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11月8日 男性。

最近、不動産のセールスマンが頻繁に来るようになった。彼らは口を揃えて近所に建てている新築マンションを買ってくれというのだ。
僕は玄関先で最初やんわりとお断りする。「そういう予定はないんで、他あたってください」と。
それで大抵のセールスマンは帰っていく、のだが、先日来たセールスマンはそうではなかった。いつもの様にドア越しに予定はないと言い、お引き取り願おうとしたところ、「息子さんですか?」と失礼な物言いをされたのだ。
確かに建物はファミリー向けの建物に見える。僕以外は若夫婦や、小さい子供がいる家族が住んでいる。しかし、仮にもこの家の主(あるじ)であり、世帯主(家族数約一名)のこの僕に向かって、息子さんですか、はないだろう。
確かに僕とて息子さんと一緒にいる。いや、愚息と生活を共にしている。しかしそれはセールスマンとて同じ事、彼など愚息と共に僕の家のチャイムを鳴らしているのだ。
つまり世の男性ほとんど全てが愚息をだらしなくぶら下げたまま、「政治がどうの」「ビジネスがどうの」などともっともらしい顔をしてのたまっていることになる。さも知ったり顔をしているが、結局は愚息をぶらさげており、また、愚息によって彼らは支配されている。
そんな愚息に支配されし不動産のセールスマンに、僕は息子さん=愚息、すなわち男性性器呼ばわりされたのだ。これは黙っていられるはずがない。
僕はドアを勢いよくあけ怒鳴った。
「貴様!人をチンポコ呼ばわりするとは何事だ!」
セールスマンはそんな事を言われるとは心外だ、とでも言いたげな顔で僕を見ていた。
「そんな性器を見るような目で人を見るな!」
僕はさらに怒鳴りつけた。それから僕は、自分が全裸でいることに気が付いた。そう、僕は家の中で全裸で過ごしている事が多いのだ。
こいつは困ったことになった。全裸で怒鳴っていてもちっとも迫力が無い上、かなりみっともない。僕はだんだん恥ずかしくなってきた。ついでに面倒臭く、さらに寒くなってきたので部屋に引っ込みたかったが、引くに引けないので勢いで誤魔化すことにした。
「ああそうさ、確かにこれがお前の言う息子さ!可愛いだろう、愛くるしいだろう!ほら、俺はこうやって毎日可愛がっているんだ、おお、よしよし!おお、よしよし!」
僕はそう言いながら愚息をなでた。
「おお、よしよし!おお、よしよし!」
そしてそのまま後ろを向いて、泣いているのがバレないようにそっと、扉を閉めたのだった。愛でたし、愛でたし。

11月14日 ローリングサンダー。

舌を噛んだ。かなりの勢いで舌を噛んだ。クッキーを貪り食っていた時、クッキーと一緒に舌を凄い力で噛んだ。これはもうあれか、死ぬのか、死ぬのかワシは、と思うくらいの勢いで噛んだ。口の中に激痛が走り、鉄の味が口いっぱいに広がった。
あえて大げさに痛がった。「あぎっ!」と声をあげ、椅子から転げ落ちて床をゴロゴロ転がった。口の中がFeの味でいっぱいだ。大げさにゴロゴロ転がりながら、ワシは死ぬのか、と考えていた。死ぬと言うことはどういうことだろう、と、僕は死について考えながら転がり続け、そしてこの低い視点から女性のスカートの中を覗こうと企んだ。
うむ。このまま転がり続ければ、いつかは女性のスカートの中を覗けるに違いない。よし、ならば僕は転がり続けよう!僕はローリングサンダー、ローリングサンダース軍曹だ。
ローリングサンダース軍曹はそのまま器用に転がりながら家を出た。家の鍵を閉めようと思ったが、転がったままでは鍵をかけられない事に気づき、立ち上がってから鍵を閉めた。鍵を閉めながらピッキングされたらイヤだなあ、という事を考えていた。何かもう一つ、ピッキングされにくい鍵でも付けようかしら。最近この辺も物騒になって怖いわ、ちょっと旦那と相談してみよう、と、若妻にでもなったつもりで考えた。そしてそのまま普通に歩き、駅へと向かった。
駅へと向かう途中の道でスカートの女性を見つけたので、ローリングサンダース軍曹はローリングを始めた。これ以上ないくらい美しいローリング具合だった。あっという間に女性の足下に近づくと、これもまたこれ以上無いくらいの美しい角度でアゴへのキックを入れられた。美しさVS美しさ。どちらも眩しく、甲乙つけられない結果となったが、軍曹は舌どころかアゴが砕けてしまったのでここでゲームオーバー。軍曹は戦意を喪失し、実家に帰ってしまった。
後に残ったのは、舌の痛みだけだった。

