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1月5日 入っては出るぞ。

明けましておめでとうございます。
正月らしさを味わう間もなく仕事が始まってしまった。年明け早々ものもらいを患い、左目に違和感を感じながら始まる新年最初の仕事に対する自分のモチベーションは驚くほど低く、今年一年やっていく自信を早くも失ってしまった。このままだと非常にまずい。アイワナ、アイワナビイニート。僕はもう離脱したい、このサラリーマン戦線を、この噛み合わない歯車を離脱して、真の自由を手に入れる。僕はついに魂を解放させる。今年ついにがんじがらめの現世から解脱し輪廻を断ち切る。次に生まれてくるときは?否、次に生まれてこない。僕はもう永遠に生まれ変わることなく涅槃に入る。涅槃に入って出てくる。まるで東の空から立ち昇る太陽のように、涅槃から僕は顔を出す。年に一度だけ顔を出す親戚のおじさんの様に、僕は涅槃からひょっこり顔を出してこう言う。「随分大きくなったねぇ」と、「おじさん抜かれちゃったなぁ」と。声を大にして僕は叫ぶ。「彼女は出来たのかい」、「おじさんも若い頃はモテたんだ」と。薄くなった頭を掻きながら、日本酒で顔を赤らめながら、「おじさんも若い頃はな、モテたんだ」と繰り返す。
おじさんは今年で四十八になるが未だ独身だ。多分この先もずっと独身なのだろう。独身であることの気楽さは寂しさと比べて余りあるものなのだろうか。僕はおじさんの身を案じたが、それよりも自分の身だとまた涅槃に入る。
入っては出る。
入っては出る。
出たかと思ったらまた入る。右から入って左から出る。上から五番目の引き出しから入って三番目の引き出しから出る。三番目の引き出しからちょっと顔を出してまた入る。もう一度繰り返して……、入ったと見せかけて飛び出す。勢いを付けて飛び出す。机の大きな引き出しから飛び出して頭突きを入れる。珍しく勉強をしていたメガネの少年に頭突きを入れる。それからまた三番目の引き出しに戻る。
三番目の引き出しは居心地が良かった。そこには何でもあった。よく冷えたコーラもあったし、いなり寿司やイカめしもあった。イカめしは生暖かかったが、いなり寿司は柔らかくて美味しかった。僕は段々そこから出るのが面倒になっていった。三番目の引き出しの室温は最適だった。ほどよく暖かく湿度も丁度よく快適だった。やがて僕は三番目の引き出しに住むことに決めた。
最初快適だったそこは、僕が住み始めると徐々に居心地の悪い空間となっていった。イカめしはぬるさを増し、いなり寿司は縮み上がった。なんと言ってもイカ臭い。いや海臭い。ここはイカの住む場所で、俺の住む場所ではなかった。安息の地など、どこにも存在しない。
やがて僕は出て行く決心をした。僕が四十八歳の頃だ。
良うく見るんだ。引き出しから少しだけ顔を出して、チャンスを伺え。飛び出すタイミングが重要だ。ほら、あと一回、あいつが鼻をすすったら……、今だ!
ブリン!
僕は手に握ったイカめしを興奮のあまり握りつぶしながら外に飛び出し、親戚の家に向かった。俺の兄貴の家だ。そこには十八になる兄貴の娘と十六になる息子がいる。娘に一万円(とご飯粒)、息子に八千円(とご飯粒)、それぞれをイカ臭い封筒に詰めて俺は歩みを速めた。そこには、俺の求めるぬくもりが、確かに存在するからだ。

1月19日 今度こそ引っ越すぞ。

我が家の目の前で行われているアパート新築工事が今まさにクライマックスを迎えようとしている。それに伴い騒音レベルも今、最高潮に達しようとしていた。
カーン!カーン!という鉄塔をハンマーでぶっ叩いているかの様な音が一日の始まりを告げ、それを合図に目を覚ました僕は眠たい目を擦りながらカーテンを開ける。MATAOKOSARETA,1HOURMOHAYAKUNA!
薄暗かった部屋に日差しが入り、視界に新築工事中のアパートが飛び込んでくる。さあ、今日も音楽会が始まった。誰も期待していない題名のない音楽会で、鉄塔叩きのマエストロが自慢のハンマーを忙しげに振り上げては鉄の塔をぶっ叩いているのだ。
マエストロの合図にゴウンゴウンというエンジン音が響き渡る。何のエンジンだか知らないが、ゴミ収集車の音を倍程大きくした騒音が誇らしげに響いてくる。身体の芯にズンズン響いて来る低音が僕を病気へと誘う。何しろ酷い寝不足だ。
やがて遠くのほうから廃品回収車の繊細な音色が聞こえてくる。遅れてきたコンマス(コンサートマスター)(ベーション)の登場だ。「いらなくなった、テレビ、コンポ、パソコン、ビデオ……無料にて、無料にて引き取ります」
この近辺に余程執着があるらしく、家の前を通り過ぎてはすぐに戻ってくる。多分、別れた奥さんが生活しているのだろう。
マエストロは鉄塔を叩き続けている。カーン!カーン!「無料にて」カーン!カーン!「無料にて」
二人の偉大な音楽家は音の魔術で僕を魅了していた。こいつら俺を殺す気だ。
畳み掛ける様に上の階で掃除が始まった。掃除機のヘッドを壁に激しくぶつけているのだろう、排気音に混じってゴツンゴツンという音が壁を伝い響いて来る。程なく隣の奥さんが子供を叱り始めた。僕は魔界に住んでいるのだ。ブオオー!ゴツン!「コラー!」ブオオー!ゴツン!「コラー!」「無料にて」「無料にて」「コラー!」カーン!ゴツン!「コラー!」カーン!ゴツン!ゴツン!
ゴツン!
「コラー!」
「ブウッ!」
「うわああああああああ!!!」
僕は耳を塞ぎながら家を飛び出し、そして引越しを決意したのだった。

