飛行機雲


振り向くことも出来ずに ひたすら足を速めていた
瞳が何かで曇って、前がよく見えない
それでも走りつづけていた
・・・ただ、怖くて
前を見ることも、後ろを振り返ることも出来ない
だからこそ、走っていた
心の底から出した声も 人込みにかき消される街の中で
1人になるのが怖くて・・・

夕焼けに赤く染められた人の群れは
いつもと何も変わらない
せわしなく流れてゆく時間
何もかもに取り残されてゆく気がした
誰かにぶつかって 顔も上げずに謝って
また 飽きることなく走りつづけた
混乱した頭の中では 何も考えることも出来ずに

しばらくして前が見えて
私の瞳に 何も写らないことを知った
振り向くことは出来なかった
私の瞳に 何も写らないことを知っていたから

ふと足を止めて見上げた空に
一筋の飛行機雲が伸びていた
その時初めて、涙が出た
自分にもまだ、見えるものがあることを知った
心は死んだと思ってた
あの人を失った瞬間に・・・

突然声をかけられて ハッと振り向いた先に
笑顔で手を振っている友達が見えた
私の瞳に、たくさんのものが写ることを知った
忘れかけていた感情
駆け寄って来る友達に
久しぶりに 穏やかな気持ちを憶えた

私の上では、飛行機雲が
赤い空に白い温もりを描いていた






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<由莉香コメント>
彼女が失った大事な人は、恋人とも、友人とも、家族とも限りません。
また、失ったというのは、亡くしたのか、関係が壊れてしまったのか、
どいういう風にでも取れると思います。
人それぞれで違う状況を感じてみてください(^^)

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