| 10月5日 バカ。
最近思う事は、この歳になってわかってきた事が沢山あるという事だ。かつては「大人の言っている事なんて全然わかんねえヨ!」と思っていた事が、「やはり大人の言っている事は正しかったのだ」と思えるようになった。それもその筈、大人だって昔は子供だったのだから、当然である。子供の時はそれが理解できていないから、変な葛藤等があった気がする。それは僕が特にバカな子供だったせいかもしれないが、いや、抜きん出てバカな子供であったと胸を張って言える。バカでカワイイとかそういうレベルではない、正真正銘、誰が見てもバカだったのだ。不良でバカとかそういう次元ではない。確かに不良だがそれは不良品という意味合いでの不良である。ヤンキー等そういった所謂ワルの類ではない。確かにワルだったが、それは頭が悪いという意味でのワルである。昔不良で、ワルをやった事を武勇伝調に話しているとか、そういうことではない。例えば犬の糞をつついて喜ぶレベルの正真正銘のバカ。レジェンドオブバカ。トゥルーバカだったのである。
「バカバカ言わないで頂戴!」
突然、僕の中のバカが立ち上がり怒鳴った。バカの肩は怒りで震えていた。
「アンタ失礼よ、バカのくせして!」
バカは地団駄を踏みながら自分に向かってバカと言ったので、僕は諭すような口調でバカに向かって語りかけた。
「さすが、君は賢い子だね。僕はバカだからバカっていうんだよ。そしてそのバカは君でもある」
「あらそう。ならいいわ、許してあげる」
バカは自分のスカートの裾を靴で踏んでいるのに気付かず座ろうとして、後ろにステーンと転んだ。
スカートの中から毛むくじゃらの足が覗き、目のやり場に困った。紳士としては、スカート中をマジマジと見る様なことは避けねばならない。こういうハプニングの場合、目を逸らすべきである。だから僕は手で目を覆い、その間から毛むくじゃらの足ををチラ見して興奮しながら言った。
「それに自分の事をバカって言ってるヤツは本当は凄い頭がいいらしいよ」
「キャッ!それ本当なの?ウキウキするわね。じゃあバカでいいわ!あたしバカとっぴぃー!」
バカは転んだまま手足をバタバタさせて喜んでいた。バカが喜んでくれて、僕も嬉しくなった。
「あたしバカなの!ヤホウ!」
寝ころんだまま手足をバタつかせながら、すごい勢いで崖から落ちていった。おそらく、助からないだろう。
と言うわけで今日からボクは天才ということで四露死苦ー(ものすごく投げやりに)
10月9日 イマジン。
第5次胃が悪い宣言を発表した僕の胃。言うことを聞かず、夜飯を食おうものなら100パーセントの確率でもたれるこの胃。胃薬なしではやっていけないこの体。なあ、貴様は本当に困った臓器だな、と、腹をさすりながら呟きつつ、一生付き合わねばならないこの胃もたれ具合を考えた。
だが、いくら考えたところで何かを食べたからもたれるという状態に変わりはない。考えたところで所詮僕の胃はもたれるのだ。それどころか考えるという行為自体がストレスを生み出し、そのストレスが胃にダメージを与えているという可能性すらある。そこで僕は、まずストレスを与えないためにも考えるのをやめた。考えなしに行動するのである。これが意外と素晴らしい。例えば考えなしに行動したとして周りに迷惑をかけたとしよう。だが僕は考えがないのだから屁でもないのだ。屁でもない……屁!?屁……ええっと、屁ってなんだったかな。屁……屁……。まあいい、とにかく屁なのだ。
(屁はクサーイ。クサイクサイは屁ー)
突然僕の頭の中に、歌の歌詞のような「考え」が浮かんだ。
(クサイクサイ屁ーは、君のモノー)
「考え」は、美しいメロディを奏でながら僕の脳の中を駆けめぐる。美しいメロディに美しい詩が乗り、まるで争いのない世界、天国のようだった。
(屁&Peace 屁is the answer)
そう、屁は答え。皆が皆、屁ばかりしていたら戦争は起きない。
僕の大好きなジョンが夢想した世界はきっとこんな世界だったのだ。
(屁magine all the people living life in peace...)(そのまま思考ストップand die)
※ジョン=ジョン・トラボルタ
10月13日 憂鬱祭り開催中。
やらねばならないことをほったらかして、ただ時間が無駄に過ぎていくのを眺めているだけの毎日。仕事に打ち込めばその分また時間は高速で過ぎ、ボンヤリとしていたら気ばかり焦る。そして季節の変わり目。冷たくなりつつある空気の中、信号待ちで目の前を通り過ぎていく車をボンヤリ眺めていたら、なんだかちょっと挫けてきている自分を見つけてしまった。「あら僕、落ちてるわ」と。
こうして、今年も秋の憂鬱祭りが始まった。わっしょいわっしょい憂鬱祭り。
憂鬱祭りとは、憂鬱達が集まる憂鬱な祭典である。
誰もが皆憂鬱なので、やる気のかけらも見られないのが大きな特徴だ。神輿の担ぎ手全員が重苦しいため息を吐きながら、陰鬱な空気に包まれた神輿を嫌々担ぎつつ、自殺が多い電車、中央線の踏切を往復する。神輿は「ツタが伸びて絡まる系」の憂鬱な植物にびっしりと覆われ、既に何を担いでいるのかさえ不明である。何が隠されているかという不安がまた、憂鬱具合に拍車をかける。
