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8月1日 腰痛ブギ。

腰の痛みが酷く悪化し、まともに歩くことすらままならくなっていた。痛みのピークには、超強気で有名な僕も大分弱気になっていた。健康な時の僕の強気たるやそれはもう凄まじく、例えば、道をふさぐようにして歩く悪そうな奴とすれ違う際には必ず反対側まで避ける程の強気であり、当然そんな奴と視線が合おうものならその合った瞬間に視線をずらし、まるで点々の中から3Dの映像でも探し見ようかとするかの如く虚ろな表情を瞬時に作り、「私は無です」という状態で足早にその場を立ち去るほどの勇気ある強気なのだ。また、食事の際にトンカツ的な油物を食べた後には必ず胃腸薬を飲む程の強気思考でもある。
薬用養命酒をそろそろ飲み始めようかと考えている程強気な僕が、腰の痛みのせいで酷く弱気になっていた。このまま痛み続けたらどうしよう、僕ちゃん、死んじゃう。
「そんな弱気な貴様など、とっとと死んじまえ!」
情けない僕に我慢が出来なかったのだろう。突然、僕の中の強気が目を覚ました。
(でも、ホントに死んじゃダメだよ。ごめんね、きついこと言って)
強気な僕の優しさが僕に伝わってくる。それはその筈、どちらも僕自身なのだから。
「そんな腰の痛みなぞすぐ治るわ!ビビらないで歩け歩け!」
(でも無理しないでね。あんまり痛かったら、仕事だって休んだっていいんだから)
僕は嬉しかった。言葉では厳しいことを言っても強気は本当は優しい奴なのだ。
「オラオラ、寝てばかりいねえでさっさと起きろ!」
強気はうつぶせで寝ている僕の事を起こそうとする。いや、実際はマッサージを施しているのだ。僕の腰のあたりを、さっきからさすってくれている。
(ああ、素敵な腰。たまらないわ。この腰に、貫かれたし、夏の夜)
強気の本音が聞こえてしまった。僕はちょっと気まずい気分になった。強気、お前って奴は、そうだったのか。そんな趣味があったのか!
「いい加減起きろや…、っておっと」
強気は僕を仰向けにすると手をすべらせ、僕の股間に顔を押しつけ、腰に手を回す格好となった。
僕は強気の本音など聞きたくなかったので耳を塞いだ。強気、僕は今まで通りの関係でいたいんだ。もうこれ以上はやめてくれ!
しかし、本音は僕の心に滑り込むようにして入ってくる。
(うまくいくといいな)
僕との関係がか?嫌だ!うまくいく訳がない!
「ホラテメエ、立ちやがれってんだ!」
僕は無理矢理起こされた……、ってあれ?腰が痛くない!何だこれ!
「だからビビるなって言ったろう?」
そう、強気は滑ったフリをして、僕の腰にコルセットをはめてくれていたのだ。それを僕と来たら……、何をイヤラシイ勘違いをしていたのだろう。僕は謝りたかった。
「なあ強気、ゴメン!」
頭を下げると、強気の股間が目の前にあった。それはテント設営中だった。
僕は、顔をあげられなかった。

8月10日 フローラル。

お世話になった会社の先輩が大阪に転勤してしまう。今日はその送迎会だった。
僕は先輩のコップにビールをつぎつつ「今までお世話になりました」と言いながら、もの凄い勢いでメンチを切った。そのメンチの勢いたるやまるでタンポポの綿毛がそよ風になびき、空を舞いやがて地面に落ちる程の勢いだった。
やがてついでいたビールがコップから溢れだし、テーブルの上に置いてあった先輩のタバコと携帯をびしゃびしゃにした。
こりゃいかんとばかりに僕はテーブルの上に置いてあった、先ほど派手にこぼしたキムチを拭いたばかりのキムチ臭いぞうきんで、先輩の濡れてもいないシャツを拭いた。先輩のシャツはキムチ臭くなった。キムチ臭いシャツの臭いをかいでから先輩は僕の頭を本気で殴りつけた。僕は殴られても仕方がないと思ったので特に反抗しなかった。
それからお酒を飲み始めた。
「本当に寂しくなります」
僕は、足の指の間に挟まったゴミを取りながら先輩にそう言った。取れたゴミを先輩の頭に乗せようとしたがその前にひっぱたかれた。僕はひっぱたかれても仕方がないと思ったので特に反抗しなかった。
「僕、先輩に色々教わりました、だからとても(ゲフゥ)感謝しているん(ブヒィ)です(ブブッ)」
僕はゲップやナラーオ(おなら)を交えながら感謝の意を先輩に伝えた。先輩は嫌な物を見る目で僕を見ていた。僕はそう見られても仕方がないと思ったので特に反抗しなかった。
「大阪行っても頑張ってください!」と言いながら、自分のわきの下の臭いを必死に嗅ごうとしていたら先輩に頭をこづかれた。
「わきの下の臭いなんて、これに比べたらそんなに良いモノじゃないんだゼ」
先輩はそう言い、ポケットからポプリを取り出して僕にくれた。
僕は、負けた、と思い、それからポプリの匂いを嗅いだ。それはとても爽やかなフローラルの香りだった。
僕はフローラルを忘れない。

