戻る

2月3日 会話がかみ合わない。

日曜日、会社の先輩がPCを買うというので秋葉原まで出かけた。この先輩、PCを買うのは始めてなので、僕に色々アドバイスして欲しいのだという。
「大したアドバイスは出来ませんが、それでも良ければOKです」と言いながら、指で円を作るオッケイのジェスチャーをするフリをして、手のひらを上に向けそれとなく金銭を要求した。「自分は安くないんで」と小さく呟き彼の車に乗り込む。
車の中で、どんなヤツが良いのか、と聞かれたので、僕は「優しいヤツっすねー」と答えた。僕は優しい人が好きなのだ。
「いや、パソコンのことなんだ」と、普通に返されたので僕のほうが怯んでしまった。どうもこの先輩とは会話がかみ合わない。
「先輩の場合でしたら、使いやすいのが一番だと思いますよ。たとえばこう、ユーザビリティがビビリティ!みたいなヤツが」
僕は言葉の持つ意味を良く理解する前に会話に混ぜ、勢いで使ってみた。
「へー、ビビリティがフリーダムかー」
先輩も意味がわかっていない上に余計な言葉を付け足したので、なおさらややこしくなる。どうもこの人とは会話がかみ合わない。
「そうですね、愛ですよ」
僕は適当に答えた。
「やっぱそうだよね、憎しみあうより、愛し合う方がよっぽど素晴らしいもんね。殺すぞ」
「すいませんでした」
僕は下を向いた。

PCショップで、僕はPC用語にあまり詳しくない先輩と、専門用語使いまくりの不親切な店員の間のクッション役となった。先輩の代わりに、僕も専門用語で店員に色々質問する。
「このCPUは基本的にマッチョなイメージですか?」
「マッチョと言いますか…」
「このマザーボーイのチップセットはマッチョですか?」
「マッチョと言うか、その前にマザーボードですよ」
「ペンティアム4ですか?永谷園ですか?」
「いや、比べる対象が…」
「メモリはバルクですか?それともスゥイートですか?」
「いや、スゥイートっていうか殺すぞ」
「すいませんでした」
僕は下を向いて、黙った。

続く、のか。

2月10日 壊れるんだよ。

ヘッドホンが壊れた。左側から、音が全くでなくなってしまったのだ。特に前兆のようなものもなく、突然、壊れた。
賃貸住宅で暮らしている僕としてはヘッドホンは必需品である。近隣への迷惑を考え、夜に音楽を聴く時は、必ず大体ヘッドホンで聴いている。
さて、ここで何かおかしな点があることに気づきはしないだろうか。それは「必ず」、なのか、「大体」なのか、はっきりしていないという点である。
実は、ヘッドホンで聴く場合もあれば、ボリュームを絞ってスピーカーで聴く場合もあるのだ。だったら、「大体」でいいじゃないかと考える方もいるかもしれないが、実はこれには訳がある。僕の中のルール、略してボナールの存在である。ボナール3条によると、夜はスピーカーではなく必ずヘッドホンで聴くこと、となっている。いや、ボナール3条というより、むしろ3錠である。「寝る前にね、ボナールを3錠入れてくださいね」なのである。「そうすれば朝ね、肛門の痛みは引くから」なのである。「心の痛みまでは引きませんよー」

さて、自分で決めたことなのだから僕はボナールを守らねばならない。しかし、実際には守り切れていない自分がいるのだ。だからこそ曖昧な表現となってしまった訳であり、決して頭が悪いから間違えたとか、そういう事ではない。(コレを鼻に詰めながら)
結局自分は、「必ず大体」なのだ。優柔不断で意志薄弱なこんな自分が嫌いだ。(鼻に詰めたコレを飛ばしながら)よし3m行った!俺エライ!俺エライ!(泣きながら)

2月16日 憂鬱鉄道999。

今日はすこぷる調子が悪かった。体の調子が悪いとかではなく、全てが上手くいかない日だったのだ。何をしてもイライラ、ムカムカしていた。その上どうしようもなく切ない気持ちに襲われていたので、憂鬱は徐々に加速していった。
やがて憂鬱鉄道が駒込辺りを通過した際、溜息という名の警笛を鳴らしながら同僚に、「あの日だからなのかしら、ねえ」と聞いてみたが無視されたので、また少し、加速度を増した。
そしてそのまま、憂鬱鉄道999は宇宙へと飛び出すべく大気圏に突入したが途中で燃え尽きてしまった。
空から、はらり、はらりと舞い降ちる憂鬱の破片達。その憂鬱の破片に触れし者、憂鬱さを増すという。
どうせ憂鬱なら、とことん憂鬱な方が良い。起きあがること、いや、目を開けることさえ苦になるほどに。だから僕は、自ら憂鬱に触れたのだ。
憂鬱「おいテメエさわんじゃねえよ!」
僕「あっ、すいません、売り物かと思ったので……」

