神様の憂鬱
「だめだな…やり直すか」
もう何度目になるか判らない呟きを繰り返すと、面倒くさそうに欠伸をして立ち上がり、
両腕を高々と挙げて“伸び”をした。
「なかなか思い通りには行かんなあ」
「…そうですね」
控えめな返事が返ってきた。少し考えて何事かメモを取ると、指示を出す。
「ちょっと行って、ノアという男に会ってきてくれ。いいか、これに書いてある通りにするのだぞ」
「はい、かしこまりました」
メモを受け取った男は、いそいそと部屋を出て行った。
「さて、これで少しは持ち直すかな…」
少しだけ期待した面持ちで窓から下を覗いてみた。眼下に浮かぶ球体は、
その面積の大半を、急速に、青一色に変えようとしていた。
「順調…かな」
時々、窓から見下ろしながら満足げに一人ごちては、ゆったりとした椅子に腰掛ける。
暇な仕事だが、やりがいはある。自分には向いているようだ。この仕事を命ぜられた時は
まだ駆け出しで不安もあったが、最近は随分貫禄もついてきたし、部下を持つほどに出世した。
この仕事をやり遂げれば―
「失礼します。ただいま戻りました」
現実に引き戻されたが、最近は業績が良いので腹も立たない。
「おお、ご苦労さん。見ていたよ。大変だったな」
「はい、磔はもう勘弁してほしいです」
「はっはっは。休暇を取ってよいぞ、ジーザス」
「はい。」
ジーザスと呼ばれた男は一礼して部屋を後にした。宗教を与えて行動を制限するというのは、
我ながら良い考えだ。そうだ、一つではつまらんから、もう二つ三つほど―
「私だ、ブッダとアッラーを呼んでくれ」
「大変です!戦が始まったようです!」
休暇を終えたジーザスが、ノックもそこそこに部屋に飛び込んできた。
「ああ、見ていたよ…」
判っている、というふうに手を振って下がらせると、どさっと椅子に腰を降ろした。
「調子に乗りすぎたか…」
破壊と殺戮の味をしめた地上の民を止める手段はもはや一つしかない。
しかし、あまり何度も沈めては、査定にひびく。
「もう少し様子を見よう。それからでも遅くはないだろう。信心深い民もいることだし」
やがて、戦も収まり、彼らの文明は地上だけでなく空をも自在に翔けるほどに発達した。
鮮やかだった青色が多少くすんではいるが、上出来だと思う。このまま、我々の居る所まで
彼らが登りつめてくれれば、この仕事も完了する。
「もう少しだな…」
ほっと安堵のため息をついたとき、ノックもなしにドアが開けられた。
「大変です!戦が始まりました!今度は世界規模です!」
「慌てるな、ジーザス。いずれ収まる」
努めてゆっくりと窓際に歩み寄ると、下界を覗いて言った。言葉どおり、しばらくして戦は終わった。
「ほら、な」
「はあ」
二人でなんとなく笑っていると、ブッダが飛び込んできた。
「大変です!また戦が!」
「大丈夫だ、すぐ終わる」
「しかし…」
たしかに、戦は終わった。ただし看過できぬ技術を使って。
「ま、まあ彼らとてバカではない。これに懲りておとなしくなるだろうさ」
「…そうですね」
三人が、お互いを見てぎこちない笑みをその顔に貼り付けていたとき、アッラーが飛び込んできた。
「大変です!戦です!」
「…またか」
さすがに苦虫を噛み潰したような表情で窓から地球を見下ろした。
居合わせた三人も、それに習って地球を見下ろした。
そして、神々が見守る中、彼らは地表に恒星を作り出した。
深いため息とともにペンを取ると、開かれたファイルの『地球』の欄に大きく×印をつけた。
「…これで二度目か。この星系は駄目だな、ろくな民が育たん!」
神様はファイルを放り出すと、踏み下ろす足に怒りを込めながら部屋を出て行った。
投げ出されたファイルの偶然開いたページには、幾分かすれ、色褪せてはいるが、
やはり大きな×印と『火星』の文字が見て取れた。
---あとがき---
酔った勢いで告白する人。酔った勢いで喧嘩する人。酔った勢いで小説を書く人。いろんな人がいていいと思う。
書こうと思った時、焼酎飲んでました。梅を入れて、お湯で割って。
午前4時、とりあえず完成。完成までの間、焼酎を継ぎ足し、お湯を継ぎ足ししながら飲んでたら、すっかりふらふらになってしまいました。
魂の抜けまくった作品ですが、良かったら読んでやってください。
2002/4/8