2月8日 インフル。

突然、酷い寒気に襲われた。この世の終わりを予感させる悪寒に俺は酷く不安になった。今出来ることは家路を急ぐことだけだった。
視界が回る。熱だ。俺は熱に侵されている。
フラフラと覚束ない足元に意識を集中し、倒れぬようなんとか家まで辿り着くと俺は布団に倒れこんだ。
安心したのだろう。すぐに先ほどよりも酷い寒気に襲われ、身体がブルブルと震え出した。あの日、中国製のトカレフである黒星の銃口を突きつけられ、死ぬと意識した時もこれほど震えはしなかった。黒星。梅干。御ふんどし。そう、俺は一度死に掛けたことがある。
熱にうなされながら俺は昔のことを思い出していた。あの頃、全てに絶望していた十年前、俺は一度死の淵を覗いていたのだ。いや、覗くと言うより、死に捕らえられていたと言った方が近いのかもしれない。死、というものは此方から近寄るというよりは、いつの間にか近寄られているという方がしっくりくる。音も立てずに忍び寄られ、気付いた時には取り返しが着かない程傍まで迫っているのだ。あの時、俺は確かに梅干を突きつけられていた。
「これ、食べんね」
突きつけられた梅干を俺はじっと見ていた。
その梅干は、まず梅干と呼べるかどうかが不安な「固体」だった。ところどころから柔らかい毛の様な物が生えており、時折、まるでそれ自体に意思があるかのように脈打つのだ。ドクン、ドクン。
俺が手を伸ばし梅干を触ると梅干は少しばかり縮んだ。梅干特有の酸味の在るにおいが鼻をついた。
「これ、食べんね」
なおも九州弁で俺に梅干を勧めている。俺の命(タマ)はこいつに握られている。
暑い夜だった。シャツが汗でへばりついている。梅干にもうっすらと玉状の汗が浮かんでいる。
「これ、食べんね」
三度目の勧告で俺は嫌になり梅干を一思いに握りつぶした。「ギャア」という声を発して奴はその場にうずくまったので、俺は少し焦った。命(タマ)は助かったが玉(タマ)が一つもげてしまったようだ。もげた玉の代わりになればと、俺は大事にしていた四星球を奴の手に握らせた。祖父の形見だったが、タマのもげた奴の気持ちになればこんな玉くらいいくらでもくれてやれる。
朦朧とする意識の中で俺は考えていた。ああこれがインフルエンザというやつか。
この幻覚はインフルエンザが俺に見せているまやかしに過ぎない。インフルが幻覚を演じている。このインフル演者め、全く腹の立つ奴じゃ!ムカムカ!(タミフルを頬張りながらフェードアウト)

