天に昇った稀代の逃げ馬サイレンススズカ
最強世代
99年、2頭の5歳馬が日本と世界を騒がした。
グラスワンダー、97年3歳で朝日杯(G1)をレコード勝ちし98年暮れの有馬記念(G1)を制した
この馬はこの年最強といわれたスペシャルウィークを宝塚記念(G1)、有馬記念で打ち負かし
その怪物ぶりをいかんなく発揮した。グランプリ(オールスター戦)3連覇の偉業はあのシンボリルドルフ
以来という快挙であった。
エルコンドルパサー、98年無敗でNHKマイルカップ(G1)を勝つとその年秋に行われた
ジャパンカップ(国際G1)で97年年度代表馬エアグルーヴ、そしてその年のダービー馬で
あったスペシャルウィークをしりぞけ4歳にして頂点に立ったこの馬は99年にイスパーン賞(仏G1)
を制すると世界最高峰のレース凱旋門賞(仏G1)でクビ差の2着に入り99年の年度代表馬となった。
2頭に勝てなかったスペシャルウィークも99年のジャパンカップでエルコンドルパサーに凱旋門賞
クビ差勝ちしたモンジューをくだしこの3頭の力は世界に通用したのである。
しかしこの3頭を子ども扱いし、寄せ付けすらしなかった馬がいた。
エルコンドルパサーが日本で負けた唯一の馬、そして世界に出てから生涯を通して
一度だけ2馬身もの差をつけられた相手
それが天皇賞で事故死してしまったサイレンススズカであった。
稀代の逃げ馬
サイレンススズカ、彼は逃げ馬であった。競馬には逃げ、先行、差し、追込の4つの
脚質があり、逃げとはスタート後すぐ飛び出しできるだけハイペースで他馬を引き離し
そのリードを貯金として最後ばててしまっても逃げ切るという戦法である。
しかしたいていの場合逃げはきまらず4コーナーあたりでつかまってしまうシーンが
私たちの目に飛び込んでくる。マラソンなどでいきおいよく飛び出す者がばてて集団に
再び飲み込まれその後ずるずる後退していく姿はめずらしくないだろう。
そう、逃げは非常に難しくリスクが大きいのである。普通は逃げながらもスタミナを
考え抑えて走るのが普通なのだ。
しかしサイレンススズカはそうではなかった。
走る、走る、とばす、とばす、それはもう別次元の世界、
ただ、前を向き逃げに逃げた。
金鯱賞(G2)では2着と着差のつけられない「大差(10馬身以上)」の表示、
ハナ差、クビ差、1馬身2馬身差の世界で考えられない圧倒的な強さを彼は
誇ったのである。まさに逃げたままゴールを駆け抜けるのである。
このとき鞍上の武豊はゴール100メートル前からすでにガッツポーズの連発、
武豊は「逃げて差す」と評しサイレンススズカを理想の馬と絶賛した。
宝塚記念(G1)ではメジロブライト、エアグルーヴ、シルクジャスティス、メジロドーベル
などのG1ホースを尻目に1番人気で支持され、そしてレースも予想通り
何気なく逃げ切った。
伝説の毎日王冠(G2)
前述のグラスワンダー、エルコンドルパサーが無敗でサイレンススズカに挑んできたレース
それが毎日王冠であった。この2頭がサイレンススズカ打倒を期待されたのはいうまでもない。
結果は・・・サイレンススズカ圧勝。
必死にすがるエルコンドルと2.5馬身差、グラスワンダーにいたっては8馬身差
まるで相手にならなかったのである。
なおかつ驚くべきことにこのレースは斤量(ハンデ)がサイレンススズカはトップハンデの
59キロを背負っていたのである。エルコンドルパサー、グラスワンダーが最軽量の57キロで
この圧勝劇、重賞6連勝もはや敵なしのサイレンススズカであったのだが・・・
沈黙の日曜日・・・
1998年10月11日 第120回天皇賞(G1)、注目は単勝倍率1.2倍圧倒的支持率の
サイレンススズカ、もはや勝つことは誰も疑ってなかった。
サイレンススズカがどれくらい他馬を引き離して勝つのか、どんな勝ち方をするのか、
それが最大の関心事であったといってもいい。
天皇賞最多勝の武豊はレース前こうコメントしている。
「天皇賞史上最も強い勝ち方をお見せします」
ゲートが開いた、飛び出した栗色の弾丸サイレンススズカ、
後続との差はみるみるひろがっていく、2番手走行のサイレントハンターも有力な逃げ馬だか
その差だけでも20馬身はあったであろうか。
「大きな欅の木の向こうとばしにとばしてサイレンススズカ!」
さあ、4コーナーだ、スズカがやってくる!最強の逃げ馬サイレンススズカがやってくる!
しかし彼はこなかった・・・
そして彼は2度とゴールをかけぬけることはなかった。
4コーナー出口でバランスを崩したスズカは骨折、その後安楽死処分となったのである。
3本足でたっているかたわらに武豊が足に手を添えていたシーンが印象的だった。
骨折しながら騎手を放り出さずコース脇についたスズカに武豊は
「自分をかばってくれた」と涙した。
天に昇ったサイレンススズカ
結局、サイレンススズカは誰にもおいつかれることのないままあの世に行ってしまった。
そして最大の謎「あのままスズカが走っていれば逃げ切れたのか?」という問いには
永久に答えは出なくなってしまった。
しかしその後のグラスワンダー、エルコンドルパサー、スペシャルウィークの世界での
活躍に誰しも思ったに違いない。
最強の馬はサイレンススズカであったと。