・アジア通貨危機とIMF

  
T、アジア通貨危機
U、IMFの問題点

V、新国際通貨秩序創造への政策

W、総括



T、 アジア通貨危機


  1997年7月、香港返還日翌日のタイのバーツ下落に端を発し、アジアほぼ全域に渡って大きな爪痕を残したアジア通貨危機は、今なおアジアにその影響を及ぼし続けている。
  「世界の成長センター」と評されたアジアは、輸出志向型の産業政策、積極的な外資導入政策、市場経済メカニズムの導入といった外資依存によって発展してきた。それは80年代にさかのぼる。当時の日本を始めとする先進国企業は、競争力強化のために労働コストの安いアジアに進出し、また、そこでアジア諸国は外国の資本を導入し、外資系企業の技術を習得しようとした。このようにアジアと先進国のニーズが合致し、アジアは高い経済成長を実現することができたのである。
  しかし、通貨危機は発生した。94年、タイはオフショア市場を整備し、外国投資家は長期資本等の直接投資にとどまらず、短期の運用資金も持ち込むようになった。また、さらにタイでは同年のメキシコ通貨危機を受け、アメリカとの利子率の差を明確にするために利子率を高めに誘導し、このことも短期資本の流入を助長した。そしてこの短期資金の流入の規模が、タイが本来必要とする資金をはるかに上回りバブルを発生させ、その崩壊という形で通貨危機を発生させたのである。 さらに、当時同じような状況にあったマレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国へとこの通貨危機は伝播した。



U、IMFの問題点

  通貨危機に見舞われたアジア諸国は、自国の外貨準備を取り崩しながら自国通貨の防衛を試みた。しかし、外貨準備が枯渇することを恐れたタイがIMFに緊急融資を要請し、インドネシア、韓国もそれに続いた。この緊急融資に世界銀行、ADB、米国などとともに日本も参加した。IMFは最後の貸し手としての機能を持っている。通貨危機を起こした国々を支えることにより、国家のデフォルトを回避し、さらに世界経済の安定を支えてきたのである。しかし、今回の通貨危機の発生によってタイ、インドネシア、韓国、フィリピンなどへの融資額が膨らんだ為に、現状ではIMFの融資可能額が底をつきつつある。また、アメリカでは、通貨危機を起こした国のモラルハザードを考え、IMFへの資金の支出を拒む意見も出ている。そのため、NAB,GABによる緊急融資が必要である。先にも述べたとおり、実際、アジア通貨危機では先進国が資金を出し合った。また、日本は単独でアジアに資金援助をした訳だが、その資金には、コンディショナリティは採用されておらず、かならずしもIMF主導ではないのが、現状である。
  さらに、IMFのコンディショナリティへの疑問もある。中南米における債務危機、通貨危機解決におけるIMFの処方箋は成功したといえる。その理由は、@、中南米の債務は主にソブリンローンである、A、財政赤字である、B、貯蓄率が低い、という原因があり、それに対しては、金融セクターの健全化策、財政・金融政策による総需要抑制、さらに経常収支縮小は有効であるといえる。しかしながら、今回のアジア通貨危機では、短期資本は民間企業に投資されていた。さらに、財政は赤字ではなく黒字であったし、貯蓄率も高い。そうしたことを考えると、IMFのコンディショナリティは不適当であったといえるのではないか。
  中南米は先に見たように、財政赤字で貯蓄率が低いために、増税と歳出削減による財政赤字削減と高金利と信用収縮による金融引締めを行ったのは、
X−M=(S−I)+(T−G)  @
から考えると当然といえよう。しかしアジア危機においては、財政は黒字であり、貯蓄率も高い。したがって、『伝統的処方』でもって対応すると、経済が縮小均衡してしまう。そこでアジア通貨危機の場合は、
 X−M=Y−(C+I+G) ただしYは国内総生産  A
から、Yを上昇させるために、政府支出を上昇させればよいのではないだろうか。なぜなら、アジア通貨危機では、@式において民間投資超過であり、財政は黒字であるからであるため、A式においてG(政府支出)を拡大させることが可能である。Gを上昇させれば政府支出乗数を通じて、δY>δGとなり、経済を縮小均衡に向かわせずに経常収支を改善させることが可能となる。また、通貨危機による通貨切り下げから生じる貿易量と額(自国通貨での)の伸びは経常収支の改善にも期待できよう。
  このように、中南米とアジアの通貨危機では、政府債務と民間債務といったように、状況が異なっている。この点を考慮に入れるならば、融資条件であるコンディショナリティも若干変化があっても良いのではないだろうか。そのため、アジアにはアジアの、アメリカ大陸にはアメリカ大陸の通貨基金が必要ではないだろうか。つまり、IMFの補完機関として、地域経済通貨基金なるものを創設するべきではないのだろうか。



