― 戦闘開始 ―
「とりあえず、リフトで上まで行こう」
準備体操を終えた僕達はリフトに向かって滑り出した。
といっても平坦な道なので歩くように滑る。
僕は慣れているのでサクサク進むのだが、水月はどうしても上手く進まない。
結局、ぺったんぺったんと足を上げて歩いている。
仕方なく僕も水月のスピードに合わせ、やっとのことでリフトに到着。
水月と二人並んで乗り込む。
「はぁ〜、もう疲れちゃいました・・・」
「えっ!! もうっ!?」
「それにしてもちょっと怖いですね・・・リフトって・・・」
水月は恐る恐る下を覗いている。
しばらくして頂上に到着。水月も上手く降りることができたようだ。
問題はここからである。
「じゃあ水月、まずは基本を教えます」
「よろしくお願いします、先生♪」
水月はそう言ってちょこんと頭を下げる。
む、『先生』か・・・悪くない響きだ。
僕はちょっと嬉しくなって説明を続ける。
「まず、足をハの字にするんだ。これさえ出来ればどこだって滑ることが出来る」
僕は自分の足をハの字にして手本を見せた。
水月も真似をしてハの字にする。
「あとはエッヂを効かせてこういう風に体重を移動させる」
といって僕は片方ずつに体重をかける真似をする。
水月は「はい」と真剣に見ている。
「では実際に滑ってみるのでよく見ておくように。下で合図したら水月もおいで」
僕は下へ向かって滑り出した。
「左に体重をかけると右に曲がる、右に体重をかけると左に曲がる・・・」
言いながらジグザグに滑っていく。
途中まで滑り降りて、振り返って水月を呼ぶ。
「いいよー! おいでーっ!」
水月は頷き、滑り出す。すでに腰が引けている。
慎重に滑っているのか、トロトロ滑っている。ここに来るまでに何分かかるだろう。
あ、こけた。でもすぐに立ち上がって滑り出した。
「よし、いいぞ! その調子だ!」
水月がようやく僕のいるところまで辿り着いた。
「いざやってみると結構難しいもんですね、スキーって」
「はははっ、そうでもないよ。水月はもうちょっと体重をしっかりかけるといい」
そういって残りのコースも滑り出す。
今度は水月が前で、僕が後ろから滑ってサポートする。
水月は恐々と滑っているが、いい感じである。
と、その途端、水月は盛り上がった雪に足をとられ、尻餅をついた。
そのまま立ち上がるかと思いきや、尻餅をついたままの状態で滑り出した。
「きゃ〜! 止まりませ〜ん!!」
座ったままで直滑降しているしているのでだんだんと速度が上がる。
僕は急いで水月の前に滑り込み、自分を盾にして水月を受け止めた。
「大丈夫か?」
「んっ・・・はぁ〜、ちょっとビックリしました・・・」
水月はそう言って僕の差し伸べた手を取り、立ち上がった。
「ここはたくさんの人が滑るから跡が残ってるんだよ」
「そうなんですかぁ・・・じゃあ気をつけないといけませんね」
水月は雪をはらいつつ言う。
「ああ、そうだな。でもその跡を辿ると滑りやすいんだ」
「あ、なるほど」
言って水月はまた滑り出し、僕もその後を追う。
そうして、なんとか元のリフト乗り場まで着くことができた。
その後も水月は相変わらず転ぶことが多かった。
まあ初めてだから仕方ないか。
それにしても、水月の上達は早いほうだった。
ボーゲン(ハの字)での体重移動も結構上手く出来てる。
「水月、時間ちょっと早いけど、昼飯にするか」
今の時刻は11時30分。もう少しするとレストランが混み始めるので今ぐらいがちょうどいい。
「そうですね、私もうお腹ペコペコです〜」
「ははっ、頑張ってたもんな」
僕等はいつも僕が行くレストランへと入っていった。
「ここはハンバーグ定食が美味いんだよ」
「あら、そうなんですか? じゃあそれにしようかなぁ」
二人分の定食を注文する。
水月は運ばれてきた水を一気に半分ほど飲み干した。
「ふーっ・・・もうくたくたですぅ・・・」
そう言って水月はテーブルにぱたんと突っ伏した。
「ええっ? まだ昼だぞ? まああれだけ頑張れば疲れもするか」
「ううっ、滑るだけだと思ってスキーを甘く見てましたよ・・・」
突っ伏したまま答える水月。
「そうだなぁ・・・まだもうちょっと力が入りすぎてるかな」
「ほへっ? 力を抜いたらそのまま滑って行っちゃいますよ〜」
水月が言い終わると同時に注文した定食が出来上がった。
二人、合掌して「いただきます」と声を合わせて食べ始める。
「スピードを怖がっちゃダメだよ。ある程度スピードがでないとね」
「わぁ、このハンバーグ、ホントおいし〜♪」
「あ、ああ、そうだろ・・・」
ハンバーグによって話の腰が一瞬にして折られた・・・
「あ、そういえばまだ浩史様の滑るところを見せてもらってませんねぇ」
「あれ? そうだっけ?」
もっとも、見せるようなものでもないのだが。
「これは是非とも見せてもらわないと」
水月が少しいたずらっぽい視線を向けてくる。一体何を期待しているのか・・・
「はいはい、わかったよ。じゃあ飯食ったら見せてやるよ」
僕らは定食を食べ終わり、少し休憩するとまたゲレンデへと向かって行った。
「よし、じゃあ滑ってくるから」
約束してしまったものは仕方が無い。
「はい〜っ! バッチリ見せてもらいますからね!」
・・・なんか滑りにくいなぁ。
リフトで頂上に上がった僕はゴーグルを付け直し、いざ滑り出す。
ここのゲレンデは長めなのだが、上級者コースを通れば1分ほどで戻ることが出来る。
僕はいつもの調子でノンストップで滑りきった。
最後はエッヂを効かせ、水月の前でピッタリと止まる。
「ふ〜、どうよ」
僕にとってこれぐらい何ともない。むしろ物足りないぐらいだ。
「・・・・・・・・・・・・」
水月は僕の顔をじっと見たままぼーっとしている。
「? 水月? おーい」
目の前で手を振ってみる。
「おい、水月? どうした? もしかして、僕に惚れたか?」
「・・・はい・・・少し惚れちゃいました・・・」
「え・・・」
僕の顔が赤くなっているのが自分でわかる。
どんどん惚れてもらって結構なのだが、こう面と向かって言われると正直照れる。
「・・・・・・浩史様って・・・すごいんですね・・・」
「は・・・はっはっはっ、そうだろう、すごいだろう」
僕は半分照れ隠しで赤くなりながらも「えっへん」と胸を張った。
ふと自分の滑ってきた跡を見ると、思ったより綺麗なシュプールが描かれていた。
「私、早くも挫けそうです・・・」
そういえば、水月はバスの中で
『浩史様より上手に滑れるようになって追い抜いて見せます♪』
とか言ってたっけ・・・
「水月も練習すればこういう風に滑れるようになるよ」
それからというもの、水月は猛練習を繰り返した。
といっても、初めての人が初日でそう上手くなるものではない。
それもスクールのコーチではなく僕が教えてるんだし。
そうしているうちにリフトが止まり、初日の特訓は終了した。
( つづく )
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