・隔離集団(イゾラ)、内婚、近親婚、外婚

    島や隔離された谷に住む人は、彼ら自身の個体群内でしか結婚できない。しかし、様々な文化において、ある集団から別の集団へと移り変わることを可能にするような「親族組織」がつくられているが、その生物学的影響がいつも良くわかっている訳ではない。
ある人がその集団内での結婚を強いられるとき、それは「内婚」であり、もし集団外の結婚を強いられるならば、それは「外婚」である。そして両者はしばしば組み合わさって存在しているのである。
    これから話を進める上で、まずは隔離集団(イゾラ)について述べた後に、内婚、近親婚、外婚という順序で考察して行こうと思う。


隔離集団(イゾラ)
    「隔離集団」は非常に人数の多いグループであるが、個体群内だけで結婚が行われ、他のグループと遺伝子を交換することのない、厳格な境界を持つような個体群に対応する。集団内だけで結婚が行われるから、すなわち内婚である。良く知られているいい例が、インドのカースト制である。婚姻規則により、各人は自分の宗教、文化グループ内で結婚しなければならない。しかしながら、内婚が厳しく行われているにも関わらず、カーストの人数は極めて変化しやすく、あるカーストの人数は少なくなっている。
    「部分隔離集団」は隔離集団の概念の後に定義された。ブナクによれば、かつての農村ではこれが支配的であったという。外婚は希で、結婚の80パーセントは共同体内で行われていた。したがって、成人の大多数は、多かれ少なかれ、8親等より近い関係にあり、結婚の1パーセントはイトコ婚であった。ブナクは、1,500〜4,000人位で構成された集団、つまり現実的な人口学上の単位を「デム」と名づけるよう提案した。ところで、1デム中には、結婚して、子供をつくり、次の世代を生産できる人は400〜1,000人しか含まれていない。なぜなら、子供や老人を除かねばならないからであり、結局"結婚可能者"数は人口全体の4分の1(または3分の1)にしかならないのである。隔離集団の大きさが増せば、ブナクが「大デム」と名づけたものになり、イトコ婚の頻度は先に述べた1パーセントから、4分の1の0,25パーセントに減る。
    「限定隔離集団」は人数の少ない集団であるけれども、隣接個体群と遺伝子を交換することはない。その理由は全く種々様々であり、神話的(血の純潔)、宗教的・社会経済的理由によるか、それとも全く単純に地理的要因の為である。また、部分隔離集団とは異なり、内婚が厳しく行われるのである。ある人数の少なくなっているカーストとは、この限定隔離集団のことである。また、ときには小さな移住者グループが土地を開拓し、自分たちだけで自ら孤立してしまうようなこともあった。このような事柄は、しばしば社会組織に原因がある為、それがどのような結果をもたらすかを分析することは重要なことである。その結果として、人口バランスの乱れ、つまり男性と女性のパーセンテージ(性比)にアンバランスが生じる可能性が判明した。世代を新しく生産して行くのは女性であるから、幾人かの男性は子孫をつくることが出来ず、遺伝子を伝達できない。この性比の変動は、サマリア人の宗教的隔離集団についてよく研究された。要するに、遺伝的浮動や元祖効果が生じたとすれば、近い親族同士で結婚しなければならなくなり、結局、近親婚が行われることとなるのである。


内婚、近親婚
    ある状況の偶然の結果、または物質的利害関係の為に、多くの開放的個体群において親類縁者間で結婚が行われている。しかしながら、近親婚の方は内婚グループや限定隔離集団において頻繁に行われている。近親婚は親等によって示され、また、ライトの「親縁係数」も用いられる。そして一個体群内では、ベルンシュタインの「平均近交係数」が決められる。シュテールやグーは実際にはそれをマタイトコ(6親等)同士の結婚で代用できることを示した。
    もし人類の系統を溯るならば、すぐさまその理論上の祖先は莫大な数になってしまう。しかしそれらの祖先が、今を生きる我々に時を越えて遺伝子を伝達している確率というのはかなり低くなる。それゆえに、縁遠い人同士の近親婚はほとんど問題にはならない。授業で扱ったアジアとは違うかもしれないが、ここでフランスの例を挙げて考えてみる。フランスにおいては、19世紀になってから近親婚が非常に多くなったが、おそらくそれは、フランス革命後に農民が土地を手に入れ、そしてその所有地が分割されるのを避けようとした為であろう。つまり分割を避ける為に、そして土地が同じ家族に残るようにと、イトコ婚を農民達が奨励したからに他ならない。
    次に本題に入って、近親婚の生物学的効果を考えて行く。「近親婚は遺伝子頻度を変化させない」、単にホモ個体のパーセンテージを高めるだけである。なぜなら近親婚は遺伝的同類婚、すなわち遺伝子型が似たもの同士の結婚にすぎないからである。混血はヘテロ個体の集積によってヘテロシスを引き起こすが、近親婚はその逆、つまりホモシスを生み出すのである。このホモシスというのはしばしばヘテロシスと類似したもの、つまり内婚強勢と取り違えられるが、実際は内婚弱勢のことを指すのである。
    シュテールによると、近親婚の生物学的効果は次の4つを挙げることができる。
・ 生殖能力およびその現われである出生力の低下、それに相関した不妊の増加
・ 男性(男子の数)の増加
・ 幼児死亡率の上昇
・ 遺伝的欠陥の頻発
しかしジャカールによれば、これら全てが極めてはっきりしているという訳ではない。
    ただ、ヘテロシスについても示されたように、流産の数が非常に多いということだけは記憶にとどめておく必要がある。致死遺伝子は分娩時死亡率のうちの、いわゆる"内因性"の部分、つまり遺伝的死亡の原因である。近親結婚者における結核の頻度がきわめて高いことや、ピレネーに近いオルテスの新教徒隔離集団のてんかんを近親婚のせいにするのは古くから行われている。しかしながら、このような「遺伝的荷重」を近親婚によるホモシスのせいにし過ぎているのではないか。要するに、すべてが致死遺伝子というわけではないのである。
    動物の飼育者たちは、対立遺伝子の固定、ある形質の存続、そして純品種と呼ばれるものをつくり出す為に、近親交配を用いている。家畜は概ね農家の庭でつくられた雑種であるけれども、特別な抵抗力を持っている訳ではないのである。ダーウィンやリンカーン等の、多くの高名な人がイトコ婚によって生まれていることは、一概に「遺伝的荷重」を近親婚のせいであると言えなくさせている。
    また、内婚と近親婚についての研究者あるシュレデールが示した事柄についても、考えを深めて行こうと思う。シュレデールはフランス各県の平均値から、近親婚が身長の縮小、短顔(より丸くなった顔)の増加、呼吸量の減少、そして知能指数の平均値の低下と関係があることを見出している。この他にもシュレデールは体重についても調べており、体重とO血液型(劣性を示す遺伝子型がホモ接合した結果生じた表現型)との間にも相関があることを見つけた。それは、ホモ個体の集積効果と関連があり、したがって近親婚に関係している。
    したがって結論として、内婚は近親婚の頻度を高め、近親婚は統計的に弱勢効果を伴っている、ということである。


