これぞ武士道」
 そう、僕は意外と武士道、騎士道を重んじているところがある。
 「ふふふっ、そういうことは口に出さないものですよ、浩史様」
 うわぁ、主人がメイドに諭されてるよ・・・・・・。
 「おっと、もうこんな時間だ。行ってくるよ」
 その場を誤魔化しつつ、鞄をつかんで家を出た。
 後ろでは「行ってらっしゃいませ〜」と当然のようにお見送り。


  昼休み。僕は貴雄と昂志と共に昼食をとっていた。
 「どう? 元の家。やっぱり一人は過ごし易い?」
 昂志は肉うどんを食べながら聞いてくる。やはりそうきたか。
 「ん〜、まあ普通かなぁ。別に何も無いよ」
 嘘。家に帰ったらメイドがいて一緒に暮らしてるなんて言えるはずが無い。
 「ホントかぁ? 実はもう家に女の子を連れ込んだりしてんじゃねーのかぁ?」
 「な、なんてこと言うんですかっ! 貴雄と違ってそんなことしませんっ!」
 「お〜っと、動揺してるねぇ。詳しく聞かせてもらおうじゃない、浩史さんよ」
 貴雄は僕の大切な塩サバ定食のサバを取り上げた。
 僕の悪い癖、動揺すると敬語になる。二人はそれを知っていて、あっけなく見抜いたのだ。
 「あっ、おいっ、返せよぅ! それが無いと塩サバ定食にならないだろっ!」
 「ダ〜メ。返してほしかったら白状しな〜♪」

 結局、僕は全てを白状させられた挙句、肝心のサバはボロボロになって帰ってきたのだった・・・・・・。

  「ね、もっと喜んだら? 普通この時代にメイドなんてそういないよ?」
 講義中、うなだれている僕を見かねた昂志が声を掛ける。
 「う〜ん、ま、そうなんだけど・・・・・・」
 確かに水月は可愛いし、家事も立派にこなすメイドだ。しかも僕専属。
 しかしそれは逆に、一人の女の子と同棲しているのと変わりない。
 メイドだから、なんてそうはいかないのが世間ってもんだ。絶対に怪しまれる。

 (でも事実、僕のメイドなんだもんなぁ・・・・・・僕のメイド・・・・・・
  ん? ってことは、もしかして・・・・・・あんなことやこんなことも!?)

 「でさ、今日のお泊り会なんだけど佳介も呼んじゃおうか」
 (ビクッ!!・・・・・・い、イカンイカン。つい変な妄想をしてしまった)
 昂志の声で一瞬にして現実に引き戻された。
 「え? 何だって?」
 「だから、お泊り会。浩史ん家二人しか住んでないから広いでしょ? だから佳介も呼ぼうかって」
 「ああ、そういうことか、別に僕はかまわな・・・・・・ってちょっと待て。まさかメイドが目当てじゃないだろうな」
 「あ、やっぱりわかる?」
 はぁ、こいつらに話すんじゃなかった・・・・・・後悔。
 「わかったよ、勝手にしてくれ。だがくれぐれも言いふらすなよ」
 こいつらはいくら止めても勝手に来ることは分かっている。結局僕が折れるしかなかった。

 そうして、「メイドさんとお泊り会」は決行されたのであった・・・・・・。

        ( つづく )



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