― 謀 略 ―
お泊り会があってから、数ヶ月。僕は相変わらず生活を送っている。
習慣とは怖いもので、水月の目覚ましにも慣れ、水月が来るより早く目覚めることも少なくない。
しかしこの季節、布団から出ることがだんだんと困難になってくる。
そう、もうすぐ冬だ。
今日は大学が休講なので、朝からかなり暇を持て余している。
テレビでも観ようかとスイッチを入れると、洗濯を終えた水月がやってきた。
「この時期の洗濯はキツイだろ?」
「ええ、でも仕事ですし、これでも結構楽しんでやってますから」
洗濯の一体何が楽しいのやら。
僕らは二人、ソファーに座りテレビを観ていた。
この時間のテレビははっきりいって面白くない。
ニュースを探し、チャンネルをいじっているとある番組で手が止まった。
テレビの中では一人の男が足に板を装着し雪山を颯爽と滑り降りている。 そう、スキーだ。
(スキーか・・・そういや今年は行かないのかなぁ・・・)
確か前回スキーに行ったのは高校の卒業旅行だ。
僕が毎年のようにスキーに行っていたことと、卒業の時期を考慮して誰かが提案したのだった。
去年は確かみんなが忙しくてお流れになった。
「すごいですねぇ、あんな風に滑ることが出来たら気持ちいいんでしょうねぇ」
同じくテレビを観ていた水月が言った。
「ん? 水月は行ったことないの? スキー」
「はい〜、行ったことありませんよ。だから滑れる人にちょっと憧れちゃいます」
僕はそんな水月を見て、ある提案をした。
「スキー・・・行こっか。もうすぐ冬休みだし」
「えっ!? いいんですかっ!? 連れて行ってくださるんですかっ!?」
水月の過剰なほどの反応にちょっと驚いてしまった。
「え、う、うん、いいよ・・・・・・」
僕、ちょっと押され気味。
「水月・・・そんなにスキーに行きたかったの?」
「はい〜、とぉっても! だからあんな風に言っておけば浩史様が誘ってくださるのではないかと」
くっ! 読まれていたっ!!
結局見事水月の策略にハマってしまったのである。
僕は近くにある旅行代理店からスキーのパンフレットをもらってきていた。
ちょっと思いつきで言ってみただけなのに、あそこまで期待されていたとは・・・・・・
水月と二人でスキーに行くなんて絶対に貴雄達には言えないよな・・・・・・
などと思案に沈んでいるうちに家に着いてしまった。
僕はリビングに入り、ソファーに腰をおろす。
ちょうどお茶を入れてきた水月が入ってくる。
「あ、水月、スキーはどこがいい? いろいろパンフレットもらってきたけど」
「う〜ん・・・そうですねぇ・・・って行ったことのない私が見てもわかりませんわ」
それもそうだ。初心者の水月に聞いてどうする。
「浩史様はいつもどこに行かれるんですか? 知っている場所の方が安心して滑れると思いますが・・・」
ナイス案。もっとも心配の種は水月張本人なのだが。
とはいえ、僕自身もあちこちを転々としてきたからなぁ。
初心者でも滑りやすいところで選ぶとするなら・・・・・・やはり高原スキー場か。
「じゃあスキー場は決まりだな。あとは日程だけど・・・やっぱり3泊ぐらいはしたいなぁ」
次々に決定していく項目。それに比例して積もっていく不安。
というのも、以前スキーに行ったときは昂志が初めてで、あちこちに突っ込んでいったのだ。
他の友達も派手に転んだのに、その転び方のために心配よりも爆笑したという過去もある。
いや、心配ばかりしていてはイカン。
「よし、これで決まった! あとは予約を入れるだけだ」
「うふふっ、楽しみですね!」
「あ、そうだ、水月は初めてだからウェアとかいろいろ揃えないとな」
「あら、そうなんですか?」
「おいおい、お前ホントに行きたかったのかぁ?」
「えへへ〜、初心者ですから♪」
先が思いやられます。
「じゃあ明日、予約ついでに買い物に出かけるか」
「そうですね。あ、浩史様とお買い物に出かけるのは初めてですね」
「ん? そう言われれば・・・そうだなぁ・・・」
それもそのはず。いつもは僕が大学に行っている間に水月が済ませているのだから。
「お買い物も楽しみになってきました♪」
別に特別なことはないと思うのだが・・・水月が楽しみにしてくれているのならまあいいか。
それからというもの、水月はスキーの話しかしない。
「水月、そんなにスキーの話ばかりしてると楽しみが減るぞ」
正直うんざりしてきた僕はなんとか話を止めさせようと試みる。
しかし水月は一向に止める気配を見せない。
「いいじゃないですかぁ、それだけ楽しみにしてるってことですよ。それでですねぇ、浩史様・・・」
延々と続く水月の話に僕はタバコをふかしながら「はいはい」と聞くしかなかった・・・・・・
( つづく )
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