翌朝、目覚めれば、雨・・・・。
やまねは雨女、しかも「台風女」と言っても良いくらいだ。
こないだ箱根に行ったときは台風の直撃を受けたし、今回も直撃こそしなかったものの、台風の影響はばっちり受けさせてもらったらいい。
とはいえ、やまねは雨が嫌いではない。
雨に洗われた山の木々はとってもきれいなんだもの。
一日の予定を決めかめていると、昨夜宿の食堂で仲良くなったおじさんが、松本市内まで送ってあげようかと聞いてきた。
ここはバスがほとんど通らない。一本乗り逃したら二時間くらいはバスが来ないのだ。
聞くと、もう一人、一人旅中の人がそのおじさんの車に乗せてもらって町まで行くらしい。
・・・お言葉に甘えさせてもらうことにした。
よし!今日は松本城に行くゾー!
車の中で会話が弾む。
おじさんは会社を定年退職をして、残りの人生を旅人として過ごしているらしい。
趣味は水墨画とカメラだそうで、筆と紙とカメラを持って全国の美しいところを歩き回っているそうだ。
旅の間の心残りは可愛がっている秋田犬で、アルバイトを雇って散歩はさせるようにはしているそうだが、きっと寂しい思いで待っていると思うと、優しい目をして話していた。
おじさんと一緒に松本城見学に行くことになった。
白と黒が基調の松本城は、さすがに戦国時代の城の復元だけあって、なんだかとても強そうに見えた。
「城は守りやすく攻めにくく。」それに乗っ取って出来ている松本城を見学するのは体力勝負だ。
城内の案内の人が「階段は気をつけてくださいね。昨日はそこから滑って落ちた人が、救急車で運ばれたんですから」なんて話していた。・・・うん、確かに危なそう。
城内には昔の銃や砲弾が展示してあった。
おじさんは歴史にも少し詳しいらしく、簡単な説明を付け加えてくれたので、見ていてとても面白かった。
天守閣まで登ると松本城内が見渡せる。天気が良ければもっと遠くも見えるだろう。
ここに座ったら「自分の城内」ってすごく思うんだろうなー。
禅の心を表したと説明のある変わった形の窓(?)は禅の心なんて全然わからないやまねが見ても、陰影のくっきりした感じが気持ち良かった。
松本城を後にしておじさんともお別れをする。ここからは行く先が違うのだ。
別れ際、手作りの名刺を一枚渡してくれた。サラリーマンだった頃なら使えなかっただろう、きれいな色の使われた名刺だ。いい写真が撮れたら送ろうかな?きっとアドバイスをくれると思うから。
そうしてやまねは一人、旧開智学校に向かった。和と洋が入り交じった「擬洋風建築」の代表的な建物で、重要文化財として指定されている建物なのだ。
やまねは実は「擬洋風建築」な建物が好きなのだ。
「擬洋風建築」とはどう言った物を指すのか。実はよく解らない。
だけど「あ、この建物好き」と思うとそれが「擬洋風建築」なんだからそれが好きだと言ってもいいだろう。
とくに「ぎやまん」と呼ばれていた頃のガラスが残っていたりするとなおいい。
この旧開智学校にはしっかり「ぎやまん」が残っていた。
「擬」って言うからには洋風建築を擬して造られた建物なのだと思う。「モダン」とか「はいから」とか、そういった言葉が似合う空気がそこにはある。
こんな学校で学べた学生は幸せだろうな。
開智とは「その身を修め、智を開き、才芸を長ずるは、学にあらざればあたらず」という言葉から取ったそうだ。
・・・・やっぱしプレッシャーかな?こういうトコでお勉強するの。あんまり良くない頭でやまねはぼんやり思い出す。(やまねの通った学校はどれも古くて汚かったけど、だからこそ心地よく勉強できたのかもしれないな・・・)
当時の学生が使っていた机に落書きがしてあるを見つけた。いつの時代もどんな場所でも、学生ってそんな物なのかもしれないな・・・。
ぎやまんの窓の向こうには雨が静かに降り続いている。
旧開智学校で受け付けをしていたおじさんに「このあたりでおいしいそば屋はないですか?」と聞いてみる。
少し行った先にある「もとき」と言うお店が面白いよ。とのこと。
?おいしいでなく、おもしろいなの??お腹も空いたので、行ってみることにする。
「もとき」はちょっとした行列の出来るお店だった。
とりあえず順番を待つ。
お店の人が、「こちらとご相席でもよろしいですか?」と聞いてきた。見ると帽子をかぶった老紳士が立っている。老紳士は「こちらのお嬢さんとご一緒できるならなおさらいいですな!」と嬉しそうだったので、その様子が何となく面白くて「こちらこそ、ご一緒願えますか?」とやり返した。