3月4日 読み物「ロックな女」

「俺という存在がロックなら、君はまるでレゲエの様だ」
彼はそういい残して私の前から姿を消した。私にはなんの事だか意味が解らなかったが、いいと思った。自分の存在がロックだとかそういう事を言う男は私の前から消えればいい。だから私はいいと思った。大体彼はロックでもなんでもない普通のサラリーマンで、伊達メガネをかけていた。よく聴く音楽はB'z。乗ってる車は中古のプジョー。普通といえば普通。普通の男が私の元を去っただけ。
これまでも、これからも私は一人で生きてきた。何人かの男が私を通り過ぎていった。男の腕に寄り添っている時、私は幸せを感じる事が出来た。この人ならもしかすると、と思える相手もいた。でもやがて通り過ぎる。束の間男達は私の所で足をとめる。でもそれは永遠に、ではない。彼らは目的地へ向かう途中で、疲れたから休憩していただけなのだ。私はチェーン店の喫茶店。容姿も趣味もベッドでも普通。退屈な女。
彼が言った「レゲエ」という言葉が引っかかっていた。レゲエ位私でも知っている。ボブ・マーリィとかなんとか言うのが有名な黒人の音楽だ。ネットで意味を調べてみると、「普通の人々(regular people)のための音楽」のregularがなまったもの、とあった。
普通の人々。私に相応しいと思ったけど、彼はそこまで意図してそんなことを言ったのだろうか。それに日本で普通の人々はポップスを聴いている。十代中頃、日本の普通の女子高生だった私はミスチルが大好きだったが今はそれほどでもない。
あの頃の感受性はどこに行ってしまったのだろう。
多分、あの頃のわたしだったらどんなに下らない男だろうとも、去った後は寂しさで大泣きしていただろう。でも今は何も感じない。ロック野郎が去ってくれて清々している。
清々している?少し違う。それだと何らかの感情を伴っているけど、今、本当に感情がない。
レゲエ。私はレゲエの女。

あれから5ヶ月、新しく出来た彼はドレッドヘアーの暑苦しい男。ラスタカラーと茶色の物をこよなく愛している。好きな音楽はレゲエ。色々聴かせてもらったが私にはどうも馴染めない。でも彼が好きな物を私も好きになってみようと思っている。
今夜、彼はバイト。部屋で一人ビデオでも観ようとTUTAYAでレゲエのDVDを借りてきた。
画面の中で女のダンサーが腰を振りまくっていた。レゲエダンスというらしい。とてもいやらしい腰の動き。私もテレビの中の女の人の動きを真似をしてみる。ノッてきたので、イエイとかワオとか声を出して夢中になって腰を振っていると彼が帰ってきて気まずい雰囲気が流れた。困った私は腰を振りながら彼に接近したみた。彼は後ずさり、さらに気まずい雰囲気が部屋を飲み込んだ。

あれから一年。彼とはあの後2ヶ月付き合って別れた。原因はお互い冷めたことだけど、それには多分あの夜の事も少しは関係しているのだろう。私はまた一人だけど一つだけ得た物があった。それはレゲエ。あれからレゲエという物が好きになり、今ではダンススクールにも通っていて、だいぶ踊れるようになった。今度クラブのイベントでステージで踊ることになっている。緊張するけどそれ以上に充実している。
多分、私の様な女をロックだと言うのだ。

4月8日 「戦士」

ああもう駄目だな。このサイトに対する思いは日に日に薄れていくばかり。いや、もう大分前から思いはどこかに行ってしまっていた。どこかに行ってしまったソレを僕は必死に探したのだが見つけることは出来なかった。多分、もうどこにも無いのだ。
情のような物は残っている。そりゃ五年近くもやっていたら情だって湧く。しかし、五年か。
五年という月日が長いのかどうかは解らないが気付けば僕は「おっさん」に片足を突っ込んでいた。「おっさん」という生き物は知っているのだ。足掻いても抗っても無駄だと言う事を。受け入れ、流される事が必要だと言う事を。いや、受け入れ、流され、抗わない存在が「おっさん」であるのなら僕は既に「おっさん」なのだ。どっぷり「おっさん」なのだ。オッスオラ「おっさん」なのだ。母さん、この味どうかし「おっさん」なのだ。
「おっさん」である僕はもうここに記すべき言葉も持っていない。僕が持っているのは「おっさん」のトレードマークでもある「体臭」と「口臭」だけだ。何かを表現したいという情熱も残っていない。僕に残っているのは「疲労物質」だけだ。
「体臭」「口臭」「疲労物質」という三つのエレメントが揃った時、「おっさん」は更なる進化を遂げるという。ヘヤスタイル「七:三」(セブンスリー)が「code:B」へと変貌する。装着したブラックエッジグラスの付け根がへし折れ、レンズに割れ目が入る。His daughterに「アンダウエア」の「ドントウォッシュトゥゲザー」を発令されたのは昔のこと、今はただ「ホリデイ」に「邪魔だからゴウトゥサムウエアー」しろと言われ、会社では「リストラ」。行ってきますと家を出てから行く当てもなく「park」へ。コンビニで万引きしたポップコーンをハト達にばら撒きながら彼は考える。俺にも、俺にも羽があったなら!
やがて家のローン返済が滞り始め、催促が来るようになる。あなたコレはどういうこと?と問い詰められ彼が選んだのは「蒸発」
全てを放り投げた彼が感じたるのは生まれて初めての「自由」という感覚。最初は戸惑ったがやがて受け入れる。なぜなら彼は「おっさん」だから。受け入れ、流され、抗わない存在「おっさん」だから。
抗わない孤高の戦士「おっさん」だから。
だから彼は戦う。好奇の視線と哀れみの眼差しと、そして、自分自身と。
あとは悪い奴と。なんか悪の秘密結社みたいなのとかと。それと駐禁を切る婦警とか、タンを吐く外人とかと。
あとは西武の松坂とか。

