戻る

3月1日 ホモ。

話は先週にまで遡るが、確か僕は怒ったという風に書いたはずだ。しかしなぜ怒ったかまでは書いていない。いや、書くつもりだったというのに、なぜか僕は途中からホモについて書いていた。大体、どこからどう転がってホモの話になったのかが僕には解らない。書いていた僕自身が全く気づかない内に僕はホモの話を書いていたのだ。これは完全にホモの仕業に違いない、僕はホモにはめられた。否、ホモにハメられた。
って何だこれは!これもホモの仕業とでもいうのか、これではまるで僕がホモにハメハメされたみたいになっているではないか!断じて僕はホモではない。男児て僕はホモではない!
おっといけない、誤字にはあれほど注意しなさいよって、彼氏に注意されたばかりだと言うのに、ってオイ!いい加減にしろ!誰がホモだ!だーれーがーホーモーだーよ!!
さて、僕は別にホモがいけないとかそういう事を言ってるわけではない。別にホモだからと言って差別する気もない。ただ、僕をそういう対象として見るのはやめて欲しいと思うだけだ、なぜなら僕は決してホモではないのだから(タンクトップから溢れる筋肉をピクつかせながら)
まあ僕がホモだろうが野茂だろうがどちらでも良いことだ。しかし、二者択一、僕はきっと野茂を選んでしまうだろう。なぜなら野茂は野球がとても上手い。
それにしても他の選択肢は無いのだろうか。なぜ普通の道を選べないのだろうか。僕たちは何故いつも間違った道を選んでしまうのだろうか。それが間違えだと言うことにその時には気づけず、ずっと後になってから「ああ、あの時の選択は間違えていたんだな」と悔やむ事になる。それはどうしてだろう。
しかし、だからと言ってその選択地点まで遡る事は出来ない。だから僕たちは今ある現実を受け入れて、そしてそこから建設的な考えを絞り出し、ただ前に進んでいくことしか出来ないのだ。建設……、そう、建設現場で働いていた彼の肉体を思い出すと僕はいても勃ってもいられなくなるわ。って、なんだコレは!これもホモの仕業か!いい加減にしろ!誰がホモだよ!だーれーがーホーモーだーよ!!
僕はホモなんかじゃない、ただのオカマだ!!