今度の老紳士は講釈師だ。信州そばのおいしいお店はたくさん廻ったけど、ここは特に上手い店なんだッてことを面白おかしく話してくれる。
一人旅をしているというと「へぇー、冒険家だねぇ!」などと大仰に驚いてくれた。
私が頼んだ物は「もりてんそば」。もりそば一枚と、天ぷらそばが付いてくるやつだ。
最初に来たもりそばは、何か透明の膜に包まれているかのようにきれいで、つやつやしていた。
こしがあっておいしくて、あっと言う間に食べ終わる。すると今度は天ぷらそばの登場だ。
テーブルに届いたときはまだ「じゅうううう」と天ぷらが音を立てていた。
もちろん衣はさくさくで、あちあちのおいしさだ。
あっと言う間に食べ終わる。お腹はいっぱい幸せな気分だ。
同様に、幸せいっぱいな顔の老紳士が「今日はいい出会いがあった」と嬉しそうに言ったのでやまねも嬉しくなる。「お気をつけて」と声を掛け合い、「もとき」を後にした。
松本に行くことがあったら立ち寄ってみてください。おいしいおそばや「もとき」さん。
松本城の裏ッ側、旧開智学校に行く手間前の道を左に曲がって少し歩いたところ。
地元の人ならきっと場所を教えてくれます。楽しい出会いがあるかもしれないですよ。
さて、そろそろ清里に向かおう。
電車を乗り継ぎ、清里に着くともう夕方だった。
清里は予想以上の寒さに凍えていた。
鼻の奥が痛くなるくらい寒いのだ。
予約して会ったユースホステルにとりあえず荷物を置きに行く。
歩いてそう遠くない場所にユースホステルはあった。
ペンション風のきれいな建物に温かそうな灯がともっている。
玄関ではペアレントの方が笑顔で出迎えてくれた。寒かった分、とても暖まる思いだ。
今日の宿泊者はやまねともう一人だけとのこと。
やまねは一人で部屋を使うことになった。
夕食の予約をしていなかったため、外に食べに行かなければならない。
途中見つけたおいしそうなお店でグラタンを食べることにした。
「行ってきまーす」「行ってらっしゃい!」見送ってもらうのって、嬉しい。
寒いときに食べるグラタンのおいしさを実感して帰ってくると、ペアレントさんがお風呂を勧めてくれた。
寒かったから、お湯が恋しい。
新しいお湯がたっぷり張ってあるお風呂にゆっくり浸かって、体の凍えた部分を伸ばす。
じっくり暖まってお風呂を出ると「ソフトクリーム、食べますか?」とペアレントさんが話しかけてきた。
なんでもインターネットで予約した人にはもれなくサービスしてくれるらしい。
さっきまでならアイスなんてとんでもなかったけど、暖まった今なら食べたい気もする。
「荷物を整えて、暖かい格好をしてからロビーに来ますね。その時に食べさせてください」
部屋に帰り、布団を敷いて、明日の準備をする。・・・よし、ソフトクリームを戴きに行こう。
ロビーではペアレントさんが待っていてくれて、私が現れると早速ソフトクリームを持ってきてくれた。
清里で有名な清泉寮のソフトクリームと同じジャージー乳を使ったソフトクリームだそうで、濃厚でおいしい。食べ終わるとお茶を入れてくれたので、そのままペアレントさんにお話相手をしてもらった。
東京のお店の話し、上高地の話し、友達の話し・・・とりとめのない私の話を穏やかに聞いてくれた。そして、明日の行く先の相談にも乗ってくれたし、ユースホステルを利用している、人たちの、中でも特にユニークな方のお話などをしてくれた。
やまねが一番の驚いたのは一年365日旅をしていた人がいたというコト。今は旅をしていないはずだって言っていたけど、その人に旅先で会ったら、どんなに嬉しいか解らない。
飲み物はペアレントさんお手製の果実酒に変わっていた。一杯こっちは500円。苺のお酒と木瓜の実のお酒をいただいたのだけど、ぼけぼけの木瓜の実のお酒が少し苦くてお気に入りだった。
木瓜の実をお皿にとって「良かったら・・」と出してくれたので、いただいてみるとこれが苦い!「うぇ〜」って顔をしていると、「あ、やっぱりおいしくない。だって普通は食べるもんじゃないからねぇ」と笑ってた。
ぼけの実は中に小さな種がたくさん入っているのを知った。からかわれちゃったけど、それも良し。
だって楽しい夜だったから。
お酒の力も手伝って、部屋に帰ったらよく眠れたのだよ。