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9月1日 たからもの。
駐車場が空いたので借りようと思ったら、先を越されていた。先を越したのは他でもない、隣に越してきた一家だった。
今年の頭から空き部屋だった隣にようやく人が越してきたのは一週間前の事。それとタイミングを同じくして隣の隣が引っ越して行った。隣の隣の人はマンションに隣接した駐車場を借りていたので、そこに空きが出来る事になる。前々からそのポジションを狙っていた僕はすぐさま不動産屋に電話をかけたが時既に遅し、我が家の隣に先を越されていたのだった。確かにこれは僕が悪い、電話をしたのが遅かったのだろう。隣の人は何も悪くない。ただ僕としては面白くない。挨拶に来られてもいないワケだし、僕の隣の一家への印象はかなり悪いものとなった。
約一年前から僕はその駐車場が空かないかと考えていた。空いたら車も買うしバイクもそこに置こうと思っていた。一年前からだ。一年前から僕はその駐車場を狙っていたのだ。僕は三年ここに住んでいて一年も前から駐車場を狙っていたのだ。それが隣の一家と来たら何だ。挨拶に来ないばかりか越してきて早々に駐車場を手に入れちまいやがった。まるでアタイの事を嘲笑うかのように、ピンクの車をデーンと停めてやがる。
前から駐車場を狙っていたアタイとあっちゃあ面白くないねぇ。駐車場みたいないい男をポッと出のお嬢ちゃんに寝取られて黙っていちゃあ、泣く子も黙るで有名な、このタン壺お華の面目丸つぶれってもんよ。
?「お華さん、どうしてくれやしょう?」
コイツはアタイの舎弟で、荒くれ者のお竜ってんだ。出会ったのは場末のゲームセンターで、ピンボールに入れた百円が詰まって出てこなくて泣いている所を助けてやったのがきっかけで知り合ったのさ。それからずっとアタイの後に着いてきている、カワイイヤツなのよ。
華「そうだねぇ、壁サンスの刑にでもしてやろうか」
竜「壁サンス!そいつぁキツイ!華さんは末恐ろしいお人や!」
壁サンスの刑っていうのはアタイらの常套手段で、肉体的よりも精神的にやられちゃうっていう悪趣味なイジメさ。どうするかっていうと壁に向かってスピーカーを設置してね、ギャル男しか聴かない様な悪趣味なサイバートランスを延々と流し続けるのさ。
華「オーバーナイト壁ルノなんてやったら自殺しちまうかねぇ」
竜「ゲゲゲ!オノ!(オーバーナイト壁ルノの略)華さん、あんたやっぱり冷酷無比なお人や!」
オノも壁サンスの流れを汲んだ悪趣味なイジメで、夜通しポルノビデオを壁に向かって流し続けるのね、ジャンルはハードなスカトロ限定よ。ブリブリアンアン、ね。ブリリアン、ね。ブリリアントブリーフ、ね。ブ
華「ブ……」
竜「ブ?」
華「何でもないわ、午前三時の壁きょんなんてのもゾクゾクするわねぇ」
竜「どひゃー!かかか、壁きょん!は、華さん……、お、恐ろしい!それだけは堪忍したってや!」
午前三時の壁きょんも似た様なモンね。毎晩午前三時に壁に向かって読経するだけ。簡単なのに凄い効果をあげるのさ、アタイも昔、先輩にヤキだってんでやられたわ。さすがのアタイもアレはキツかったなぁ。結局、何でも願いが叶うタン壺とか言うのを四十万円で買って、それに手を併せていたおかげで経がやんだから良かったけど。
今でもあのタン壺はアタイの宝物さ。多分中古なんだろうね、中の匂いを嗅ぐと誰かのタンみたいな臭い、っていうかむしろタン以外の何物でもない臭いがするけど、それでもアタイの宝物。大事な大事な宝も「カーッ、ペッ!」(お竜が壺にタンインサート)
9月17日 究極平社員。
ひっそりと誕生日を迎え、僕はまた死へ一歩近づいたのだった。何かを書こうという意欲もなくなり、ただ過ぎゆく日々を消耗しながらあくせく働き、一日に数時間眠りまた働く。
僕は一体何処に向かっているのだろう。こんなにも働いているが、これが何になると言うのだろう。ショボくれたサラリーが毎月末に口座に振り込まれ、通帳を見るたびにそのショボさにガッカリしてしまう。血反吐を吐いて倒れ、十円はげを作りながらどれだけ一所懸命に働いても僕のしみったれたショボショボ能力ではこれが限界なのだ。交通費込みで五十億、これが僕の限界だ。
そう、僕は月にそれだけ稼ぐいわばエグゼクティブなのだ。しかしどこかの社長とか重役とかそいういう器で収まっているエグゼクティブな僕ではない。僕のようなスーパーエグゼクティブは既にそういった世俗的なものから超越してしまっている平社員で、いわば究極平社員なのでエグゼク。
究極平社員<ゼクティブ>の朝は早い。皆と歩みを共にしていては究極平社員たり得ないのである。彼は朝、出勤三十分ほど前に目覚め、急いで準備して外に飛び出す。おっと、今日は燃えるゴミの日だ。彼は急いで引き返し、燃えるゴミを集積所に出してから……、むむ、空き缶!誰グ!今日は資源ゴミの日ではないゼクティ!
