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伝統的な日本画の美は、日本の自然的風土を抜きにしては考えられないだろう。 石井薫風の長い制作から明らかとなってくるのは、この自然的風土に眼差しを向 けながら、ここから獲得したモチーフを絵画化することの、ひたすらなる努力だった と言えるのである。
作品の全般的な特徴は、日本画的技法のなかに洋画のリアリズム的技法が見い だされることであろう。事実、石井薫風の絵画は、1937年から洋画家・鈴木千久 馬に師事し、デッサンを学んだことに、その出発点が求められる。その後、福田豊 四郎に師事し、日本画家の道を歩み始めるのである。
フランスに出品された最近作は、石井薫風が着実に、おのが芸術の成熟期に向か うメッセージのように思われる。
「晩秋の戦場ヶ原」は鮮やかな輝きのような黄色に染まる唐松の樹々と、青味帯 びた雄大な山岳とのコントラストのなかに、晩秋の深まり行く風景の評情をうたい、 「彩」は、晩秋の色づきの樹々が競い合い、扇に似た樹々のかたちを、メロディカル に奏でながら、山中の湖面に姿を映している。
「春立ち」はそれに対し、冬の長さに耐えてた樹々の柔らかな黄緑と、大地の濃い 緑の草々のなかで、点滅するような可憐な小さな白い花々が、春の喜びをあらわ し、深い森は春の訪れに浸っている。そして夜の風景の静寂のなかに、自然の神 秘性を秘める「月明(摩周湖)」は、深い青色のなかで、月と湖面の白い輝きをこと さら印象づける。これら風景作品は、自然観照の確かさのなかで、指摘感情移入 がリアリティーを織り込んでいる。
一方、「昇」は朱赤を背景にして、月と鶴とのモティーフによる伝統的な装飾美に 傾きながら、かつての「花宴」と同様に、華やぎの美をうたっている。
石井薫風の画業も、やがて五十年を超えようとしているが、彼の日本画の世界が 、今後さらに、どのように発展してゆくか期待されよう。
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