運転してくれた方にお礼を言ってバスを降りる。ありきたりな感想だけど、空気がおいしくて感動した。
思い切り吸い込むと、鼻の奥がずーんと痛くなるほどには冷たさを持った空気。
まだ色を表してない空に、切り立った灰色の山々が映えている。
体に取り入れられて、出ていく空気はすでに白い。
その白い息で手を温めながら、まずは有料トイレに向かった。
ここは100円程度のチップを入れて使用するトイレで、とてもきれいだった。
紙もあるし、水洗できちんと流れる。
洗面台も広くてここで顔を洗い、歯を磨いた。
寝ぼけていた頭がしゃっきりしてくる。
さぁ、なにをしようか・・・・?
バスターミナルのすぐそばに500円程度で荷物を預かってくれるカウンターがあるのでとりあえず荷物を預ける。
そしたら今度はお腹の心配だ。
とにかく寒くて、中から暖める物も欲しかったし、鱒の押し寿司が有名と聞いていたのでそれも手に入れたかったのだ。
とりあえず、いい匂いに誘われて階段を上ってみる。
オープンエアーと言うかなんというか、屋上のようなところにただベンチが並べてある空間に出た。
穂高連峰が見れて、景色もいい。
売店で売っていたキノコ汁を買うと、どんぶり一杯のキノコ汁が出てきてびっくりした。
ここのベンチで食べたキノコ汁は今までやまねが食べた汁物の中でも5本の指には入るだろうと言うおいしさだった。
なんだか訳のわからないキノコが入っていたのが少し笑った。
キノコ汁で体がほかほかになって、ついでにここで鱒の押し寿司も買って、さて、そろそろ歩くかな・・・。
梓川の流れは想像以上に澄んでいた。朝も早いので人気もまばらで、川の流れ以外、余計な音はほとんどしない。河童橋を超えて明神池の方に向かう。
このあたりは遊歩道になっているので足場がいい。だから安心して周りの景色を眺めることが出来る。
おばさまご一行様などにぎやかな人たちに出会うと、わざと歩調を遅くし、その団体をやりすごし、静かな散策を楽しむ。
美しい景色にカメラをかまえるが、その指がかじかむほど寒い。だけどそんな寒さも気にはならないほど、水や、白樺やカツラの木の黄葉や、山紅葉の紅葉や、ズミやナナカマドの実が美しい。
茫然自失の体で景色の中を歩いていると、野生の猿が出迎えてくれる。
毛がふさふさしていて、猿の体は冬支度だ。怖いくらい近い距離を猿の親子が歩いている。
目を会わさないように、係わらないように。やまねはこの土地にお邪魔させてもらっている側なのだから。
しばらく歩くと上品そうな老夫婦の方達とすれ違う。
「あちらにお猿さんがいますよ」
「私が来た道にもお猿の親子が今したよ」知らない者同士でも、優しく会話が成立する。
「この先に、山紅葉がきれいに紅葉している場所があるんですよ」
「わぁ、じゃあ楽しみですね。」
それではお気をつけて・・・。すれ違って行く先には本当に目が覚めるような色に紅葉した山紅葉が待っていた。
一時間ほど歩いて明神池に着く。
ここは拝観料が必要だけど、その価値は充分なほどきれいな場所なのでぜひ立ち寄ることをお勧めします。
明神池の水は離れて見ると鏡のように景色を映し出し、近づくと質量の違う空気のように透明だ。
ここは少し足場が悪く、おっかなびっくり歩を進めていく。
カメラを抱えたおじさんが「この少し先もきれいだから気をつけて行っておいで」と教えてくれる。
そうやって教えてもらった先は必ずびっくりするほどきれいなところなのだ。
きれいな景色で胸がいっぱいになったけど、お腹は逆に空いてきた。
明神池近くのお店で、岩魚の丸焼きをいただく。
この岩魚が臭みが無くてとってもおいしい。しかも頭から骨一本残さずにきれいに食べきることが出来るのだ。
ホントは岩魚の骨酒も飲みたかったのだけど、一人で飲んだら酔っぱらってしまうので我慢。
お店の人に「ここまで来たなら徳沢まで行くといいよ」と勧められる。
ホントはもう河童橋まで戻り、大正池に向かうつもりだったけど、勧めにしたがって徳沢まで行くことにした。
明神池から徳沢までは歩きやすい山道だ。
軽く上り下りがあるけれど、楽に歩ける。
この辺まで来ると、人気はまた少なくなる。
黄葉した唐松の葉が雨のように降ってくる。
きらきらしてとてもきれいだ。
足を止めて見とれていると「ご、ご、ご」「ご、ご、ご」と妙な音がする。
なんだろうと見回せば、そこにはムキになって木をつついている(と言う風にしか見えない)アカゲラがいた。
(あんな勢いで木をつついて、むち打ちにならないのかな?)心配になるくらいには必死だ。
眺めていたらゴシュウカラご一行様が現れた。
きれいな歌声でアカゲラを応援している風にも見える。
どのくらい見とれていただろう?しばらくして、大きな声で会話しながらやってきた二人連れの声に驚いて、鳥達は逃げていってしまった。
「白い砂浜」と呼ばれる梓川が望める開けたところに来たとき、お弁当に買っておいた鱒の押し寿司を食べることにした。
シギ・・・の仲間なのかなぁ?対岸で良く確認は出来なかったけど、それっぽい鳥が二羽遊んでいる。
鱒の押し寿司は鱒の大きさが少し小さかったけど、おいしかった。
一休みついでに持ってきた金子みすずさんの童謡集を読む。
優しい言葉の一粒一粒が、体の中にしみ込んでくる。この本を連れてきたのは正解だった。
また歩き出す。今度は帰り道だ。
明神池まで戻ると(・・・・うわぁ・・・)修学旅行生がきゃあきゃあ言ってる・・・(涙)
案の定帰りは野生の動物達に出会えることはほとんどなかった。
ただ一度、木に妙な物がくっついていることに気がついた。
(?毛の生えたキノコ?)
直径にしておよそ4〜5センチくらいの毛の生えた丸い物が木にくっついているのだ。
(変なキノコ)そう思って突っついてみたら(動いた!!)とりあえずカメラに収め、何者かを思案していたら、団体さんがやってきて、なんだなんだと聞いてきた。
「ここに毛の生えた動くキノコがあるんです」
ホントだホントだ変なキノコだなんだろう?そういって眺めることしばし、(あ、耳がついてる!)
「ここに耳がありますよ!」「え、ほんとだちょっと待ってよ、もしかしたら・・・」なんだか生き物に詳しいような顔をしたおじさんがじっくり観察を始めて一言「これ、コウモリだよ」
コウモリじゃあ、昼間は目が見えないし、寝ているところをつつかれて、さぞ、嫌な思いをしたことだろう。
申し訳なく思いつつ、その場を退散した。
そんなトコで寝るんでないと思いつつ・・・・。
なごりおしいけどバスの時間が来た。
売店で売っていたリンゴを丸かじりしながらバスの出発時間を待つ。
もうじき上高地は雪に閉ざされる。
雪が溶けた頃、また来よう。そう思いながら、上高地を後にした。
バスの車中、窓の外を眺めれば、赤や緑は黄色やオレンジやいろんな色をひっくり返したみたいなごちゃごちゃの紅葉が見れた。京都、鎌倉、東京で眺める、きちんと計算された美しい配置で並んだ紅葉も大好きだけど、こういう野生の紅葉もいいもんだ。
温泉にでもつかって体の疲れをじっくりほぐして、今日は早く寝ることにしよう。きっと色とりどりな夢が見られるだろうな・・・。
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