4月18日 「負け犬」

交通安全週間と名のついた魔の週間がようやく終わった。僕はと言えば月極駐車場を出て3m程の所で運悪く居合わせた白バイの魔の手により、「一時停止不履行」と、最早でっち上げに近い違反項目を無理やり押し付けられ、減点二点、七千円の罰金という、かつ上げにも似た違反を強引に言い渡されてしまった。
あのな、あのですよと、僕は思った。その日は大変気持ちよく晴れ渡った春先ののどかな昼下がりだった。納車されて間もない愛車の洗車でもしようと鼻歌交じりで駐車場を出てすぐの場所に奴はいたのだ。たまたま。たまたまその時間その瞬間に、だ。まさに逢魔が刻であった。
あのな、あのですよ。その日、一日、僕のテンションはどん底まで落ち込んでいた。たまに蒸し返す怒りで目の前が真っ赤に染まったかと思えば二点、そして七千円という罰金が脳裏をよぎり一気にバカらしくなるのだった。
「見逃せよ」
これは敗者のたわごとだ。だが真理でもある。
「見逃せよ」
その場所は通勤で何百回と通っている場所だ。徐行で進めば危険はない、なぜならそこからは何も飛び出してこないからだ。だから貴様は我輩を見逃すべきである。と、注進するも彼奴ときたらまるで無視。良いか、そこから飛び出す者はなく、ここから飛び出す者を取り締まらんか!と、ズボンのチャックを下ろすも彼奴ときたらまるで無視。我輩、咳払いを一つ放った後チャックをゆっくりと上げる。上げる際に、あいた!と、愚息を挟んだふりをして、上目使いで彼奴を見上げるも無視。気を取り直し、美しい女性に取り締まられたいものだ……、下半身でナ!なんちて!と、おどけて見せるも彼奴ときたら無視。無視。無視である。まるでバカの一つ憶えの様に無視である。気の利かない公務員だ。死にさらせ!と、呪いの言葉を吐いた際に恐ろしい目で我輩を睨み付ける公務員。おやおや、怒りっぽいですね、短気は損気、チン子は病気と言いますからね、はっはっは、と気の利いた冗談で場を和ませようとするも無視。食えない奴である。
食えないね、チミも。とボソリ呟くと彼奴に「はいここにサインして」と言われたので、言われるがまま、筆記体にて「Juboruze Peninmosse(ジュボルズ・ペニンモッセ)」と格好よく書き殴るも、彼奴ときたら冷めた目で我輩を見下すのみ。ううむ、困った。人から見下されるのは苦手である。確かに我輩はペニンモッセではないが、彼奴とてそれは同じ。言わば同じ穴の狢である。同穴狢である。まるで麻雀の役のよう。同穴狢、満貫である。知らないけど。
ああ、こいつ死ねばいいのにマジで。と心の中で心の中で毒づきながら書き直されたきな臭い違反切符に、これまたきな臭い文字でサインをした日曜の昼下がり。僕は負け犬であった。臭い臭い、負け犬であった。