8月14日 いい年こいて絡まれ体験。

先日、僕は変な若者二人組に絡まれた。いや、正確に言うならば絡まれかけた、と言うべきだろう。
先日の夜、バイクで信号待ちをしていたら、僕の前で信号待ちをしていた車から急に若者が降りてきて僕に詰め寄ってきた。どうやら僕のバイクのライトが眩しかったらしいのだ。
突然「ハイビームだろう!」と因縁を付けられ正直ムカついてしまった。実際はロービームなので僕は全然悪くない。大体いきなり威圧的に文句を言われ、頭に来ない奴などいないだろう。僕とてその昔はケンカっ早いので有名だった。ケンカっ早いのと逃げ足が早いので有名だった。そのケンカっぷりたるや「音速のポインセチア」と呼ばれた程である。ポインセチアとは、クリスマスには欠かせないファンシーな植物のことだ。
「音速のポインセチア」である僕に因縁を付けるとは良い度胸をしてやがる。この坊や達、どうやら死に急いでいるらしい。
「ふざけるなァ!」
僕はぶち切れて、フルフェイスのヘルメットを脱ぎ、ついでに上着を脱いだ!これもついでだ!とばかりに靴を脱ぎ、そしてズボンを脱ぎ、パンツを脱ぎ、また靴を履いた。靴は左右逆に履いた。最後に再度ヘルメットを被り、戦闘態勢を整えた。
しかし相手は二人。これでは分が悪いので、僕は凶器を用意した。バッグの中に入れてあった孫の手が僕の助太刀をする!痒いところだってこれさえあれば僕は平気です。一人で元気に、やっていけるんです!
「さァ、どっからでもかかってきやがれィ!」
僕は下半身丸裸ながらも上半身はしっかりガードしていた。ファイティングポーズを取ったまま巧みに孫の手をつかい、時折陰部を掻くフリをした。あくまでフリ、だ。実際に外で掻くわけにはいかない。これが「ポインセチア」たる所以である。下品になりすぎてはいけない。あくまで上品に、そしてファンシーに。さらに今日の僕の靴下は紳士的な黒ハイソックスだ。僕は紳士の神様に感謝をした。フルフェイスのヘルメットもかなり紳士だ。「安全に敬意を払うことを忘れません、勝つまでは」というステッカーを貼ってあるフルフェイスを被る僕の姿はまるで、王冠を被る古の王にすら見える。この僕の姿は間違いなく「出来る」奴だった。
奴らは相当ひるんだのだろう「すいませんでした!」と言いながら車に乗り込み走り去った。
怒りのやり場をなくした僕はしばらくその場で孫の手を素振りした。それから腰に収めようとして自分を刺すという古典的ギャグをかましてから、脱いだ服をバッグに詰めて、それから家路についた。そして友人達に、「いやあ、10人位に囲まれたけどさ、全員ぶっ飛ばしてやったぜ」と嘯きの電話を入れてから少しだけ泣いた。