彼は曲がったことが許せない。置いてあった空き缶を持ち上げ、そこに自分のゴミを置き、また空き缶を置く。その際変な液体がゼクティブの手を汚染し、彼はそのニオイを嗅ぐべく鼻に手をやる。クサッ!なんだこのイカの汁みたいなニオイは!ちくしょうめ、ちゃんと空き缶は資源ゴミの日に出すゼク!だからこんな事になるグ、ああもう、臭いなぁ!正義の平社員、ゼクティブはルールを守れない輩に腹を立てながら駅へと向かう。彼の家から駅までは徒歩で二十分もかかるのだ。汗だくになりながら駅に着いた頃には既に先ほどの怒りを忘れていた。乗り込んだ満員電車はゼクティブの背広をいつもくしゃくしゃにするが彼はあまり気にしない。
究極平社員は誰よりも元気に朝の挨拶を行う。
おはようございます!
おはようございます!あの、おは……、あ……。
ゼクティブが思いを寄せているOL、ヨシエは彼の存在に気付かなかった。しかし、彼女がチラリと横目で確認した事を世の中の動きに鋭いゼクティブは見逃さなかった。彼女は意図的に無視したのかもしれない。ゼクティブはこれが大変ショックだったらしく、彼の一日のモチベーションは低かった。この日、ゼクティブは上司に説教された上、同期が重要なプロジェクトをまかされた事を知る。
今日はダメな一日だったエグ……。
帰り際一緒に残業していた同僚に、「おい野島(ゼクティブの名前)、今日の飲み会どこ行きゃ良いんだっけか?」と聞かれるも自分は飲み会があることすら聞かされていない事を述べると、「そっか……、悪いな」と気まずそうに同僚は去っていった。
ゼクティブは家路に着く。帰りの電車はいつもの如く混雑していてアルコール臭く、気分が悪かった。家まであと一駅というところですぐ近くでハゲたオヤジがゲロを吐き、ちょっとした騒ぎが起こった。ゲロを避けてきた若者の足がゼクティブの足を踏みつけた。肩にドクロのタトゥーが入ったその若者は、自分から足を踏んだくせに舌打ちをした。正義の平社員、ゼクティブは逆にスイマセンと謝ってしまった。
駅からの帰り道、ゼクティブの目に涙が浮かぶ。泣いたら負けだぞ、泣くもんか。唇を噛みしめ上を向くと夜空に大きな月が浮かんでいた。吸い込まれてしまいそうな神秘的な丸い月で、ウサギの模様がくっきりと浮かび上がって見えた。彼らはいつでも忙しそうに餅をついている。いつつき終わるとも解らないその餅を、ゼクティブが生まれてくる前からずっとずっとついているのだ。なのに俺ときたらなんだブ?下らない事でメソメソしちまってさ。こうして生きている、それでいいんだティブ。
ゼクティブは段々前向きな気持ちになっていった。ウサギは彼らのペースで餅をつき、地球はいつだって地球のペースで回っている。俺は俺のペースで出来ることをやれば良いゼク。同期に先を越されたからって何だ、飲み会に誘われなかったからって何だ!俺は究極平社員、ゼクティブだ!何せ基本給五十億!手取りで二十万!っていうか基本給二十五万!俺はゼクティブ!何が悪い!
ドン!
「イテエなコラ!!」
上を向いて歩いていた為、ゼクティブは不良にぶつかってしまった。
あわわ……、ゴゴゴ、ゴメンブブブ、ブリッ、許してくだゼクティ……!!
さあ、ゼクティブの運命やいかに!次週の究極平社員ゼクティブは「ゼクティブ差し歯に」「ゼクティブ、それはマズイだろ」「ゼクティブ、部屋から証拠品」の三本です、お楽しみに! |