― 僕的想定外 ―
「おはよーございます! 浩史様!」
「ああ、おはよう。もう起きてるよ」
今日は何故か早く目が覚めた。というのも、妙に嫌な予感がしてならない。
それに今朝起こしに来た水月の声も心なしかいつもより楽しげだった。
そう、昨日言ったとおり、水月とスキー用品を買いに行く。
何か関係しているのだろうか・・・
「お買い物にはいつごろ行かれますか?」
朝食を食べながら水月が尋ねてくる。
「ん〜、昼からでもいいんじゃないか?」
適当に答えておく。別に大した買い物でもないし、昼からでも十分だと思ったからだ。
「水月、そろそろ行こうか」
「はいっ!」
僕らは車に乗り込み、家を後にした。
目指すは旅行代理店。まずはスキー旅行の予約。
僕は昨日計画したとおりの旨を伝え、無事予約完了。
行き帰りは夜行バスにしておいた。
いくら免許を持っているといっても、さすがに雪道やアイスバーンを運転する気にはなれない。
予約を終えると早速スキー用品店へと向かう。
車を停め、店に入るとスキーシーズンの定番とも言える音楽が流れている。
「よし、まずウェアから見るか」
・・・・・・返事が無い。まるで屍のようだ・・・じゃなくて、水月はすでにウェアの選びにかかっていた。
「あーっ! 見てください、これなんて可愛いですよーっ!」
頼むからあまりはしゃがないでくれ・・・・・・
仕方なしに水月の言うウェアを見ると・・・・・・げっ!! どピンク。それも蛍光色の。
「・・・・・・み、水月、この色はちょっと・・・・・・」
「えーっ! なんでですかぁーっ!? 可愛いじゃないですか、ほら、このワッペンとか」
なんだかよくわからないキャラクターのワッペンを指差しながら水月は言う。
しかしさすがにピンクは嫌だ。隣にいるものとしては。
「いいかい? こんな色はゲレンデの雪の白と重なると目がチカチカするんだよ。もっと落ち着いた色を選びなさい」
適当な理由をつけてやめさせる。
「ほら、こんなのはどうよ」
僕は赤をベースとしたウェアを選んだ。
「あら、これもいいですねぇ。でもこっちの青っぽいのもいいなぁ」
水月は真剣に悩んでいるようだった。
「まあじっくり考えるといい。どっちも水月にはピッタリだと思うし」
「わかりました・・・・・・」
聞いているのかいないのか・・・
「じゃあ僕はゴーグルを見てくるから」
もう返事は無い。
そんな水月を後に僕は別の売場へと向かった。
「このゴーグルは形はいいのに値段がなぁ・・・」
「こっちは安いだけあってイマイチしっくりこない・・・」
僕は珍しく結構悩んでいた。ゴーグルってこんなに高かったっけ・・・
「しかし、ウェアとのバランスを考えるとやはりコレかな・・・」
ちょっと値は張るが、気に入ったゴーグルを買うことに決めた。
自分の買い物は済ませたので水月の様子を見に行くと・・・・・・まだ悩んでいた。
「おい水月〜、まだ悩んでんのかぁ? いくらなんでもじっくり考えすぎだ」
「もう少し・・・もう少し考えさせてください」
まだ考えるのか。仕方なく僕は店内をぐるぐると見て回ることにした。
店を何周か回ったころ、ついに水月が売場から顔を出した。
「ようやく決めたか」
「はい! やっぱり浩史様の選んでくださった方に決めました!」
「そうか、そりゃ何よりだ。じゃあさっさと他の用品を見に行くか」
手袋やゴーグル、靴下、アンダーウェアなどなど、必要だと思われるものは何とか揃えた。
しかし、どうして女の子の買い物はこんなに時間がかかるのか。
水月はどれを選ぶにしても時間をかけ過ぎだった。
店を出るとすでに辺りは暗かった。
車に乗り込み、車内の時計を見るとすでに夜の7時半・・・・・・えっ!? 7時半っ!?
おいおい、一体何時間店にいたんだよ・・・
「今からじゃ家に帰ってたら晩飯が遅くなっちまうなぁ」
「じゃあ急がないといけませんね」
いけませんねって・・・誰のせいだよ、誰の。
僕はしばらく考え、財布と相談。
「仕方が無いなぁ、今日はどっかで食べて帰るか」
「え? でも・・・」
「大丈夫。水月のおごりだから」
「ええっ!?」
「あ〜疲れたなぁ〜、何時間待ったんだっけなぁ〜??」
「うぅ・・・わかりました〜・・・」
実のところ、財布には多少余裕があったのだが、たまにはイジメてみるのもいいかなぁと。
というわけで、水月の金なので水月のリクエストにより回転寿司屋へ。
「ん〜、おいしいですね! ほら、浩史様もどうぞ」
「ああ、ありがと」
おいしいはずだ。ここはこの辺で一番美味い寿司屋だ。
それにしても水月はさっきからハマチばかり食べているような気がする。
僕にくれたのもハマチだ。
テーブルの上に置かれている2つの皿もハマチ・・・・・・
いや、気にするのは止めておこう。
―――――あれ?
「水月、ここにあったイクラは・・・・・・」
「え? あ、浩史様のでしたか? 誰も食べないので私が食べちゃいましたよ」
ぼ、僕のイクラが・・・・・・
「水月ぃ〜、『誰も』って二人しかいないだろぉ〜」
仕方なく再度イクラを注文する。
しばらくして、ようやく手が止まった僕らは最後の皿に手を出す。
やっぱり最後はプリンだよね。
実はこのプリンも店の自家製で人気商品のひとつ。
「はぁ〜、さすがに人気商品だけあってこのプリン、うめぇ〜!」
「ホント、おいしいです〜♪」
こんなに食べたのは久しぶりだ。高く積み上げられた皿。支払いはもちろん水月。
満腹になった僕らはまっすぐ家路についた。
正直、買い物だけでこんなに疲れるとは思ってなかった。
本当にこの先のスキーが心配になってきた。
僕は期待など一切無く、不安だけが積もっていくのを感じながら布団に入った。
( つづく )
← 戻る ←Vol.5へ →次へ