3月9日 私とタケシと哀しみと。

スゲエ疲れた。
もうこの一言に尽きる。とにかく、スゲエ疲れてしまったのだ。飯が喉を通らないくらい疲れた。意識が朦朧とするくらい疲れた。とにかく、僕は疲れたので、ここに僕は、もう何もしない事を宣言する。
「僕はもう、何もしませんからね」
家にいる僕の友人(観葉植物)に向かい、僕は高らかに宣言した。僕が何もしなくなる事は彼にとって一大事だ。なぜなら彼に水を与えられる唯一の存在であるこの僕が何もしなければ、彼はただ朽ち果てていくのを待つだけの存在となってしまうからだ。だから彼は僕に何かさせようと必死だ。あの手この手で僕のやる気を奮い立たせようとする。いつもよりも緑色に輝いてみたり、マイナスイオンを発生させてみたり、風にそよいでみたり、肩をもんでくれたり、部屋を掃除をしてくれたり、性的なサービスをしてくれたり、甘い言葉をささやいてくれたり、遅くまで私の帰りを起きて、しかも食事を作って待っててくれたり、愚痴を聞いてくれたり、頭を撫でてくれたり、朝と夜にキスをしてくれたり、いつも「好き」ってメールをくれたり、休みの日には二人でDVDを見たりゴロゴロしたりゲームをしたり、ショッピングに行くと彼は色々と私におねだりをするけれど、いつもしてくれている事を考えると買ってあげたくなるのも仕方がないと私は思う。今度彼は車が欲しいと言い出した。その為に私はもっと出勤日を増やし、指名を沢山とらなければならなくなる。正直、この仕事はしんどい。肌を合わせるどころか、裸を見せるのも嫌悪してしまう様な客だって来る。私は見た目にはこだわらない、客はただの客なのだから。私の最も嫌いな客は、この身を売って金を稼ぐ私達を蔑み、自分の下らない虚栄心を満足させる為だけに訪れ、説教じみた卑劣な言葉を吐いて、そして、精液を出さずに帰っていく客だ。精液を出して帰るなら私は何も思わない。説教が好きな客は意外と多い。
しかし、精液を出さない客はそれが美徳だとでも思っているのだろう、「ほら、俺って格好いいだろう。金払って、君たちを救いに来てるんだ」等と考えてでもいるのだろう。
肉体的干渉がない分確かに楽と言えば楽だが、仕事外の仕事をしている様な違和感があり、その客が帰った後はドっと疲れが出る。そのせいで鬱にもなった程で、その時は仕事を辞めようと思っていた程だ。そんな時出会ったのがタケシだ。
ある日、私はレディースコミックに連載を持つ女漫画家から取材を受けた。なんでも、風俗で働く女の気持ちをリサーチをしているのだとかで、内容自体は簡単なものだったが会話が弾み、意気投合した私たちはその日の夜、二人で飲みに行くことになった。ベロンベロンに酔っ払った彼女の兄に私は連絡を入れ、迎えに来てもらうことにした。そして私はタケシと出会った。いびきをたてて寝込んでいる妹を背中に担いだ彼は頼りがいのある男に見えた。私を殴ってばかりいた兄を思い出し、タケシが私の兄だったら良かったのにと思った。彼はとても疲れていた。その疲れは、多分どんな風俗やヒーリングプログラムやアロマサロンでも癒せないほど根が深い類のもので、その辺りが少しだけ私に似ていると思った。
食事を奢ってあげた時の彼の屈託のない笑顔に私は負けた。身体が大きく、ハンサムとはかけ離れた顔の彼の事を、なぜか私は心から信用してしまった。汚れた私を許し、受け入れてくれた彼の胸に抱かれて落ちた眠りは深く、私は生まれて初めてではないかと思うくらい熟睡出来た。
彼は私に仕事を続けるように言った。私の仕事が素晴らしいもので、彼は私を尊敬すると言った。僕が君を癒すから、君は働いて沢山の寂しくて、僕よりももっと疲れた男達を癒してあげて、と。
彼はその昔親友だと思っていたヤツに、こっぴどい裏切りを受けたのだという。その話をする時きまって彼の目は血走り、小刻みに震えながら青ざめた顔で宙を見る。私はそんな瞬間だけ彼を恐ろしいと感じる。
「ホネカワ」
それが彼を裏切った男の名前だった。