V、新国際通貨秩序創造への政策


 エマージングマーケットと呼ばれる新興成長国においては、資本は経済発展のためには必要である。しかしながら、その資本によって経済を破壊されたもの事実である。エマージングマーケットは、入ってくる資本をすべて受け入れるのではなく、必要な量だけを利用する手段を講じなければならないのある。そこで、政策の方向性を「キャピタルフローの拡大にともない、通貨危機の危険性が増大する国際経済を安定させ、安定成長を促す新国際通貨秩序を創造する」とし、これからはこれに沿った手段を講じるべきであると考える。
  そこで、次に政策への手段を考えてゆこうと思う。手段としては幾つか挙げられる為、まずは@〜Dに分けてそれぞれについて考察し、最後にそれらを踏まえてさらに考察を深める。
@ IMFの機能強化
 現在、IMFの機能は低下しているのは明白である。そこで、各通貨圏内、貿易圏内でのセーフティー・ネットの機能を持つ機関を創設する。アジア基金等がその具体例である。
A 相場制度の柔軟性確保
 固定相場において、資金が大量流入するとマネー・サプライは増大する。特にアジアでは、メキシコの通貨危機を受け、利子率を高めに誘導した。資本移動を促すために、固定相場を維持することは大切ではあるが、1国とのペッグは他国とは変動すること(つまりドルペッグにおいては、ドル高になればその国の通貨も円に対して高くなる)なので、実質実効為替相場は変動する。つまり、貿易相手国との通貨レートが他国の経済状況に依存せざるを得なくなるのである。そこで、通貨相場制度の柔軟性確保のため、アジアにおいては、将来的な変動相場制への移行を考え、通貨バスケット制をひき、円との加重ペッグを目指すべきである。
B 短期資本規制
 短期資本規制の手段としては、4つの手段が考えられる。トービン・タックスと、チリの準備金、マレーシアのような直接規制、ブラジルやタイのような課税方式である。つまり、為替取引きに0.05%〜0.1%の税金をかける方法と、チリのように必要以上の資本の流入を防ぐため、短期資金の30%を政府に準備金として無利子で納めなければならないという手段である。または、政府が銀行の外国為替取引や、居住者の外貨預金を直接規制を行う方法、これは日本が伝統的に行ってきた中央集中主義である。または、印紙税などの税金をかける方法である。
 トービン・タックスは、ヨーロッパやアメリカでは現実味を帯びて議論されているが、短期資本を必要としている国々の多くは、先進国ではなく発展途上国であることが問題である。またチリのように、短期資本を内側から規制し、安定成長を目指す方法があるが、チリのような小さな国では(経済力において)適応されるがある程度発展した国では適応されるかが問題である。また、短期資本を動かしているヘッジ・ファンドへも規制も必要なことではないだろうか。規制といっても、各金融機関が情報開示を義務付けられているのに対して、ヘッジ・ファンドは透明性にかける。ヘッジ・ファンドに融資しているのは金融機関ということも考えると、ディスクロージャーは必要ではないだろうか。
C エマージングマーケットにおいての規制
 通貨危機を最小限に防ぐ手段として、空売り規制と不動産融資規制を導入する。今回の通貨危機の原因として、アジアでは、バブルの発生が1つの要因であることはさきほど述べた。日本でも、バブルは、不動産価格の値上がりとともに拡大していったことも含めると、不動産融資規制は必要である。また、投資が国内のインフラや産業へ向かうためにも、この規制は必要ではないだろうか。
 次に、EUの通貨危機のきっかけや、長銀株の極端な値下がりの原因でもある、空売り規制をアメリカ並にすることが大切である。つまり、売った値段よりも低い価格での買い戻しの規制である。
D 変動相場制の安定
 Aの為替相場の柔軟性の確保で、将来的な変動相場への移行を提案したが、では、変動相場制の問題を解決するにはどうしたら良いか。問題点のところで出た、2つは、経常収支赤字の拡大と、過度のホットマネーの活動が招いている。そこで、短期資金のある程度の抑制と、発展途上国の経常収支の改善を提案する。また、マサチューセッツ・アベニュー・モデルからも変動相場に移行すべきであるといえる。
 @、A、B、C、Dから、IMFの機能を強化し、新興経済国を含めた新秩序を創造するため、地域経済通貨基金の創設を提案する。現在の国際経済は地域経済圏が確立されている。アジア、NAFTA、EUである。この地域にそれぞれ、通貨基金を創設し、Safety Netの役割を果たさせ、さらに通貨危機が起きたときに最小限度に防ぐのである。そのために、アジアでは、円への加重ペッグを目的とした通貨バスケット制を確立し、将来的には変動相場制への移行を目指すべきである。
  次に、短期資金(ホット・マネー)の規制についてである。4つの手段を出したが、現状を考えると、トービン・タックスは制度そのものよりもその導入が困難である。直接規制は、グローバルスダンダードを考えると時代遅れであり、通貨危機を起こした国の一時的な対策でしかないと思われる。そこで、現状では一番なのが、準備金制度ではないか。
 そこで、国際金融監督機関の設立を提案する。その機能は、低開発国(LDC)や、エマージングマーケット向けの短期資金に対してある一定の額を準備金として無利子で預け(1年後には返還)させる。また、ヘッジファンドへのディスクロージャーを義務づけさせ、各国の金融制度の監視と改革のへ助けをする。一定の準備高はそれぞれ国によって必要な額が違い経済状況(好景気か不景気かである)によっても変化するので、話し合いによってその比率を決定する、等である。つまり、国際金融監督機関を頂点とし、各経済圏にそれぞれ、セーフティーネットとしての地域経済通貨基金を創設するのである。



