僅かなズレは時間と共に比例して大きくなる。 やがては歯車を狂わし、狂った歯車は全体に影響を与える。 物事はそうやって始まり、そして終わりを迎えるものだ。 今日は喫茶店で待ち合わせることにした。 いつの頃からか、毎週木曜日は彼女と会う日になってしまっている。 お互い意味のあまり無い話を、コーヒーを飲みながらもう一時間もしている。 木曜日が苦痛に感じ始めたのはこれまたいつの頃からだろう。 結構前から彼女との関係は終息に向かっている。 それは俺だけでなく、彼女も感じていることだろう。 既に、どちらかが合図を出せば二つ返事で明日から二人は他人、 と言う所まできている。しかしお互い、言う機会を逃したと言うか、 タイミングを逃したと言うか、今日までズルズルきている。 俺は今日こそ話を切り出そうと思っている。まあ、ここの所木曜日になるたび そう思っていたんだが。 何気なく外を見ると、もう大分日は傾いていた。 そういえば喫茶店に入った時の客の顔ぶれが全て入れ替わったような気がする。 すると彼女が不意に立ち上がった。 何やらこれから用事があるような事を言う。 そしておもむろに左手の薬指に嵌めていた指輪をはずして机の上に置いて、 「私たち今日で終わりにしましょうか。」と言った。 俺が軽く頷くと、彼女は挿してあった伝票を持って出口の方へ歩いていった。 俺は 先に言われたな くらいにしか思わなかった。 そして彼女が置いていった指輪を手に取った。 指輪を眺めていると彼女との思い出が頭を過ぎる。 指輪を買った時の事から始まって段々色々な事が。 ふと指輪の内側に目がいった。 そこにはローマ字で彼女と俺の名前が彫ってある。 その文字が何故か白い。爪で削るとボロボロ剥がれる。 暫く考えて、これは塩だと分かった。 そういえば彼女は汗っかきだったからな と思ったら、 自然に口元が緩んだ。 |