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   ― 二人きり ―





  旅行の準備を始めてから1ヶ月。 ついにスキー旅行出発の日が来た。

 「うわぁ〜、バスがいっぱいですね〜!」
 バス乗り場に到着し、水月が声を上げる。
 「じゃあ、僕は受付をしてくるから、水月はここで待ってて」
 水月に一言声を掛けて受付へと向かう。
 そして無事受付を終えて帰ってくると水月がやたらと周囲を見回している。
 「どうした?」
 「ここにいる皆さんもスキーに行かれるんですかねぇ?」
 「ああ、そうだよ。もっともスキーだけじゃなくてほとんどがボードだと思うけど」
 周りは皆、僕等と同じ世代の人たちだ。
 この年代の人の大体はスノーボーダーだろう。
 僕は昔からスキーをしているので、スキーしかしたことが無い。
 「カップルが多いようですけど・・・」
 「そうだな」
 言ってから気づいた。僕等だって男一人に女一人。
 やはり傍から見ればカップルに見えるのだろうか。
 ・・・・・・まあ悪くないか・・・・・・いや、むしろそっちの方が・・・・・・
 おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
 「僕等の乗るバスは41号車だ。行こう、水月」
 水月は「はい」と短く答え、荷物を持ってついてくる。

 バスにはすでに半分ぐらいの人が乗っていた。
 僕等も必要な荷物を持って座席に座る。
 当然隣は水月だ。
 僕は水月を窓際に座らせ、自分は通路側に座る。

 しばらくすると、バスが発車した。
 水月はさっきからソワソワして落ち着かない。そんなに楽しみなのだろうか。
 「おい水月、楽しみなのは分かるけど、少し落ち着きなさい」
 「う・・・はい・・・すみません・・・」
 これで少しは落ち着いたか、と思いきや、今度は喋り出した。
 「私、興奮して眠れそうにないです〜♪」
 ひたすら喋る水月。適当に返事をしている僕。
 僕まで寝かせてもらえないのだろうか・・・
 バスは数時間置きにサービスエリアで休憩の時間をとった。
 そのたびに水月はバスを降り、売店を見て回る。
 珍しいものを見つけるとすぐに「お土産♪」と言って買おうとするので止めるのに必死だった。

 二つ目のサービスエリアを出発してしばらく、いきなり左肩が重くなった。
 見てみると、水月が眠りこけていて僕の左肩に頭を乗せてすぅすぅと寝息を立てている。
 どうりで、やけに静かだと思った。
 「なんだよ・・・眠れそうにないんじゃなかったのかよ・・・」
 僕は起こすのも可哀想なので、結局そのままにしておいた。
 よく考えると、水月の寝顔を見るのは初めてか。
 家では別々の部屋だし、起きるのはいつも水月のほうが早いし。
 こうして見ると、水月はキレイな顔立ちをしている。
 綺麗とも可愛いともとれる顔だ。
 貴雄や昂志たちが「水月、水月」と言う理由もわかる。
 しばらく水月の寝顔に見惚れていると、僕も眠たくなってきた。
 その後、水月はサービスエリアに着いても起きることは無かった。
 他の乗客の刺さるような視線が痛かったが、動くことが出来ないのでどうしようもない。
 っていうか、正直、動きたくない(爆)

 どれくらい眠ったのか。目が覚めるとすでにあたりは明るかった。
 時計を見ると、午前7時30分を回ったところだった。
 もうすぐ到着だ。
 しばらくすると水月が目を覚ました。
 「うぅ・・・おはようございますぅ〜、浩史様ぁ〜・・・・・・っは!」
 水月は自分の体勢に気づいたようだ。
 「す、すみません、浩史様っ! 私ったら・・・」
 水月は急いで体勢を整える。
 「はははっ、いいよ、寝顔も見れたしね。」
 「もう・・・浩史様のいじわる・・・」
 赤くなって俯く水月。
 ふと気づくと、すでにバスの乗客は半分近くいなかった。
 どうやら他のバス停で降りていったようだ。
 そして僕等がバスの中で朝食を食べているうちに目的地に着いた。

 「ひゃ〜、寒〜い!」
 水月の第一声。
 バスの中で体が温まっていたため、外に出ると一層寒く感じるのだ。
 僕らはバスから荷物を降ろし、ホテルの前に降り立った。
 さっそく中へ入り、カウンターで荷物を置く場所を聞く。
 チェックインは午後3時なので、それまでは別の部屋に荷物を置く。
 僕らは荷物を置いて着替え始める。もちろん水月はトイレかどこかで着替えている。
 準備の整った僕らはスキーセットを借り、早速ゲレンデへと出た。
 このホテルはゲレンデに隣接している。それもこのホテルを選んだ理由の一つだ。

 僕はさっさとスキー板を装着し、滑る準備は万端だ。
 一方水月は少々てこずっている。
 「うぅっ、靴が板にはまらないんですけど・・・」
 困っている水月は面白い。もうしばらく見ていようか。
 「う〜ん、おかしいなぁ・・・浩史様はこうやって着けてたのに・・・あれぇ・・・?」
 「えいっ・・・ダメだぁ。浩史様ぁ、見てないで助けてくださいよぉ!」
 ついに音を上げたか。仕方ない、助け舟を出すか。
 「水月、足を上げてごらん。ほら、靴の裏に雪がついてる」
 僕はストックで雪をはらってやる。
 「えっ?・・・・・・(カチッ)あ、はまった」
 水月はもう片方の靴の裏の雪をはらい、やっと板を装着した。
 続いて、ストックを持ち、準備は整った。

 よしっ! いざ出陣だっ!!

        ( つづく )



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