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3月7日 頑張り屋さん。

今週は休み無し。平日は深夜0時過ぎまで残業し、土日もシコシコと仕事に励んでいた。
こうやって頑張ってしまう自分は嫌いだ。普段はなるべく頑張るべき状況に陥らない様に仕事をこなしているつもりだが、最近ではアホみたいなスケジュールのせいで頑張らざるを得ないので頑張っているだけである。本当の僕はこんなに頑張り屋さんなんかではない。そこまで頑張らない屋さんなのだ。あとはパン屋さんなのだ。パンが好きだから。あの焼きたての匂いが好きだから。だから僕はパン屋さん。僕というよりむしろ、老いも若きも、皆パン屋さん。当然の事ながら朝一番早いのもパン屋さん。二位は隣のおじいちゃん屋さん。裏の中学生は野球部だから結構朝早め屋さん。
そしてその中学生が恋をしている隣の席の佐知子屋さんが思いを寄せているのは国語の先生屋さん(34歳)。しかし、その先生屋さんにはスカートの中を盗撮するという趣味がある屋さん。なので幸せは長くは続かない屋さんがこう、スケボーで滑って来て一言。「俺ってクール屋さん」

早く死にたい屋さんな自分がここにいた。

3月16日 春先鬱病。

持病の春先になると鬱になる病が再発した様子だ。まったくもって何もかもが億劫なのである。正直仕事も辞めてしまいたいし、出来ることなら何もかも投げ捨ててしまいたい。そして捨てた物を拾って、交番に届けてしまいたい。ネコババしないで届けた事を、自分より遙かに年下の警察官に褒めてもらってしまいたい。何より僕は、自分自身から一割もらってしまいたい。一割もらったうえでしまいたい。飛び出した何かをしまいたい。今までの記憶を、生まれてくる前にしまいたい。生まれてくる前に自分の存在をしまいたい。チャックの中へ。チャックの中へ。行ってみたいと思ってしまいたい。
だがそんな事は到底不可能だ。だから僕はこうして今日も、抜け殻のようになりながら仕事へと向かい、そしてまた、抜け殻の様に家に帰ってきて、抜け殻の様にヌケヌケと自分の飯を作り、ウマウマと食い終えて、シコシコと一頑張りしてからまたスヤスヤ眠って、そしてニョキニョキ起きるのだ。

「悪くないよ。悪くないんだけど、シコシコってところと、ニョキニョキって辺りが少しばかり下品かなあって思うんだ」
「あー、やっぱりそうですか。ではどうしたら良いですかねえ」
「まずはシコシコを、ゴシゴシに変えてみたらどうだろうか」
「ゴシゴシと一頑張り、ですか。それもちょっと下品な気がしますね」
「そうだね、じゃあ、一頑張りっていうのをやめて、体を洗ってにしたらどうだろう」
「ゴシゴシと体を洗って……あー!いいですね。これにしましょう」
「で、ニョキニョキもムクムクに変えてみよう」
「ムクムク起きる……、下品ですねー」
「モコモコ」
「もう一声!」
「じゃあ、思い切ってモコモコをカフェモカにして、起きるを飲み干すに変えてみようか!」
「あっ、それってかなりセレブですね。賛成です」

だから僕はこうして今日も、抜け殻のようになりながら仕事へと向かい、そしてまた、抜け殻の様に家に帰ってきて、抜け殻の様にヌケヌケと自分の飯を作り、ウマウマと食い終えて、ゴシゴシと体を洗ってからまたスヤスヤ眠って、そしてカフェモカ飲み干すのだ。

なんだこれ。

3月22日 リアル鬱病。

「暖かかったり寒かったり、いい加減体調も崩れますよ!」
と怒鳴りながらお天気の神様の所に行った。いつもは三人いるはずの神様が一人、いなくなっていた。
僕は、なぜだか無性に哀しくなり、泣いた。
でも泣いたところで神様が戻ってくるわけでも無し、喉の痛みが和らぐわけでも無し、雨の日の地下鉄の車内が涼しくなるわけでも無し、新しく入ってきたクセのある新人が辞めてくれるわけでも無し、僕の春先鬱が治るわけでも無い。
だから僕は泣くのをやめて、逆に笑った。涙でくしゃくしゃの顔を引きつらせて「ウヘヘヘ」と、幼女に向かって笑う僕の姿はさながら怨霊の様でもあり、ゾンビの様でもあり、マイケル・ジャクソンさんの様でもあった。「この世のものでは無い」という点で結ばれたこれら全てが僕を形成する要素でもあり、あるいはジャクソンにさん付けをするという、とても礼儀正しいという点のみが僕の良さの全てなのかもしれない。
僕は、ただ幸せになりたい。
と、なんの脈略も無いことを突然口走ってはまた、暮れゆく今日という日を振り返りつつ思うことは、ただ仕事を辞めたいということばかり。繰り返す日々に喜びなど何も発見することは出来ないが、綻びならば幾らでも出てくる今日この頃だった。
ダメだ、こりゃ。
僕は呟き、そして立ち去る。

3月29日 掃除機。

外は晴れ渡っていたが特に予定の無い僕は昼過ぎに起き出して、布団を干してからなんとなく掃除機をかけ始めた。
ゴウゴウと音を立てながらホコリを吸い込むお掃除マシン。途中で嫌になり、落ちている物何もかもをひたすら吸い込んで行く。ふと自分のしていることが酷く馬鹿な行為であることに気づき、ゴミパックの中から今吸い込んだ物を出す作業に取りかかる。
パックの中からホコリまみれの靴下が出て来る。
くっついたホコリを吸い込もうと靴下を掃除機で吸う。
靴下はまた吸い込まれる。
パックの中からホコリまみれの靴下を引っ張り出す。
くっついたホコリを吸い込もうと靴下を掃除機で吸う。
靴下はまた吸い込まれる。

などという愚かな行為を繰り返す僕ではない。いくら僕がバカとは言えそこまでバカではないのだから。
僕は再度吸い込んでしまった靴下をパックの中から吸い出すため、掃除機のノズルを外し、ノズルの先を掃除機のパックに向けてノズルにある掃除機のスイッチを入れた。
もう手がホコリまみれになるのに嫌気がさしていたので、何か変化が欲しかったのだ。掃除機の中から掃除機で吸い出せば手は汚れないで済む。賢い僕が思いついた靴下救出作戦、ヘルプソックスオペレーションだった。
しかし、掃除機は動かなかった。
今考えてみると、掃除機本体から外れているノズルのスイッチを幾ら入れたところで掃除機が動くはずも無いのだ。
だがあの時の僕はそれに気づかずにいた。あれが若さというものだろう。愚かにも真っ直ぐにしか物を見ることが出来ずに、己の信じる物を疑う術など知らない若い僕は、掃除機の根性が足りないものだとばかり思っていた。
「動けジキーソー(掃除機)!本気のお前さんを見せてくれよ!本気になったお前さんはゴイスー(凄いん)だって、みんなに教えてやってくれよ!なあ、みんなもそう思うだろ!」
そう言って僕は観葉植物に話しかけたが、植物は沈黙していた。
「シカトかよ!」
僕は一人でずっこけるフリをした。
それから普通に手でホコリまみれの靴下を引っ張り出し、くっついたホコリを吸い込もうと掃除機で吸った。

また吸い込まれた。

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