ペット
「お出かけですよ」
母さんが僕にそう呼びかける。ぼくは、嬉しそうに走り寄る。
「ねえ、どこへお出かけするの?」
よそ行きを着た母さんを見上げながら僕は尋ねた。
母さんは僕を抱き上げると言った。
「さあ、行きますよ」
僕は母さんの表情に気付かず、言われるままに車に乗った。
体をゆすられて、僕は目を醒ました。
「よく眠っていたわね。もう着きましたよ。早く降りて、ついていらっしゃい」
僕は返事をすると、車から飛び出した。
「ここが、新しいお家ですよ」
母さんは、抑揚のない声でそう言って僕を抱き上げ、殺風景な扉を開けた。
そこには、長椅子に座って知らないおじさんと話している父さんが居た。
母さんが声をかけると、知らないおじさんが立ち上がって言った。
「この子だね」
「はい」
僕は、知らないおじさんの手に渡された。
「おじさん、だあれ?」
知らないおじさんは、僕を抱きかかえたまま奥の扉を開けた。
「なに、これ。ここどこ?ねえ、おじさん!」
そこは不思議なところだった。長い廊下の片側に鉄格子の部屋が幾つか並んでいる。
一番奥、廊下の突き当りには、鉄の扉があった。
そして、鉄格子の部屋には、僕と同じ位の歳から、ずっと年上まで、たくさんいた。
僕は、一番入り口に近い誰も居ない部屋に入れられた。
「ねえ!おじさん!ここどこなの?母さんたちはどこへ行ったの?ねえ、教えてよ!僕こんなところ嫌だよ!帰りたいよ…」
言いようのない不安に教われて、僕は泣き出した。それでも、涙声のまま、僕は叫びつづけた。
どれくらいの時間、こうしていたんだろう。僕は鉄格子から離れると、部屋の隅でうずくまった。
おじさんは毎日やってきて、僕を隣の部屋へと移動させた。
最初の二日ほどはいろいろ尋ねてみたけど、おじさんはなにも答えずにすぐ出ていってしまった。
何日か経って、移る部屋が無くなった。明日、僕がどうなるのか、なんとなく分かる気がする。でも、少しの期待もあった。
夜が明けて、おじさんがやってきた。おじさんの顔には表情が無かった。
多分僕の顔も同じだったと思う。おじさんに連れられて、奥の鉄扉の向こうへ行く。
そこは、狭くて、何もない部屋だった。僕を残して、おじさんは出ていった。
しばらくすると、なんだか、眠くなってきた。
『ああ、僕は要らないんだ』と、そのとき判った。
---あとがき---
いやあ、短いっすねー。
これは、以前ネットで募集してた1000文字小説にk-nissieが応募したもの(1次予選通過)なんですよ。
著作権とかどうなってるのか分からないんですけど、k-nissieが作者なんで、いいでしょ、ここにおいても。
この話、読んで分かると思いますが、「僕」はペットの犬です(犬かどうかは、文章からは判りませんが、犬ということで…)。
舞台は保健所。とあるニュース番組の特集を見てショックを受け、その30分後には、書き上げてました。
捨てられたペットたちがどんな風に「処分」されているのか。痛いですね。人間は勝手ですね。
2000/6/23