W、総括

 総括として、@短期資本の一部を準備金として預ける機関をIMF内に作り、IMFの補完機関として、地域経済通貨基金を創設する。A金融体制の強化と国際経済及び国際資本移動のチェックための国際金融監督機関を創設する。さらに、B資本の適正な融資のため、不動産融資規制と、空売り規制を、各国に義務付ける。以上の3点を新国際通貨秩序創造への政策として掲げたい。
 最後に、個別に地域としての今後のアジアの政策を挙げるならば、財政などのファンダメンタルズの良さ(他の通貨危機を起こした国と比べ)を考慮して、ドルへのペッグを改善する方法として、通貨バスケットの導入と、それに伴う円圏の拡大を提案する。そして将来的には変動相場に移行し、金融システムの改革と健全化を目指すべきである。
  そして、このようにして地域経済圏の活性化と国際資本の適切な管理を行なえば、その結果として通貨危機の国際的伝播を未然に防ぎ、世界経済の安定成長を見込める通貨体制ができるであろう。




<<参考文献>>
『グローバル・キャピタル革命-国際資本移動のダイナミズムと金融業』 勝 悦子 著 (東洋経済新聞社)
『アジア通貨危機』  滝井 光夫・福島 光丘 共著 (日本貿易振興会)
『国際通貨システム』  山本 栄治 著  (岩波書店)
『入門マクロ経済学』  中谷 巌 著 (日本評論社)
エコノミスト・東洋経済・日本経済新聞社