好きなもの論 小説編
「冬の旅」 (立原正秋・昭和48年発行・新潮文庫)
少々分厚い文庫本です。昭和44年に単行本で発行ですから、もう30年ほど前の小説ですね。しかし、内容は今読んでも面白いです。
主人公は16歳の少年。頭脳明晰・沈着冷静な少年は学校での成績はよく、周囲からの信望も厚かったのですが、2歳上の兄を包丁で刺し、大怪我をさせて少年院に送られる事になってしまいます。しかし、刺したのには理由があって、 実は母親が兄にレイプされそうになっていたところを阻止して、兄の持ってきた包丁を奪い合っているうちに誤って兄の足に刺さってしまったんですね。主人公は母親を助けようとしただけなんです。
しかし少年院送りです。そんなの裁判ではっきりするだろうに・・・と、思う方もおられるでしょうが、主人公はそれを隠し、自分が故意に刺したと供述するんですね。なぜ、そんな事を言うかというと、レイプされそうになった事実を明らかにする事は母親を辱める事になるからです。それに兄への無言の復讐でもあったのです。
この兄弟、実は血がつながってないんですね。主人公は母親の連れ子、兄は父親の連れ子なのです。父親はそこそこ大きな会社の社長をやっていて、家は裕福です。しかし、兄が問題児でして、大学生の身でベンツを乗りまわす、酒を飲みまくる、さらに嫌な性格という人間。そうなったのは出来すぎた弟へのコンプレックスや新しい母親が本当に母親らしくなってくれなかったこと、祖父母の甘やかしなど、さまざまな要因が重なったことが原因です。そして今回はついに母親をレイプしようとしてしまったのです。
そして小説はこの家族を中心に話が進んでいくわけです。家族のそれぞれが葛藤し、家族の形を手さぐりで探していくのです。私がこの小説を読んでいて思ったのは、ここで描かれている家族の問題や、そこで育った子どもの問題などは現在の社会にも置き換えられるのではないだろうか、ということです。
17歳の犯行だとか、普通の少年が突然キレる、などといった事件がよく報道され、最近の子どもはわからない、とかなんとか大人の人たちは言ってますよね。でも、最近の子どもがキレたり、犯罪行為をすることはその理由はなんであれ、原因は家族にあるのですよ。ちっともわからない事はないんです。家族の中での人間関係が問題なのです。寂しさ、コンプレックス、プレッシャー・・・理由は色々ですが、家族の関係がよくなれば、問題なんか起きません。青少年の問題行動が増えているということは、すなわち問題家族が増えているということですよ。
この小説は家族関係のことがよく書かれているので、少年犯罪と家族を考えるきっかけになるんじゃないかな、と思います。まあ、そんな難しい事考えなくても(考えない方が?)十分楽しめますけどね。