― やっぱりメイド ―
僕はみんなより一足先に帰っていた。「お泊り会」のための準備があるからだ。
家に帰るとやはり水月が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、浩史様!」
「ああ、ただいま。悪いけど今日は友達が3人ほど泊まりにくることになっちまった」
「あら、お友達が? じゃあ急いで準備しなきゃっ!」
水月はそう言うとキッチンでバタバタし始めた。
「あー、在り合わせのものでいいよ。どうせ来る連中はテキトーなヤツらだから」
僕はそれだけ言うと自分の部屋へと上がっていった。
メイド一人に任せるなんて僕にはできなかった。
僕は腕まくりをして、水月の横に立った。
「さて、僕は何をすればいいのかな?」
水月は少し驚いていた。
「あらあら、浩史様はごゆっくりとなさっててください。これは私の仕事です」
「ははは、言うと思った」
すでに水月の言うことは何となくだが予想できていた。
「いくら友達と言えども客だからね、主人がもてなすのは当然。それに水月一人に任せるなんて僕にはできないから」
「まぁ、それは私一人では役足らずということですか!?」
水月は持っていたものを下に置き、僕を正面から見た。
(うっ! この距離で正面から見つめられると・・・照れる!!)
「あ、や、そういうわけじゃなくて・・・」
僕は恥ずかしくなって慌てて目をそらした。
「うふふっ、わかってます。浩史様はお優しい方ですからお手伝いをしてくださるんですよね?」
(か、からかわれたっ!!)
「ごめんなさい♪ それじゃあ、そっちのスープの味を見ていただけます?」
「あ、ああ・・・」
僕はなんだか微妙な気持ちで手伝うことになった。
午後6時。僕は玄関の外で貴雄たちを出迎えた。
決して歓迎と言う意味ではない。注意するためだ。
「いいか、絶対に変な真似はするなよ! 特に貴雄! 頼むから大人しくしててくれよ!」
「ん〜? オレのメイドに手を出すなってか? さすがは『ご主人様』だよなぁ〜♪」
「おおっと、もうメイドさんとそんな関係?」
「何それっ!? 昂志、今の詳しく聞かせてもらえる?」
「こらそこっ! 勝手に話を進めるな! 佳介も乗らない!」
(まったく、僕がいなかったら何を言われてるやら・・・)
「ではでは、早速上がらせてもらいますか!」
そう言って貴雄達はさっさと入っていってしまった。
「いらっしゃいませ! ようこそおいでくださいました! ささ、こちらへどうぞ〜♪」
水月は水月で勝手に家に上げてるし・・・
「さ、浩史様もそんなところに立ってないで早くお上がりになってください♪」
「あ、ああ」
「おおっ! 『浩史様』だってよ〜!」
「ん〜? 今何か言ったかな〜?」
僕は貴雄を睨みつけた。
「あ、いや・・・あはは〜、何も無いです・・・」
「じゃあ水月、悪いけど用意してくれる?」
「はい、かしこまりました!」
そう言い残して水月はキッチンへと入っていった。
「それにしてもホント、メイドなんて珍しいね。メイド服も着てるし。本物初めて見た」
佳介は驚きを隠せないようだった。
ちなみに佳介は貴雄や昂志と同じく高校からの友人で、二人に比べると割と控えめな性格だ。
大学は違うのだが今でも何かと行動を共にすることが多い。
「僕だって驚いてるさ。もうどうしたらいいもんやら・・・」
「とか言って、ホントは嬉しかったりするんじゃないの〜?」
さすが昂志。いつもながら鋭いところを突いてくる。
「・・・・・・ちょっとだけ」
「はっはっはっ、ついに認める気になったか! で? どこまで行ったんだよ、メイドさんと!」
「た、貴雄じゃないんだから何もありませんっ!」
そのとき、料理を持った水月がやってきた。
「失礼しま〜す! お待たせいたしました〜!」
テーブルに次々と並べられる料理に全員驚きの声。
「おお〜っ! これ全部君が作ったの?」
さっそく貴雄が質問をぶつける。
「いいえ〜、浩史様がお手伝いしてくださったので正確には二人ですよ」
(こ、こら水月! 余計なことを言うなっ! そんなこと言ったら・・・)
「ほう! ご主人様と二人で仲良く料理を作ったのね〜?」
「そうですよ〜。休んでてくださいって言ってるのに『水月一人には任せられない』って仰るものですから」
一斉に僕に向けられる冷たい視線。水月に悪気はないんだろうが・・・
僕は絶えられなくなったので、話題を変えることにした。
「ま、まあとりあえず自己紹介といこうか」
それからは水月を交えての雑談が繰り広げられた。
水月が発言すると必ず憎悪にも似た視線が向けられた。
その度に僕は酒を飲んで気づかないフリをしたが、いくら飲んでも一向に酔わなかった。
こうして「お泊り会」の夜は更けていったのだった・・・
( つづく )
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