こうして憂鬱な日々は続いていく。永遠に続く輪廻のように。憂鬱鉄道89326に停車駅など、巣鴨しかないのだ。巣鴨だけが、ワイを許してくれる街なんヤ、今いくでー!プリンはん!!そのままちん河鉄道69へとフェードアウト。
否、フェードイン。
and die.

2月23日 喉と上司。

喉の痛みのせいで悪夢を見た。そのお陰でこんな時間に起こされてしまった。現在午前五時である。
季節の変わり目には必ず風邪をお召しになる、というジンクスは今季も覆されることなく、僕は性懲りもなく風邪を引いてしまった。「よくもまあ、毎度毎度飽きもせず喉からきやがるもんだなあ」と明け方に一人呟くとまた、喉が痛んだ。
毎回こうして喉が痛むのには理由がある。それは、喉が僕という存在に対して、敬意を払っていないからなのだ。即ち喉は僕を認めていない。だからこそ、僕の意志とは関係なく勝手に痛み出すのだ。
言うなれば喉の上司であるこの僕に対し、喉は反抗している。だが、普段はあまり表だって反抗は出来ない。その怒りにも似たストレスが鬱積し、やがて爆発し表面に出てきてしまう。その状況がつまり、今の喉が痛んでいるというこの状態なのである。
まるで自分を見ているようだ。
そんな喉を見て僕は、かつての若かった頃の自分を思い出していた。自分も、そうだった。自分もかつては、間抜けな上司に対する不満で一杯だった。だからこそ、喉の苦しみが解る。僕は、親しみを込めて喉に話しかけた。
「私もね、君みたいな頃があったんだよ。だから、解るんだ」
「はあ?一緒にすんなよ、殴るぞボケ」

うがい薬を原液のまま沸騰させ喉にぶっかけて、僕は喉を黙らせた。 まったく、生意気なガキである(救急車で運ばれながら)

2月29日 犯人は忍びか。

平日はあまり乗る機会のない自転車だが、休日、近所のスーパーに買い物に行くときには乗る事が多い。つまり、一週間は自転車置き場から動かしていないという事になる。
今日、自転車に乗ろうと思ったら、カゴの中にマイルドセブンの吸い殻が放り込んであった。
僕の記憶が確かならば僕はタバコを吸わないし、僕の守護霊もタバコを吸わない上、友達の観葉植物だってタバコは吸わない。それどころか彼(観葉植物)など煙というより酸素をはき出している程だ。それに、先週はゴミはおろか、現金やチョコ、恋文、さつまいも一つ入っていなかった筈である。
僕が住んでいる建物には自分を含めて9世帯が住んでいる。若夫婦が多いとは言え、タバコを吸う可能性のある人など17人にも満たない。しかも自転車置き場は奥まった場所にあるので、ここの住人か忍び以外は立ち入らない筈である。
つまり、犯人はこのマンションの住人の誰かか、忍びなのだ。
しかし、忍びが自分がそこに存在したという痕跡を残していくだろうか。忍びに、自分がこの時代に生きました!という名誉欲など必要であろうか。
否。忍びとは、そんな薄っぺらな存在ではない。一般人が持ちうる欲などとうの昔に捨て去っているストイックな存在である。
それほどまでに高尚な存在である忍びであるのだから、タバコの銘柄とて大衆的なマイルドセブン程度には収まらない筈だ。絶対セーラム。それに、彼らはキセル的な物を使用している気がする。そう、雰囲気でキセルを選ぶ筈だ。彼らは空気が読めるのだ。
等とブツブツ呟きながら自転車置き場で犯人が来るのを待っていると、隣の奥さんがやってきたので、吸っていたタバコをもみ消してカゴに放り込んでから挨拶をした。

はっ!(マイルドセブンの箱を握りつぶしながら)

戻る