マグマ人間
昔々、地底の奥深くに、マグマ人間がおりました。
彼は、マグマの塊でありながら人間ときわめて似通った「こころ」を持ってしまった怪物で、
自分の住んでいる薄暗い地底が大嫌いでした。
人の心を持ちながら、どうしてお天道様のいない世界を好きになれるでしょう。
ある日、マグマ人間がいつものように散歩がてら地底を這っていると、一匹の年老いたモグラに会いました。
モグラは言いました。
「我らが地底の分厚い天井の上には、「チジョウ」というものがあるそうだ。」
それを聞いたマグマ人間は、いてもたってもいられなくなりました。
この世に、薄暗い地底以外の世界がある。
そこに行ってみたい。
翌日から、マグマ人間の「這い上がり」が始まりました。
木の根を食べて飢えをしのぎ、灼熱の湯で喉を潤し、
三日目の朝、とうとう地上に這い上がりました。
驚いたのは、地上に住む人々でした。
通勤時刻の混み合う交差点に、突如現れたマグマ人間。
多くの人々は逃げ出しましたが、ひとりの娘が逃げもせず、そばに駆け寄って言いました。
「大丈夫ですか?お顔が真っ赤ですよ。」
マグマ人間は、娘の染み透るような笑顔に、一目惚れしたのです。
二人は公園のベンチに腰掛けると、色々な事を話しました。
娘にとって、マグマ人間の話はとても新鮮でした。
地上に這い上がるまでの、お天道様の匂いがだんだんと近づいて来る感覚や、
二度と食べまいと誓った腐った木の根のフレグランスについて。
彼女も次第にマグマ人間に惹かれてゆきました。
ただ、娘はまばたきを頻繁にするようになりました。
マグマ人間のそばにいると眼や喉がひどく渇き、それ以上に暑くって仕方がないのです。
けれど、彼を傷付けまいと思った娘はジッと耐えていました。
ついに倒れそうになった娘をマグマ人間が抱き止めると、「ジューッ」という音がしました。
娘も両腕を燃えたぎる肩に回しました。
「ジュウー、シュワァー」
二人は幸せでした。
そして娘は、静かに息絶えたのです。
マグマ人間は、生まれて初めて流した、彼自身の涙に冷やされて、
地上に存在するはずのない鉱石の塊と化し、研究材料として回収されました。
二人が腰掛けていたベンチは、ドロドロに溶けていたために、翌朝撤去されました。
THE END
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