5月8日 ボヤく

五年。五年だ。「埋め立てられたボットン便所」の名を欲しいがままにしていたこのサイト、ヒダリマガリネオも気付けば五歳を迎えていたのだった。
十年の半分で五年。長いようで短かったこの年月、でも、おそらく長いのだろう。人を変えるには充分の時間で、現に僕は随分と変わった。若者が管理する区域からおっさんの管理する領域に足を踏み入れたとでも言うべきか。かつての理想や思想や夢は消え、変わりに世知辛い現実を受け入れるに足る心を手に入れた。
かつて、子供の視点からみた大人はカッコよくて何でも出来てどこにでも行けるスーパーマンのように思えたものだ。年齢的にも社会的にも成熟した今、昔自分が想像していた姿になれたのだろうか。どこかに行く力を持つわけでもなく、一人で生きる術も知らない弱者だったあの頃、憧れていた「強い大人」になれたのだろうか。「カッコいい大人」の姿に近づけただろうか。未来的なサングラスをかけた端正な顔立ち、高い鼻に少し蓄えたヒゲが美しく左右に伸び、額に「D」と誇らしく描かれたグリーンの頭巾を被った姿になれたのだろうか。少しの出っ歯がチャームポイントで、「ポチッとな」が口癖のメカ担当になれたのだろうか。
なれてなどいない。近づけてなどいない。僕は理想を失ったつまらない大人だ。抗うことをやめ、従うことを選んだ大人だ。戦うことを諦めた大人だ。どうして、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
今更ボヤいてみても始まらない。ボヤボヤ。どうして俺は年下のあんな変なマスクを被った女にいいようにコキ使われているのだろう。大体様付けで自分を呼ばせる女など狂ってるに違いない。
しかし、あの女の身体は凄く魅力的だ。変なレオタードからスラリと伸びた足。その両の足の付け根にある秘密の部位を何度夢想し、汚したことだろう。想像の世界で俺は自由に羽ばたける。力(ちから)バカの薄汚いおっさんのイビりに愛想笑いを振りまく必要もない。俺はドロンジョを汚した。何度も何度も汚した。汚した次の日、彼女の顔を見て少し優越感に浸る。昨日、何度も欲しがったんだよなオマエは。
ああ、また下らない日々が始まる。なんとかマンとか名乗る頭のイカれたガキのカップル相手に、それこそ血のにじむ様な努力の末に完成したメカを壊される日々が始まる。ガキは簡単に壊す。それも笑顔でだ。創造する苦しみを知らないのだろう。
俺も、アイツらを壊してやろうか。
アイツらがペッティングしている姿を盗撮したテープが手元にある。これをネットに流したらアイツらの人生など簡単に壊れるだろう。何度も考えたが結局実行していない。結局、悪に染まりきれない俺は良い奴なんだろう。
しかし、醜い。正義の味方だかなんだか知らないが所詮は人間。醜い欲望を剥き出して、獣の様に貪りあっとるわ。……スゲえな。
……いやいや、最近のガキはマセてると言うかなんと言うか。あー、なんだかおじさんムラムラしてきちゃったな。ボヤこうかな。ボヤいとこうかな、 あーしかしエロい、じゃなくて醜い、醜い、醜い醜い醜い醜あっ!!
(ここで扉の向こうから何気ない顔でドロンジョが登場する)
ドロンジョ「……その汚いモノを早くしまいなボヤッキー!行くよ!」
俺「ア、アラホラサッサー!!」
(ボヤッキー、バツの悪い表情でズボンを上げ、ドロンジョの後を追う)(椅子の上に残されたティッシュにカメラはズーム)(バックミュージックがフェードイン。曲は荒井由美の「優しさに包まれたなら」)(やがてティッシュが虹色に輝きだし感動のフィナーレへ)

6月7日 DO

唯一無二の親友から結婚するとの報告を受ける。奥さんの腹の中には新しい命が育ちつつあるので、お腹が目立ち始める前に式を挙げるのだそうだ。式は来月某日。僕は「おめでとう」と言いながら、どこかおいてけぼりを食らった捨て犬のような気持ちになっていた。

親友とは十年前に出会った。
十年前の僕達には、どこまでも広がる輝く可能性が目の前にあり、それがあるのが当然だと思っていた。時折交錯しながらもまっすぐに上の方へと伸びた僕達の道はいつしか交わるのをやめ、別々の方向へと成長を始め、やがて僕達をこの場所に運んでいた。
今では僕の目の前には広がりのない腐りきった可能性があるに過ぎず、彼の人生には新たに二つの可能性が交わり一直線に伸び始めた。険しいかもしれないが決して間違っていない、新しい可能性。新しい道。輝く未来。
僕の道は険しい上に臭いという明らかに間違いの道。ゼロに近い可能性。地獄へのロングアンドワインディングロード、そしてきな臭い未来。
仕方がない、これが僕の選んだ道だ。僕はきな臭いフューチャー(きなくさフューチャー)へと一歩踏み出した。大地をしっかり踏みしめ一歩一歩確実に死へと、この世のヘルへと向かう。しばらく歩くと高そうなスーツを着たセールスマンに浄水器を薦められて、いらないです、興味ないですと断っていたら殴られて無理やり契約させられた上にクーリングオフしたら殺すと脅されたので先に殺して押入れに放りこんだ。
次の日、死体が椅子に座らされていたので、押入れの中に住んでいる男になんのつもりだと問うと、男は青白い顔をして、僕だって死体と一緒じゃテンションがあがらないし、道具も出せませんよと言うので、なるほどそれも一理あると納得して、死体が僕の椅子に座る事を承諾した。やがて、赤い鼻の下の小さなヒゲを触りながら男が死体を剛田の家に置いて来たらどうでしょうというので、少し考えてから従うことにした。剛田は嫌いだから、まあ丁度いい。その為の何か道具を出してくれと言うと、男は腹の辺りにある大きなポケットからハンカチを取り出し、開いたハンカチの中に痰を吐いてまた畳んでポケットにしまったので期待するのをやめた。
そうこうしていると死んでいた筈のセールスマンが目を覚まし、浄水器の水で便秘が治るとか、健康になって肌の血色が良くなる、などを青白い男に言い始めたので僕はそれを見ていることにした。男は時折、助けを求めるような視線を僕に送ってきたが僕は気付かないふりをした。しばらくすると青白い男は契約させられた上にちょっと泣いていたので少しだけ愉快な気持ちになった。
セールスマンは先ほどと同じく、クーリングオフしたら殺すと言っていたので、僕は失礼しますと断りを入れてからセールスマンを殺して、押入れに放り込んだ。
だから、僕だって死体と一緒じゃテンションがあがらないし、あがらなければ道具も出せないんですって、とうんざりしたように言われたので、だったらお前が剛田の家に置いてこいと死体を押し付けて僕は外出することにした。外出するにはどこでもドアという名前が付いている廃材置き場から拾ってきたトイレのドアのような物体をくぐらねばならない。くぐろうがくぐるまいが何の変化もなく、愉快な気分になるわけでもない。いい加減これやめない?と青白い顔の男に言っても聞く耳を持たないのは、元引きこもりの彼にとって、これが外出する為に必要な一種の儀式的なものになっているからなのだろう。
僕はどこでもドアをくぐり、夜の新宿へと繰り出した。