8月23日 不法侵入者。

僕の留守中、我が家に何者かが侵入した。突然の事で頭の中がパニックになった。僕の家で盗むに値する価値の在る物など、冷凍庫の中に忍ばせてあるハーゲンダッツくらいしか無い。ハーゲンダッツ欲しさに泥棒に入るヤツなどそうはいないだろう。
僕は侵入に気づいてからまず冷凍庫を開けた。そこには確かにハーゲンダッツがあった。マカデミアナッツが二個。昨日と同じだ。
ぐるりと部屋の中も見渡すが特に盗まれた物はないようだ。盗まれたどころか、変わった様子すら見受けられない。
ただ、変わっている点が一つだけあった。それで僕は何者かの侵入に気づいたのだ。そう、トイレの中、便器の中の彼の存在である。彼はそこにいた。いや、おわした。彼は様式便器の溜まりの中に、優雅にその身をたゆたわせていた。鼻歌まじりで、小さなバカンスを楽しんでいたのだった。
「バカな!」
僕はトイレで叫んだ。そんな事がある筈がない。僕が、彼を、流し、忘れるなどッ!!
僕は真っ先に侵入者の可能性を疑った。※侵入した賊がまだいるかもしれないと思い、僕は用心深く、賊が隠れられそうな所を探して回った。
「出てこい!」
僕は武器になりそうな棒(ゴボウ)を手に握りしめ、押し入れを開け放った!瞬間、ガサリ、という音と共に<何か>が落ちた!僕は必死でその<何か>を手にしたゴボウで叩く!ゴボウは折れる!ゴボウの破片が跳ね返り、僕の顔にヒットする!鈍い痛みが走った。
僕はゴボウで叩いたことを後悔した。そして僕が叩いた<何か>が、中学生でも食えないようなポルノ雑誌だったので僕は笑った。今時、デラべっぴんだなんてサ!
ひとしきり笑った後、便意を催したのでトイレに入った。済ませた後、ゴボウを片づけてテレビを見て、ご飯を食べて風呂に入った。
寝る前に再度トイレに入り、僕は何者かの侵入を確信した。そんな事がある筈がない。僕が、彼を、流し、忘れるなどッ!!
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8月30日 車をぶつけるということ。

朝から社用車を電信柱にぶつけてしまうという素敵なハプニングで僕の一週間は始まった。
ヘコんでませんように、と祈りながら車から降りて車体を見ると非常にマズイことになっていた。ベッコリとヘコみ、ついでにウインカーが割れていた。これはひどい、絶対に怒られる。怒られないまでも、僕の事を良く思っていないヤツに陰口を叩かれる。
僕は酷くヘコんだ。車がヘコんで、僕もヘコんだ。そのまま途方に暮れていても仕方がないのでとりあえず車を走らせた。ああ、しかし、僕が今運転している車の左前方はイっているんだ。ちくしょう!なんだって俺はもっと注意を払わなかったんだ!大体俺を道に迷わせたこのバカなナビが悪い!(そう、ナビを信じて彷徨っている途中で住宅街の細い道に迷い込んでしまったのだ)
僕はナビをもぎ取り、窓から放り投げた。
ナビも悪いが狭い道も悪い!
僕は道路に降り立ち地団駄を踏み、そこら中にタンを吐き散らかした。
僕がタンをぺっぺぺっぺ吐いていると、オジサンに見られていることに気がついた。
「オイ貴様、何を見ている!」
僕はオジサンに詰め寄った、が、むやみにタンを吐いてはいけないんだよ、と諭されたので素直に言うことを聞いた。むやみにタンを吐いては、いけなかったんだ。
しかし、いくら僕がタンを吐くのをやめてもヘコんだ車は元には戻らない。僕はためしにオロナインをヘコんだ箇所に塗ってみた。それから神社に立ち寄り、治るようにと必死に願をかけた。それはもう一か八かの賭だった。これで治ればしめたもんだし、治らなければそれはそれで仕方がない。ともかく僕はやるべきことはやったんだ、ここまでやれば諦めもつくだろう。
車は治らなかった。
僕は神も仏も信じない。この世は地獄だ。この世は嘘で溢れかえり、ひとかけらの希望もない。この世は地獄だ。僕はもいだナビの代わりにゲームボーイを貼り付け、ヘコんだ箇所を餅米で埋めた。それからハンドルを外し、そこにパラボラアンテナを取り付け、アクセルとブレーキの上にハマチとあかがいをそっと置いた。
誰か踏めばいいんだ。

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