外婚
    最後に外婚について触れておこうと思う。同一個体群内でしばしば内婚、外婚の両方が行われることについては既に述べたとおりである。「通婚圏」および「結婚半径」を計算することによって、内婚、外婚の評価がなされる。
    「通婚圏」というのは、隔離集団から派生した概念であって、あるひとりの人間が結婚できる可能性を持つ相手の平均人数のことである。コミュニケーションの手段が発達する前は、やむおえず、各々の郡内で結婚が行われていたのであり、つまり地理的制限が課せられていたのである。技術の進歩のおかげで簡単に旅行等ができるようになり、自分のグループ外で結婚できる可能性が非常に高まった。これによって通婚圏が拡大し、部分隔離集団の平均身長が高くなった。前世紀の「デム」では結婚可能者数は400人であったが、現在ではその比にもならない程に増加している。「隔離集団の破裂」と呼ばれているのはこの為である。
    「結婚半径」とは外婚(または内婚)を測るもうひとつの方法であり、両親の出生地間の平均距離のことである。個体群の移動性が高いほど、通婚圏が大きいほど、結婚半径は拡大する。原点尾Oから離れるにしたがって、まず、配偶者の数が規則的に減少する(この理論では、隣同士で結婚することが最も簡単であるとされている)。次に、結婚半径に突出した部分が現れることがあり、これは故郷を遠く離れて結婚する人たちのパーセンテージを表している。これこそが真の外婚者であり、移住者である。普通の結婚半径は50年以内でほぼ2倍になる。
    また、結婚半径は性別によっても、職業によっても変わってくる。一般的に、男性の方が女性より大きく、農民より労働者の方が大きい。ただし、狭い場所にたくさんの結婚可能者数のいる都会で結婚半径を用いても意味が無い(それでも、都会の個体群全体にまで広がることはない)。結婚半径の研究によって、空間的発展、および通婚圏の重なり具合が示されるのである。
    話は少々変わり、混血というのは二個体群間で行われるが、外婚は一個体群内で行われる。外婚による効果は多くの研究によってよく知られているが、「遺伝的混合」という言葉で要約することができる。すなわち、遺伝的拡散、近親婚の減少、ヘテロ個体のパーセンテージの増大であり、したがって、軽微ではあろうが、ヘテロシス効果(雑種強勢)も外婚のせいだとされている。それでも、外婚の方が抵抗力が強くなり、出生力も高くなる、といった証拠は示されていない。しかし、ヘテロシスの3番目の要素、つまり体はより大きく成長することは間違いない。多くの研究のおかげで、外婚が高身長を伴い、体のある部分に局部的なヘテロシスが不規則に現れることが示された。つまり、子供の成長が早まり、思春期がより早く訪れ、月経閉止が遅れるということが判明した。最大筋力や呼吸量のような、幾つかの遺伝子が組み合わさった遺伝子発現は、おそらく身長がより高くなった結果起こるのであろう。さらには、知能並びに学習能力がより発達することも証明されている。
    この素晴らしいとも言える外婚の効果には、しかしながらほんの少しばかり欠点がある。
    第一に、ヘテロであるかどうか全く不確かなのに、ヘテロシスという言葉を、意味を拡張して用いる可能性があることであり、第二に、外婚がこれと全く同じ結果を伴う移住淘汰や都市化といった社会現象と、極めて密接に絡み合っている、ということである。それらを互いに分離させ、それぞれに与えられた役割を知るのは極めて難しいのである。
    とはいえ、外婚は我々の社会の現在の通時的進化、青年の身長がより大きくなっていること、そして反短頭化現象(私は今の若い子達は、皆、頭や顔が小さいと思うが…)を説明する鍵となるのである。

<参考文献>
・婚姻の原理 森本和夫著 現代思潮社 ・婚姻の民俗 江守五夫著 吉川弘文館
・進化の機構 ジャック・リュフィエ著 河辺俊雄訳 みすず書房