つづく

7月18日 親不知

疲れが溜まると親知らずがズキズキと痛む。せっかくの休日だというのに痛みのせいで一日中悶えて過ごす羽目となった。
しかしこれほどまでの鈍痛は今までになかった。波のように寄せては引き、またすぐに押し寄せる痛みに僕は苛立っていた。疲れを溜めた僕が悪いのか、痛む親知らずが悪いのか。
痛みというのは、身体の不調を伝える大切な感覚だというが僕はそうは思えない。なぜなら僕は気付いている。気付いているのにも関わらず尚も僕にメッセージを送り続けている。一体僕に何を望む?
誰しも痛い思いをしたくないから、自分を守ろうとする。時にそれが誰かを傷つける結果になろうとも、自分が痛い思いをするよりは良いから。親知らずはまさにそれだ。自分が傷つくのが怖いから、自分の周りを傷つける事によって自分を守っているのだ。ハリネズミの様に強力な刺で自らを覆い、誰にも触れられないようにしている。その身体に、心に触れようとすればすべてを傷つける。自分を守るために。
そこまでして守る必要があるのだろうか。そこまでして守るべき自分とは何なのだろうか。何をそんなに頑なに守り通しているのか。投げ出してしまえば楽なのに、逃げ出してしまえば楽なのに、親知らずよ、お前は何を守っている?僕を傷つけてまで守るべき物などそこにあるのとでも言うのか?どうなんだ?ん?一体何を守っているのかな?ホラホラ、ちょっとおじさんに見せてごらん?怖くないから、大丈夫だから、そう、ゆっくりでいいからね。隠しているもの見せてごらん。まずはそんな布、とっちゃおう。いやいや、怖くないよー。みんなやってるんだから。とっちゃおうそれ、その布。脱いで。早く。早くしないとおじさん怒るよ。おじさん怒ると世界が滅びるよ。怖いよー。とても怖いよー。だからね、急いで脱ごう。ホラ!早く!急いで脱いでその布!
そうそう、いい子だねぇ……。そしたらね、ゆっくりとね、足をパカっとね……、ん?ママに怒られる?こらこら、お嬢ちゃん、嘘はだめよ。お嬢ちゃんのママいないでしょ。親知らずなんでしょ。親知らずのくせに何を言ってるのかな?
……ん?嘘なの?ホントは知ってるの?親知ってるの?え?ママが?ママ知ってるの?ここに?おじさんがお嬢ちゃんと一緒にいること……?
えっ?もうすぐくるの?
……。
ゴホン。
そう、お穣ちゃん、やっと本当の事が言えたね。ママは大事だよね。パパも大事だよね。もうね、嘘はついちゃだめだよ。親を知らないなんて悲しい事、言っちゃダメだ。親はお嬢ちゃんのことね、大切に思ってるの。おじさんはね、それを言いたかっただけなんだよ。解ったかい?だからお嬢ちゃんもね、親を大切にするんだよ。
うん。いい子だ。
よし!じゃあおじさんは行くからね。バイバイしよう。そう、バイバイ。こうやってバイバイしよう。足をね、こうパカパカ開いてね。そうそう、座ったままでいいからね。バイバイ。そう、バイバイ。バイバイ!バイバー……。

(振り返ると鬼の形相をした彼女の母親と制服を着た警官がいた。僕は逃げようと勢いよく駆け出したが、警官に警棒で腕を殴打され、僕は痛みで怯んだ。痛いのはいやだ、でも逃げなくては捕まってしまう!自由を奪われるのは、痛いのより嫌だ。僕は警官を殴りつけた。警官は鼻から血を流しながら僕に跳びかかってきた。馬乗りにされ、あんまりにも警棒で殴られるものだから、僕は抵抗するのをやめて投降した。
あの時の警官の言葉が忘れられない。
「私は子供を、市民の平和を守る!」

