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8月3日 気付かなければ。

うーむ。気付くと寂しい。つまり気付かなければ寂しくはなかったのだが残念ながら僕は気付いてしまった。気付いた瞬間僕は僕を呪った。何故お前は気付いたのだ。気付かないふりをすることも出来た筈なのに、何故お前は気付いてしまった!
これは何故鼻毛が出ていることに気付いた、というのに似ている。しかし鼻の御毛(はなのおんもう)が鼻からON毛しているのに気付いたら、果たして気付かないフリなど出来るだろうか。鼻の御毛が鼻息吹くそよ風によってゆらりゆらゆら夢の中、微睡む午後の甘い眠りの中、彼は思わず二個ある穴の内、右側からひょっこりと顔を出してしまった。彼が顔を出すという行為は神をも欺く行為だと誰かが言っていた事を思い出す。不意を突いたその行動の前に、僕は思わず「うひゃあ」と声をあげた。
「うひゃあ、鼻毛出ておる。誰ぞおらぬか、鼻毛出ておる!」
自分で自分の鼻毛が出ている事に気付いた瞬間、咄嗟に考える事を5W1Hと呼ぶのはあまりにも有名だ。「いつから(When)」「どこから(Where)」「なぜに(Why)」「何が(what)」「どのように(How)」
「いつから」多分、先ほど鼻を弄った時からであろう。「どこから」鼻の御穴(はなのおんけつ)からに決まっておろう。「なぜに」おそらく、神が与えし試練であろう。「何が」この期に及んで誤魔化す気はない、毛である。「どのように」そよ風になびくように、とでも表現すれば良いのか。地獄の釜から這い出すように、とすると嘘となる。
こっそり鼻に押し戻して会話を再開するが、相手にしてみれば「おかしい、先ほどまで出ていた鼻毛が隠れたぞ」「鼻毛は何処へ行った?」「やはり、この人鼻毛を押し込んだんだ」「鼻毛隠しだ!」「申告漏れだ!」という情報がインプットされるワケであり、やはり不名誉な事には違いない。大体そんな行動を目の当たりにした相手にしてみても気まずい。
解りきった事だが、鼻毛は出した方も出された方も気まずくなる、そんな存在だということを再度確認しておこう。
つまり気付かなければ自分も相手も気まずくならない、誰も傷つかずに済む方法はやはり気付かない事なのだろう。世の中には気付かない方が良い事が多すぎる。
だから僕は気付かない。鼻毛など出ていないし、寂しくなんかない。生まれてきた事は間違いなんかじゃないし、死にたくなんかもない。死にたくなんか、ない。

8月19日 ファンシー。

約半月も放置されし我がサイト。放置している間に何か変わっていればと期待して開いてみるが何も変わっておらず。例えば色とりどりの花々が咲き乱れているとか蝶が花の恵みを喜んでいるとか、ワンピース姿の可憐な少女が鼻歌交じりに駆け回っているとか何かファンシーな出来事が起きていれば良いなと思っていたのだが何も無し。相変わらず花の一つも咲かないシダ系の鬱蒼とした植物にビッチリ覆われ何が何処にあるかも解らない様な駄文が連ねられ、蝶どころか蝿が飛び交っている始末。それでも救いはあるもので、ワンピース姿の少女が楽しそうに鼻歌交じりに走り回っているが、彼女の顔はなんだか武田鉄矢に似ている。当然鼻歌は言葉を贈られる類のものだ。
と、鬱蒼と茂ったシダの中から浮浪者が突然飛び出して少女を押し倒した。叫び声を上げて鉄矢が浮浪者の顔面を蹴り上げるが所詮は少女、力の差は歴然だ。このままでは彼女が汚されるのも時間の問題だろう。
しかし、ここは僕のサイトだ。僕のサイトでそんな愚劣な犯罪行為が繰り広げられるのを黙って見過ごす訳にはいかない。僕は埋もれていたシダ植物から抜けだして叫ぶ。
「貴様!人のサイトで何をやっている!」
浮浪者は僕を無視して鉄矢のワンピースを引き裂かんとしている。
「やめろ!」
僕は浮浪者の髪の毛を掴み少女から引き離す。浮浪者は何やら喚きながら僕を殴ろうと構える。ブンッ!浮浪者の鋭い右拳が僕に向かって飛んでくる!
「危ない!」
僕は咄嗟に交わし、鉄矢の頬でガードした。鉄矢の顔面に浮浪者の拳がヒット!でも大丈夫、僕は無傷だ。
「貴様、いたいけな少女に何て事をしやがる!」
僕は大声を出して浮浪者を殴るべく突進する。浮浪者はヒラリと身をかわし、勢い余って僕は鉄矢に体当たりしてしまった。鉄矢はギャフンと呟き気を失うと、その身を僕に任せた。
鉄矢……。
近くで見る鉄矢の口元はうっすら青く、少女というより中年オヤジの様なニオイすらしている。ワンピースの裾から伸びた短い足は縮れた短い毛で覆われており僕は確信した。これは少女ではない。鉄矢だ!
僕の腕に抱かれた鉄矢を眺め、これはオカルトの域に達していることを理解すると、浮浪者に鉄矢を任せ、僕はまた、シダ植物に埋もれる事にした。これ以上、ここに居ても良いことなど何も無いだろう。
物陰に消えゆく鉄矢と浮浪者。シダ植物の間から眺める世界は、恐怖と憎しみで満ちていた。

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