究極の選択
「死にたくない、死にたくないよ」
そう言って、彼はオレの目の前で息を引き取った。
親友も救えないなら、医者になんかなるんじゃなかった。
オレにもっと知識が、技術があれば救えたかも知れない。後悔しない日は無かった。
どうして、どうして…
そんなある雨の夜、天使が目の前に現れた。
「なんだお前…」
「あなた、後悔してますね?ああすればよかった、こうすればよかったと」
「なんで、その事を…っていうか、誰だお前は!」
「そんな事はどうでもいいんです。それより、やり直したくはありませんか?」
「何を言って…」
「だから、時間を戻して、もう一度別な治療法を試したくはありませんか?」
「ばかな!そんなことが」
「出来るんです。じゃあ、そういうことで」
「お、おい!ちょっと待っ…」
目が覚めた。
「…なんだ、夢か」
ベッドから起き上がり、ため息をついて時計を見る。
午前6時ちょうど。今さら眠れないのでテレビを付ける。朝のニュース番組が始まった所だった。
<おはようございます。4月1日、6時のニュースを・・・>
驚いた。確かに昨日は6月22日だった。一瞬「これは夢か」とも思ったが、
つねった頬の痛みが現実であると告げていた。
親友が死んだのが6月1日。まる2ヶ月ある。救えるかも知れない。いや、今度こそ必ず・・・!
オレは身支度を整えると、大急ぎで病院に向かった。
病室には、亡くなる2ヶ月前の親友がいた。
「よう、今日は早いな」
「ああ、治療方針を説明しようと思ってな」
「そうか?まあ、頼むよ」
「任せろ」
やるべき事は山ほどある。オレは前回の教訓を活かして懸命の治療を続けた。
瞬く間に2ヶ月が過ぎた。結局、救えなかった。
そして2度目の6月22日が来た。また彼女が現れた。
「お久しぶりです。ダメでしたね、残念です。」
「ああ、駄目だったよ…」
「あの、もういっぺんやってみます?」
「えっ?いいのか?」
「じゃあ、そういうことで」
翌朝、目覚めると4月1日だった。
2度の失敗から得た経験をもとに、「今度こそ」と必死だった。
3度目の6月22日。
「今晩は。またダメでしたね」
「頼む!もう1度、もう1度戻してくれ!」
オレは必死で頭を下げた。
「ええ〜、まだやるんですか?」
「頼む!やり残した事があるんだ。この通りだ!」
「…しょうがないですねえ、じゃあ、そういうことで」
何度くり返しただろうか。もう、何も無い。どうしても救えない。
これで最後。これで駄目だったら、あきらめよう…
何度目かの4月1日、親友の病室。
「おっす、今後の治療方針なんだが…」
「ああ…」
「ん?どうした」
「いや、何でも無い。よろしく頼むよ」
オレは必死だった。寝食を忘れて治療に専念した。そして、ついに成功した!
親友を、この手で死の淵から救い上げることが出来たのだ。
「ありがとう、お前のおかげだよ…済まないな」
彼はそう言って退院した。
6月22日の夜。
「おめでとうございます!ついにやりましたね」
「ありがとう、あなたのおかげだ。本当にありがとう」
「いいえ、礼には及びませんよ。ところで…」
「はい、なんですか?」
「彼は死ぬはずでした。ところが、あなたが救ってしまった」
「ええ、本当にありがとうございました。」
「代わりにあなた、死にません?」
「は?ちょっと、何を…」
「死ぬはずだったんですよ、6月1日に、彼か、あなたの、どちらかが」
「…」
「というわけで、もう一度時間を戻しますんで、選んで下さいね」
「ちょっと、そんな…」
「あなたは、彼を救う方法を知っている。もう一度同じ事をすれば、彼は確実に助かるでしょう」
「…」
「しなければ、あなたが助かる」
「なんで…そんな事…」
「一晩ゆっくり考えて下さい」
「あんた、いったい…」
「じゃあ、そういうことで」
そして、4月1日の朝が来た。
オレは…オレは死にたくない。
病室で治療方針を説明するオレを見て、彼は悲しそうに微笑んで言った。
「ああ…任せるよ」
---あとがき---
いやな話書いちゃったな…最初はこんな話じゃなかったんだけどねえ、書いてるうちに逸れるは歪むは(笑)
ちょいとネタバレを…「オレ」を主人公に一人称で書いてるので「天使(死神?)」が「親友」の前にも現われているといった、「オレ」が知らないことは書きませんでした。一応、「親友」の台詞から判るように書いたつもりですが…ダメっすかね?
2002/6/24