僕には守るものはない。それでも殴られた腕も顔も痛い。それに……、確かに痛むこの心は、僕がまだ、人間であるという証拠なのかもしれない。これが、この痛みこそが、今の僕を保っている唯一の確かな存在なのだから)

9月23日 うんこ


オイオイ、久々に更新されたと思ったらそれかよ、と思って頂きたい。是が非でもそう思って頂きたい。そしてその言葉に秘められた真実を探って頂きたい。人が知りたいと言う欲求から文明を発展させた様に、その知的な探究心で探って頂きたい。そして感じて頂きたい。ウンコと言う果てしなく純粋な、そして悲しいほど無防備な言の葉に秘められた、僕の熱い魂の叫び的な何かを。僕の熱いソウル的な何かを!何か、ソウル的な熱い、これ、このー、あー、その、これ。ちくわぶ。これ。熱いこのちくわぶ的なソウルを!感じて頂きたい!さあ、心の扉を開いてご覧!開いた心の中をそっと覗いてgo round!ほら、見えるだろう。無理やり閉じ込められた記憶の奥に眠る、幼い頃夢中になっていた何かの夢のKAKERAたちが。繋ぎ合わせてカタチを創って、またもう一度、夢中になってみても良い筈だ。なぜならそう、僕たちは充分に年を取り、こうして大人になったから。今では僕たちは随分と強くなった。僕たちが背負っている重荷も、前ほど重くは感じないはずだ。あれだけ歩くのに苦労した道も、今では楽に進めているはずだ。そろそろ良いだろう。もう一度夢中になったって良いだろう。あの頃、あの幼い日。犬のウンコに火薬を混ぜて、燃やして喜びを感じていたあの幼い日に帰ってみ
「あ、ちょっとちょっと。普通の子供は犬のウンコに火薬を混ぜないです。大体燃やさないんで、そこやり直したほうが良いかもです」
「はあ、すんません」

もう一度夢中になったって良いだろう。あの頃、あの幼い日。女性器を初めて目の当たりにし
「あーコラコラ!ダメ!そういう露骨に性的な表現は遠慮してほしいかもです。それにあんまり子供じゃないですよねそれ」
「まあ、そうですね」

もう一度夢中になったって良いだろう。あの頃、あの幼い日。秘密の茂みをかき分けて、命の喜びを唄うロマンティックかつ淫猥なあの女性k
「オイ!だから!ダメって!君はいつからそんな下品になったの!そういうスタイルじゃなかったですよね。やめてくれます?」
「はあ、すんません」

もう一度夢
「あ、もう女性器とかそういうの出したらクビにしますからね」
「どこからですか?」
「え?」
「どこから出したらクビがどうのなんですか?」
「あのですね、どうせチャックから、とかそういう事を言いたいんでしょうけどね。つまりそういう性器系の表現はやめて欲しいってことです。許可が下りてるシモは大便までです」
「はあ」

もう一度夢中になったって良いだろう。あの頃、あの幼い日。朝早くからカブトムシを探して、森の中を走り回っていたあの日。早朝の茂みの中で、下半身だけ裸の男女が互いの肉を貪り合ってこう、このー、あー、その、これ。ちくわぶ!みたいな。
「まあ、もう良いですけどね。なんでも」
「すんません。もうシモ系しか書けないみたいです僕」

すんません、もうシモ系しか書けないみたいです僕。

11月28日 不具田の場合

さあ、久々に更新しよう!更新して、僕が生きていると言うことを皆に伝えよう!僕は生きてるよ!僕は生きてるよ!僕は生きて、息をしているよ!心臓が鼓動しているよ。生命体だよ。いや、いっぱしの生命体気取りだよ!毛穴から毛が生えているよ。元気よく生えているよ!すね毛が絡まってるよ。複雑に絡み合って、嘆いているよ!これが人間関係なの、と言わんばかりに。哀しいでしょ、と言わんばかりに。もう解くことは出来ないの、と言わんばかりに。こうなってしまったのは誰のせいでもないの、と自分を慰めるように。

