・日本での起業家育成の条件

    現在の日本の経済不況とは対照的に、アメリカでは史上希に見る景気の拡大が起きている、いや、起きていた。もう頭打ちの感はあるが、ダウ平均株価はついに10,000jを突破し、一部では「ニュー・エコノミー論」という楽観論さえ出ている。このアメリカの好景気を支えているのはハイテク産業である。つまり、例えを挙げるならば、ウインドウズのマイクロソフト社や、インターネットブラウザのネットスケープ社、このところi・macで話題のアップル社などに代表されるものである。これらの企業はベンチャー・ビジネスといわれる会社で、マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏などは大学在学中に会社を起こしたのである。アメリカではこのようにベンチャー・ビジネスが経済を支えているのだが、それが発展した要素が、様々考えられる。
    まず、第一にアメリカ人は全体として、もともと独立心が強いということである。これは、アメリカが移民の国であり、実力さえあれば誰でも成功できるという歴史によるものであるといえる。それはヨーロッパでは、あまりベンチャー・ビジネスの成功は聞かないことからもいえるのではないだろうか。
    第二に、アメリカという国が人種のるつぼであるということである。この、様々な考え方や文化の融合が、新たな創造のきっかけとなっていると思われる。
    第三に、エンジェルなどに代表される個人投資家が、様々なチャンスを与えているということである。
    このようなことがアメリカでのベンチャー育成に役立っているのである。だが、上記のことはアメリカでのいわゆるベンチャー・ビジネスの成功例であり、では、日本においてはどうすればベンチャー・ビジネスを育成できるのだろうか。その前にしかし、なぜ日本でベンチャー・ビジネスを育成しなければならないのか。
    現在の日本は戦後最悪の不況に陥っており、失業者数も過去最悪の300万人突破といった状況である。また、戦後50年を過ぎ、日本型経済の構造的矛盾をかかえ、このまま放置すると日本は墜落してしまうであろう。そこで、アメリカがそうしてきたように、日本も新規産業を育成することによって、日本経済を復活させるのが目的である。さらに、新規産業を育成することによって雇用吸収力をこれに求め、そして不況を脱出するといったシナリオであり、そのためにベンチャー・ビジネスを育成しなければならないのである。
    では、どのようにベンチャー・ビジネスを育成していくのか。そのためには、まずは環境を整える必要がある。この場合の環境とは、人材を育て、資金を手に入れられること、さらには失敗を認め何度でもチャレンジできることなどである。ベンチャー・ビジネスには、人材、サポート、資金(ベンチャー・キャピタル)、そしてアイデアであるシーズが必要である。サポート体制としては、中小企業創造活動促進法が平成7年4月に成立した。
    が、しかし、なかなか人材が育たないのは、やはり日本の教育システムにあるのではないだろうか。小、中、高そして大学の6,3,3,4年の形に問題があるのではなく、その教育内容に問題があるのではないだろうか。それは受験と横並び主義のことを指す。受験の暗記中心の教育は子供たちから自主性を奪い、そして受け身にさせる。アントレプレナーとはまさに能動的人間であり、新規産業や起業というのは何もない状態からのスタートである。自主性を奪われた受け身な子供たちが、何もないところから、何かを創ることができるであろうか。答えは否、現在の日本の現状がそれを物語るのには十分すぎる。また、現在の受験体制の中での優秀な人間とは、受動的人間であり、与えられたものをいかに上手くこなすかということである。これは教育の中でサラリーマンを養成しているようなものである。さらに横並び主義というものが「中の上」と呼ばれる考えを生み、他人とは違ったことをできないように抑制している。
    そういう考え方は戦後になって生まれてきたものではないといえる。日本古来から続いてきた儒教的思想や農耕民族的考え方である。それはアメリカのフロンティアスピリットと違い、個人では畑を耕し収穫することができない、周りの協力が必要な時代の考え方であり、以前の日本には必要な考え方であったかもしれない。しかし、過去の価値観が崩壊するところに、新しい価値観の創造があるのであり、ソニーやホンダが1人の人間によって生み出されたように、日本古来から続く伝統的な価値観が変化しつつあるのである。ソニーやホンダは1つの現象、例に過ぎない。しかし戦後50年かけて築き上げてきた、終身雇用制、右肩上がりのインフレ経済、年功序列といった体制が崩壊しつつある現在の日本では、この価値観の崩壊の中でアントレプレナーが育つ土壌は整いつつあるといえる。
    シュムペーターの考えでは、景気循環の上昇局面では技術革新と金鉱の発見があるといっている。いま、日本には個人資産として1200兆円もの金鉱が眠っている。これを利用し、ベンチャー・ビジネスという技術革新が起これば、それは日本の景気回復につながると言えよう。
では、一体どのように教育システムを改革すればよいのか。まず、アントレプレナーの条件とは何か。それは、シーズ、マインド、テクニックであると解く。アイデアと起業家精神と知識である。これをどの時期に身につけなければいけないのか、マインドは幼少の頃からの教育を必要とする。アメリカでは幼稚園の頃からこのマインドの教育があるという。シーズとは創造力であり、一種の才能ではあるが、これは誰にでもあると言えよう、その大小は別として。この能力をいかに引き出すかは、幼い頃の教育に拠るところが大きいと思う。最後にテクニックである。これは高等教育でもあるし、本人の努力次第で学び、身につけられるものであるし、そういった環境は整いつつある。
    現在の教育システムは、絵に例えるならば模写であり、これを抽象画を描かせる様にと変化させて行かなければならない。もちろん、絵の基本である模写を学ぶのをやめては抽象画を描くことはできない。よって、現在の教育システムをすべてやめるのは愚かなことだが、それにプラスして起業家育成のカリキュラムを導入すべきだと言いたい。例えば自分たちの店を作ってみたり、そういったことである。また、そういう教育の中では、失敗を叱らないで、自分たちでどうして失敗したのかを考えさせ、何度も挑戦させることが重要であり、これが起業、アントレプレナーの第一歩(ホップ)となるであろう。また、こうした試みに加え、自分の長所を伸ばして行くこと、他人にはない自分の特技を身につけさせることも重要である。現在の教育は、短所をなくそうとするもののように思われる。第二歩目(ステップ)として、大学教育では具体的に会社を作り上げて行く技術を学べる環境をつくり、それによって起業家を育てるのである。第三歩目としては、やはり、日本に眠っている1200兆円もの金鉱をベンチャー・キャピタルとして利用する制度を確立することであり、これによって(ジャンプ)へと繋がっていくであろう。
    以上に述べたようなことをすべて行うことにより初めて環境が整い、日本にベンチャー・ビジネスが本格的に根付くものと思われる。そしてそのことは何より日本経済の力強い成長となって現れてくるであろう。