「わっしょい、わっしょい」の代わりに「忘れない、忘れない」という意味不明のかけ声で全員が神輿を揺らしながらゆっくりと踏切を渡る。神輿は揺すられるたびに「ギィギィ、ニャアー」と不吉な音を立てるので、さらに憂鬱な雰囲気になる。
そのうち、神輿の担ぎ手達が何やら口論を始めた。口論は殴り合いへと発展したので、神輿を放り投げて全員で止めに入る。原因は「メッツの新庄が日本に復帰するのかどうかについて」という内容だった為、満場一致で憂鬱になる。その内中央線がやってきて放り投げておいた神輿にぶち当たり、それを粉々に砕いてしまった。砕かれた神輿の中からは、どう考えても存在し得なかった十数匹の黒猫が飛び出し、方々に散っていったのが、また憂鬱だった。
「今の見ました?俺、神輿からニャアって聞こえた時点でおかしいなって思ってたんですけどね。ってかみんなもう帰った方がいいですよ、多分呪われてますもん、みんな。貴方なんてちょっと息とか臭いし、死が近い証拠ですって」
かつては一流企業でバリバリ働いていたが、盗撮で捕まり解雇され、今は内職で生計を立てている27歳の若禿盛り、重工業坂重治(じゅうこうぎょうざかしげはる)が気分の悪いことを言い放って帰ったので、皆、憂鬱になった。
憂鬱祭りはまだ、始まったばかりなのだ。
10月20日 憂鬱な日々。
ああ、後十日もすれば十月は終わり、それから二ヶ月が過ぎれば今年ももう終わりなのか。などという事を考える間もなく仕事に没頭していた。ここへ来て僕は自分の変化を感じた。かつては時の流れに逆らおうとばかりに必死にもがいていた様な気がするが、今の僕はどうやら違う。
時間は流れる。それはあたりまえの事であり、そんなあたりまえの事を、僕は気づかずにいた。
鏡に映った自分の顔を、久しぶりにじっくりと見てみた。そこには疲れ顔の僕がいた。僕は自分に語りかけた。
「おまえ、老けたなあ」と。
鏡の中の僕が「おまえこそ」と言った様な気がした。
「いやあ、私なんて気持ちだけは20代ですから」
と、貞治さんが笑いながら言った。
貞治さんがリストラにあったのは去年の夏である。失業給付金の支給は先月で終わり、今は職安に通いながら日雇いの仕事をしている。サラリーマンを30年続けた貞治さんにとって、工事現場の仕事は心底辛いはずだ。当然保険などないので、現場で怪我などしたら死活問題になってしまう。それでも、毎日筋肉痛に悩まされながら、また現場にでかけていく。時には仕事をもらえない日だってある。本当は泣きたいくらい辛い筈なのに、貞治さんは笑顔だった。自嘲?諦め?イヤ違う。そんな卑屈な笑みではない。この人は心の底から笑っている。なぜ、この人は笑っていられるのだろう。その前に、貞治さんって、誰だろう。
こういうことは本人に聞くのが一番早い。僕は直接聞いてみることにした。
「貞治さんは誰なんですか?」
「私は気持ちが20代の、50男ですよ」
「そうだったんですか。ところで、お帰り願えますか?」
「いやいや、新聞取ってくれるまで帰りませんから」
"貞治新聞"という、貞治さん手書きの新聞を3ヶ月契約で取ってくれと言う。試しに読んでみたが、記事の内容は主に僕が知らない人の悪口だった。「あいつは死に値する人間」「死ねばいい」「人間のクズ」「ゴミ虫」というような呪いの言葉がびっしりと詰まっていたので、僕はまた、憂鬱になった。
つづく
10月28日 ニキヴィ。
僕はあまりニキビなどが出来ない体質なのだが、今朝、口元に激しいニキビができていた。その激しさといったらかつて僕が体験したことがない特Aクラスの鬼ニキビで、やたらと派手に赤く腫れている上、痛みを伴っている。
なんの前兆もなかったのに、朝起きたらいきなり痛かったので正直腹が立った。なぜ、ニキビは前もって僕に教えてくれなかったのだろうか。
ニキビだけではない、僕は全てのことにおいて心の準備というモノが必要な柔軟性に乏しい人間なのだ。ニキビは僕の体に、僕の意志とは関係なく勝手にできるのだから、僕の事に関しては僕以上に詳しい筈なのだ。だからこそ、僕にとって心の準備というモノがいかに大切であるかニキビは知っていた筈である。The bi-kini must have known.
にもかかわらずいきなり出来たということは、これはキビニが、僕を困らせようと狙ってやったに違いない。なんという卑怯な手口だ。僕はそんな手口にまんまとひっかかり、見事に苦しんでいる。これはもう、許すわけにはいかない。僕はキビニンの汚いやり方に憤慨した。「僕の心の平安を乱した罪は重いぞキビーニン!」
僕は怒り狂い、涎を垂らしながらビキニンの事を殴りつけた。ビュウという風を切る音が響き、僕の右のこぶしが僕の口元に激しく叩きつけられる。
次の瞬間、「ギャン!」という短い叫び声をあげて僕は床に転がった。まるで雷に打たれた様な気持ちだ。これが痛みなのか。僕の心の痛みだというのか!なんということだキビンニン。貴様はこんなにも僕の心を苦しめたのか!
僕はもう一度、右こぶしで僕の顔面を殴りつけた。僕は吹っ飛び、地面にチス(kiss)をした。
痛い、痛いよ。これが生きてるってことなのかビキニ。俺、生きてるよビキニー!
そう、それが生きてる証拠だビキ、ユーアーアライブ!
「ハハハ!ありがとうビキーニ!俺今、幸せだ!」
その幸せをいつまでも忘れちゃダメだビキー、ビキー、ビキー、ビキー(半泣きでキーボードを叩きながら(現世から)フェードアウト)
|