11月22日 バイオレンス。

どうしても仲良くなれないタイプの人間というのがいて、そしてそういう人間ともうまくやっていかなければならないのが組織というもので、そしてその組織の規模が小さければ小さいほどそれには苦労が伴うものなのだ。
とは言うもののどうも僕はソイツが苦手で、あまりうまくやっていく気もない。ソイツは僕より年上の後輩で、わざとじゃないかと思うほど僕らの足を引っ張るのだ。そして注意をしなければならない状況が訪れた際、僕はソイツが嫌いなので、どうしてもイヤな感じの口調になってしまう(みたいだ)。年下に注意されるのが気に食わないソイツも喧嘩腰で言い訳ばかりするから、僕らの間に戦争が勃発する。まさに一触即発、先日は殴り合いに発展する寸前まで行った。寸前まで行き、でもやっぱりダメ。お酒の勢いを借りてとかそういうのはダメなの、この仲を大切にしたいなら、今日はごめん、朝まで付き合うからね。と中には入らず、喫茶店で朝を迎えた。
明け方のホーム、彼は少し疲れた顔で電車に乗った。心なしか背中が寂しそうに笑った気がした。
自分勝手と言われればそれまで。でも軽い女と思われたくなかった……という訳でもない。最早そんなイメージなどどうでも良くなっていた。ただ自分自身が納得できる形で彼と結ばれたかった。少しでも不安や後ろめたさがあるうちに、そういう事をするべきではない。
確かに昨夜はお酒を飲んで楽しく話していたら、そうなっても良いかな、という考えが浮かんだ。夜も更けだした頃、話をする彼の目から牡特有の獣じみた衝動がにじみ出したのを私は敏感に感じ取った。身をゆだねてみるのも良いかもしれない、その時はそう思った。
しかしいざホテルに入ろうと思った矢先、彼の付き合っているという女の事を思い出し、ついでに何やら話が完全に脱線している事を思い出した。なんだ軽い女って。なんだ身をゆだねてみるのも良いって。
確か僕は喧嘩がどうのとかそういう話をしていたはずなのに、仕事の愚痴を書いていたはずなのに、なんなのコレは、どいういうつもりなの!この酷い仕打ちは一体何!何様のつもり!キーッ!!
と僕が相手の髪を引っ張ったら、相手も「あんたこそ何よ、男に媚びばっかり売って!」と言い返して爪を立てて来たのでさあ大変!女の喧嘩って醜いワん!(金玉の位置を直しながら)

11月28日 いざ、墓参る。

家族揃って墓参りに出かけるなんてもう十数年ぶりだ。大体、家族揃って最後に出かけた事すら十数年前なのだ。
先日、祖父母が眠る富士の麓にある霊園に墓参ってきた。久しぶりに家族揃って出かける状況で気まずさも生じるのではと思ったが、たまには良いだろう、と張り切って出かけたのである。そう、僕の家庭は軽く崩壊していたのだ。
たとえば僕の父は明らかに前会った人とは違う人だし、母など僕より5歳も若い。弟はそり込みを入れすぎてハゲている様に見えるし、妹の上着はベティ・ブープがプリントされている。そして兄は熱心な宗教家で、姉は外人だ。姉婿は黒人でガタイがやたら良く、兄嫁は霊感体質だ。妹の婚約者はチャゲ&アスカの熱烈なファンで、弟は常にナイフをちらつかせている。僕はそんな家族の中心となり、その全然まとまりのない連中を一つの墓に向かわせた。
しかし霊園は広く、僕はどの墓が祖父母のものだか解らなくなった。彷徨っているとその内、姉が苛立ち始めた。「ヘイ、ボーイ!墓参らないならあたしフィリピンに帰るヨ!」
それを聞いた妹の婚約者が口を開いた。「まあまあ、勇気だ愛だと騒ぎ立てずに、その気になればいいじゃないですか」
すかさず弟がメンチを切りだし、光るものを姉婿の黒人にちらつかせ出した。兄嫁が「この辺りは悪いものがいるわね」と兄にささやく。兄はそれを受けて何かを唱え始めた。父の姿は既に無く、母はやはり、年下だった。そうこうしていると姉婿の黒人と弟と喧嘩を始めたので、僕は間に入って仲裁した。
やがて妹が見つけてきた墓は名字からして祖父母のものではなかったが、僕らはそこに花を供え、とりあえず手を合わせることにした。
誰一人として血が繋がっていないとは言え、やはり家族は良いものです。おじいちゃん、おばあちゃん、久しぶり。俺、こんなに大きくなりました。
僕が目を瞑り、他人の墓に手を合わせていると後ろで弟と黒人が殴り合いを始めたので、また僕が仲裁に入った。
その際、弟のナイフでちょっと切られたが、まあ大丈夫。兄が何やら唱えてくれ、兄嫁が手をかざしてくれたら不思議と痛みは治まった。
妹の婚約者が「お兄さん、傷つけられたら牙を剥いた方がいいですよ、自分をなくさぬ為に」と助言してくれたので僕は、 「まあ、その内にね」とだけ答えた。
帰り際、父を捜したがまた蒸発したようだったので母は寂しそうだった。が、すぐにベンツに乗った身なりの良い男が母を迎えに来て、僕らとは別に帰っていった。
帰りの車の中で、兄嫁が将棋の羽生名人に似ている、と思った。そして相変わらず弟はハゲているように見えた。
家族で出かけるというのも、たまには良いもの

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