海にはすごい神様がいるんだよ。
そう聞かされて育ったヨシエは、小さい頃から海に特別な思いを持っていた。 どことなく海を思わせる不具田とヨシエがこうなったのは、自然のなりゆきだったのかもしれない。
不具田もヨシエも愚痴の多い性格だった。仕事や上司への不満から、不具田は自分の妻や、四歳になる子供、同居している妻の兄妹と両親についての愚痴を吐き出し、互いのキズを舐めあうようにして二人は絆を深めていった。不毛の大地にぽっかり空いた、甘い臭気を放つ底の見えない深い穴に、二人はいつしか引き寄せられていたのだ。その穴に落ちればもう二度と、光など浴びれないという事にも気付かずに。
不具田は妻の両親と同居している為、家庭内での立場は非常に弱い。妻の弟が不具田と妻の性行為を覗くらしいが、それを注意することもままならないのだと言う。四つ年下の会社の後輩であるヨシエは、そんなプライベートな話までしてくれる不具田に、徐々に心を開いていくのだった。
ヨシエは上司の穴子が苦手だった。不具田にその話をすると、彼もあまり、穴子のことを良く思っていなかったようで、二人はますます意気投合した。
穴子は不具田と同期だが、寡黙ながら黙々と仕事に打ち込む姿を評価され、出世した。当然不具田は面白く思わない。 また、口元と声がイヤらしいという下らない理由から穴子は女子社員の間では評判があまりよくなかった。どちらにしろ、上司は嫌われる立場にある。
共通の敵の愚痴を言い合う間に二人は、いつしか互いを慰めあう事に喜びを感じあうようになっていた。ネガティブはネガティブを助長する。二人はいつしかそれを恋と勘違いし、そして深みにはまっていった。
ベッドの上で、二人は確認しあった。最初は冗談めかしていたが、回数を重ねるごとに現実的になっていった。
「穴子を殺そう」
互いに突っ走る性格だった。不具田が、寝ないで考えてきたんだ、と得意げに計画を話し始めた。今考えればそれはお粗末と呼べる計画だった。しかしその時のヨシエには、不具田の考えたその案がとても素晴らしい計画の様に感じられたのだ。不具田はセクシーで、頼もしかった。不具田の動作一つ一つにセックスアピールを感じた。裏声が混じるしゃべり方はさざ波を思わせたし、小さなメガネが下がり、それをグイと押し上げる姿に潮の満ち引きを感じたし、彼の胸元から覗いた体毛は海に揺らめくひじきを思わせた。彼は私のポセイドン。海の神。神が誤るはずが無いのだ。ポセイドンの立てた計画は絶対なのだから。
そして二人はその幼稚な計画を実行に移した。

「相談したいことがあるんです」
ヨシエが穴子を就業時間後のオフィスに呼び出す。
やがて現れた穴子。そのとき、ロッカーに隠れていたポセイドン不具田が後ろから穴子を殴りつけ、後は一方的に暴行を加え、その命を奪った。
その時、ヨシエは逃げれば良かったのだ。差し出された血まみれのポセイドンの手を取っても、未来など無い事に気付いていたのに。破滅願望があったのかもしれない。とことん、堕ちるところまで堕ちればいいと思っていたのかもしれない。それとも、この、殺人を犯したばかりのこの男の妻の悔しがる顔を見たかったのかもしれないし、この男を妻の元へ返したくなかっただけなのかもしれない。ヨシエは、不具田の手を取った。
その日から二人の安モーテル巡りが始まった。昼間のサービスタイムを利用して夜まで居座り、そのまま宿泊へと延長し、翌朝、また別のホテルへと移動する。
一週間、そんな暮らしを続けたが誰も二人に気を止めるものはいなかった。
当然、会社や彼らの周りでは大騒ぎだった。警察も二人を重要参考人として彼らの足取りを追っていた。
やがてその捜査の手がホテル街にも迫り、彼らは離れ離れになった。ヨシエがコンビニで夕飯を買っているところを警察に保護されたのだ。やがて警察が二人が泊まっていたホテルになだれ込んだ時には既にポッセ不具田の姿はどこにもなかった。
それから数ヶ月後、ポセイ田らしき男が崖から海へと飛び降りるところを目撃されている。死体はあがってこなかった。彼は海へ還ったのだ。
彼のものと思われる指輪が、現場付近から発見された。裏には、「アイデンティティー」と、彼の知性を感じさせる言葉が刻み込まれている。その指輪は、ヨシエと共に購入した指輪だった。
(「俺のはアイデンティティーで、ヨシエは海好きだからチガサキね」)
目を閉じれば幸せだった頃のポセインの声が聞えてくる。

ヨシエは裁判にかけられたが、殺人犯に連れまわされ、心身ともに衰弱していたというシナリオの元無罪となるが、精神病院に入院させられる。
今、思えば。
今、思えば、不具田の愚痴を聞くべきではなかったのかもしれない。
今、思えば、不具田に愚痴を聞いてもらうべきではなかったのかもしれない。
私のポセイドンはポセイドンではなかった。彼は、ただの恐妻家だ。
病棟の窓からは月の明かりが薄っすらと差し込んでいる。飛び降り自殺を防ぐために窓は酷く小さい上に、鉄格子がかかっている。
数回の自殺未遂の末、今は拘束具で肉体の自由が奪われている。
こうなってしまったのは、誰のせいでもない。誰のせいでもない。誰のせいでもない。誰の、せいでも、

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