連続小説 「Door anywhere 〜ブルーキャットの秘密のポッケ〜」 続く。

3月17日 私とタケシと哀しみと その2。

完全に、何の迷いもなくそして絶対的な信頼を寄せていた友に裏切られた経験を持つ者なら、その衝撃がどれほど大きくて、そしてどれだけ心を打ちのめされるかを知っている。怒り、驚き、悔しさ、恥ずかしさ、そして哀しさ。それはこの世で最も屈辱的な思いだろう。心は引き裂かれ、深い傷跡を残すこととなる。
その傷はどんな薬をもってしても塞がらず、霧が出れば疼く様に、いつまでも苦しめられる。そして、疑い深くなる。人を心の底から信用できなくなる。騙されてなるものかとつねに懐疑の視線で人を見てしまうようになる。そんな自分が嫌で自己嫌悪を重ね、その度に心の奥で凝り固まった哀しみの塊がズシリと重くなっていく。塊はやがて腐敗し始め、心全体を浸食し始める。徐々にだが確実に浸食し、やがて巨木を倒してしまう腐朽菌の様に、心はゆっくりと蝕まれていく。
誰のせいだ。
誰のせいで俺はこうなった!
「ホ・ネ・カ・ワ……!!」
怒りで目覚めると辺りはまだ暗く、隣で眠る女の寝息以外に音は聞こえなかった。俺は例の如く悪夢にうなされていた。
心が落ち着くまで待ってから寝ている女の髪を撫で、そして額にキスをした。小さな声をあげ寝返りをうって女は壁の方を向いた。
女は俺に明日の糧を与えてくれる。だから俺はこの女を、風俗で身体を張って俺の飯代を稼いできてくれるこの女を大切にしなければならない。俺はこの女を必要としていて、この女も多分、俺を必要としている。俺に恋愛感情はない。おそらく、この先もずっと、俺は人を愛せないままだろう。
女が何か寝言を言いながらこちらを向いた。俺は屁を手の中に握り込み、そっと女の顔の前に持って行くと硫黄臭が辺りに立ちこめた。女が咳き込み、また壁の方を向いた。俺は硫黄臭を嗅ぎながら、フレームの歪んだ丸い眼鏡をかけているあいつの事を思い出していた。 あいつの眼鏡は小学生の頃からずっと変わらない。幾度となく俺がぶん殴り、何度もレンズは割れたはずなのに、あいつはいつも新しいレンズを同じフレームにねじ込んでかけるのだ。いつしかフレームは歪み出し、それが哀れを醸しだしたので誰もあいつの眼鏡を殴らなくなった。
ヤツは昼間、ビルの清掃会社でバイトをしながら、夜は路上で自分の書いた詩を売って生活している。文房具屋で買ってきたサイン用色紙に筆で、何やらもっともらしいポジティブな言葉を書いては馬鹿な連中から金を巻き上げている。方法こそ違うがあいつも俺も大して変わらない。
多分あいつの書く詩に価値などない。使い古された文句を、言い回しを若干変えて書き殴っているだけだ。「人々に元気を与えたいんだ」と、歪んだ眼鏡の奥の小さな目をキラキラ輝かせながら熱く語るヤツに俺は、「そうか」とだけ返した。あいつは自分の心の傷を隠すため、そんな綺麗事を言っているだけだ。本当に元気になりたいのは、元気づけられたいのはあいつ自身なのに、それを知るのが怖いからそんな事を言っては誤魔化しているに過ぎない。
しかしそんなあいつを俺は非難できない。俺もまた、似たようなものだからだ。

3月27日 図書館にて。

「なんと申せば良いのでしょう。とにかく疲れたとの事なのでございます。疲れた疲れた、お前はそればかりなのか、と言う声も聞こえてきそうではございますが、とにかく疲れた、これが事実であり、それ以上でもなければ、それ以下でもございません」
「ならば、これも違うのでございますか?」
書架の裏側からボッケルボルが、自身の男性のシンボルを握りしめながら姿を現した。あまりに強く握りしめているので指の間から肉がはみ出し、浮き出した血管は今にも破裂せん勢いだった。近くにいた子供が彼を見て大声で泣き出した。
「それイカではございません、イカとはこういうものでございます」
ドヴォルザークは一歩も下がらず、己が下半身を誇示する様にテーブルの上に立ち、おもむろにズボンを下げ、剥き出しとなった彼の言う「イカ」を露呈した。その「イカ」は「イカ」にしてはあまりにも堂々としたフォルムで、またその色合いがあまりに上品だった為、それが高貴な生まれであることは誰の目にも明らかだった。先ほどまで泣いていた子供は彼の「イカ」を指さして「大王イカだ!」と叫んだ。静かである事を約束された筈の図書館に、開館以来のどよめきが起こった。
「大王イカだってよ!」
「大王イカ!」
「あの高名な大王イカがここに?」
「嘘だろ!?」
「大王イカだって!?ペニスの間違いだろ?」
「ペニス?」
「ああ、アレは只のペニスだ」
「なんだ、嘘か」
「ペニスだってよ」
「なんだよがっかりさせやがって」
「人騒がせな奴だ」
「これで僕が大学落ちたらあいつのせいだ」
「ふざけんなよ!金返せ!」
人々の怒りがドヴォルザークの「イカ」に集中していた。彼は注目を浴びることに快感を憶えているようで、「イカ」は徐々に本来の機能を取り戻すかの様に打ち震えながら頭を上げ始め、子供はまた泣き出した。僕はそんな彼らを横目で見ながら、カウンターで「赤ちゃんはどこから来るの」というタイトルの本を借り家路についた。

戻る