其の五
よく喋る友がいた私、しかしある日忽然と喋る事をやめた友がそこにいた。私の質問に対して最低限の回答しか返さないようになってしまった。彼のあの流暢な喋りが無い教室・・・そこには眠気以外の何者も存在しない。睡魔に敗れて現世から夢の中へ去っていく人たちを見つつ、私も♪夢の中へ・夢の中へ・行ってみたいと思いませんか?♪状態になり、気づいた時には、目の前に先生が仁王立ち。寝ていたはずの人たちはまじめにお勉強をしている状態を確認後、恐怖感,さらに絶望感と戦わねばならない。仁王立ちもまだ良いほうで、サウスポウから繰り出される150キロ級のチョーク攻撃が右こめかみにヒットした時、私は保険証を持ってきているか確認する。彼のせいだ・・・夕日がまぶしい放課後の教室、先生と二人で愛の・・・。
次の日、彼が蜂蜜をなめているのを発見した。君は蜂か?と、まずべたなつっこみ。「俺・・・口の中が火事だ!」そういってまた黙る。その瞬間・・・あいつ、口内炎ちゃうか?という感情に襲われた。彼の口癖「もっこり」も冴えない。彼はバカだ。ラーメンにからし高菜をたっぷり入れて食していた。そして案の定、もがき苦しんでいた。私は、彼の人生が決してへいたんなものではなかった事をさとった。彼の背中から私はそう判断した。そう、人間の意思伝達手段はなにも口だけとは限らない。ときに背中が語りかけるものだ。
彼の背中は♪だばだーばーだ・だばだ・だばだ・だばだ・だばだ・だー♪(コーヒーのCM)そういっていた。
違いの分る男なんだ・・・私はさらに彼を見直した。実は昔、彼が体育の時間に必死で四つ葉のクローバーをさがしていて、私が「三つ葉とどう違うの?」と聞くと、「‘まっか’って言葉と‘まっかっか’っていう言葉があるだろう。それくらい違うのさ!」といった。そのとき私は、こいつ・・・母の愛より深い男だ・・・そう思ったものだが、今回はそれ以上の衝撃を受けた。そして、彼は四つ葉のクローバーとともに、体育教官室に去っていった。
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