ある日の朝、事件が起こった。
「小島捜査官、事件が起きた。すぐに被害者の所に行ってくれ!」
刑事部長後藤の矢の様なセリフが飛ぶ。
「またですか?部長。なんで私が?」
「お前しか、いないんだ!みんな他の事件で出てるんだ。」
「解りましたよ、部長。行ってきます。」
「頼んだぞ、小島。」
「はーい」
小島はぶつぶつ愚痴を言いながら、被害者の所へ行った。
小島にとって珍しい事ではなかった。過去にこんな事が何件もあった。
しかし、小島は、何件もの事件を一人で解決してきた。その実績を
買われ、部長に一目置かれている。
「なんでいつも私一人なのよ!もう、やんなっちゃう!」
小島は車の中で一人コーヒーを片手に呟いている。車を走らせ30分
の所に被害者のマンションがある。現場に着くと一台の警察のパトカー
と警官が一人居る。
「どうも、捜査官の小島です。被害者の状況は?」
「はい、被害者、佐藤光生 27歳 会社員。首を何かで絞められて
殺害された様です。」
ヒゲの生えた警官が言う。
「まだ、死体はあるかしら?」
「はい、まだ、発見された状態であります。」
「そう、じゃ、ちょっと拝見させてもらうわ」
小島は被害者の部屋へと向かう。
「え〜と、ここね。2階の201・・」
中に入ると、一人の警官が何やら死体に触れようとしている。
「だめ!死体に触れたらだめよ!」
小島がすごい顔で警官をにらむ。
「あ、すいません!」
警官が謝ると、小島は警官を払いのけ、死体を覗き込んだ。
「首を絞められて殺されてるか・・・」
小島が呟く。
「でも、首に絞められた後はあるけど、凶器になるような物はないわね。
手で絞められたのかしら?でも、この傷跡は手じゃないわね。」
小島が死体を見ながらぶつぶつ呟き、部屋を見渡す。
「凶器になるような物はないわね〜。何かしら、この傷跡は?」
小島が死体の手を見ながら言う。
「手の指が切れてるわ。何でかしら?犯人と争った形跡かしら?
他に傷跡はないわね〜。」
小島が死体を調べ終わると、鑑識が入ってきた。鑑識は死体の写真、
部屋周辺の写真、指紋を調べ始めた。
「後は鑑識に任せましょう。」
警官が言うと小島は納得いかない様子で部屋を後にする。
「う〜ん、凶器は何かしら?あの手の傷跡はなにかしら?まあ、いいわ、
とりあえず、署へ戻りましょう。」
小島は車へ戻り、現場を走り去った。
「はぁ、お腹空いたわね〜。朝から何も食べてないわ。もう、部長の
おかげで私の生活はメチャクチャよ!何処かで朝食でも取ろう。」
小島は近くのファミリーレストランに車を走らせる。
食事を終えた小島は署へ戻り、部長に今日の事件の詳細を話し始めた。
「うん、そうか、首を絞められて殺害か?後で司法解剖の結果が出るから
それで、死亡推定時刻と死亡原因が解るだろう。ご苦労だったな。」
「はい、解りました。現場の状況を整理しますので、失礼します。」
そう言うと小島は自分のデスクに戻り今日の事件を整理し始めた。
「第一発見者は202号室の住人か・・。朝6時30分に201の被害者
所に音楽がうるさいと苦情を言いに行ったところ、返事が無く、カギが
掛かってなかったので、入ってみると、被害者は倒れて殺害されていた。
首には絞められたと思われる傷跡があり、絞められた凶器は発見されて
いない。手の指には切れた傷があった。部屋は荒らされた様子は無く、
殺害目的で犯人は侵入したのだろう。被害者は人に恨みを買うような
人間ではなく、まじめな人間で人からも好かれる性格であった。まったく
犯人の検討がつかないわね〜。」
「おーい、小島〜!司法解剖の結果が出たぞ!」
「はい!」
部長のダミ声が小島の耳に入ってくる。
「司法解剖の結果なんだが、死亡推定時刻が今日の朝5時10分から
6時15分で死亡原因が絞殺による窒息死だそうだ。」
「そうですか、死亡して、まじかに発見されたんですね?」
「そうみたいだな。後、これが、死体の写真と現場写真だ。」
おもむろに小島に手渡した。
「あ、はい!あ、これは・・・・」
写真を見た小島の目つきが変わった。
「どうした?小島。」
「いえ、何でもありません。ちょっと、出てきます。」
そう言うと小島は急いだ様子で走り去った。
「何かに気づいたな?小島のヤツ・・・。」
後藤はニヤリと笑みを浮かべながら、コーヒーをすすり始めた。
小島は事件現場に向かっていた。マンションに着くと、警官はもう
居なかった。現場の201に向かうとおもむろに部屋に入る。
「さてと、調べますか。」
タンスや引出しを調べると、一枚の写真が出てきた。
「これは、被害者と写っている女性は誰かしら?彼女みたい。可愛い
女性ね。部長が見たら何て言うかしら? いいなぁ被害者って言うわ、
多分。結構、部長って面食いだからね〜。」
後藤は署でクシャミをしていた。
「あ、この女性、丈夫そうなネックレスしてるわね。しかも、コインが
付いてるわ。いいわね〜私もこういうネックレス欲しい。誰か買って
くれないかな〜。部長買ってくれないかしら。」
小島は写真を見ながら何かを掴んだ様な表情をしていた。
更に部屋を調べていた。
「あれ、これは何かしら?」
じゅうたんの床に何やら光る物を発見した。
「コンタクトレンズだわ。誰のかしら?とりあえず、貰っておこう。」
コンタクトレンズをバッグに入れ、一通り調べると部屋を後にした。
車に戻ると署から電話が入る。
「はい、小島です。あ、部長なんですか?」
「被害者に交際相手がいるんだが、そっちに行ってくれないか?」
「はいはい、解りましたよ。人使い荒いですね〜部長。でも、いいん
ですか?すごい可愛いひとですよ。部長のタイプかも。」
「なにを言ってるんだ!早く行け!」
「はいはい」
電話を切ると、部長の言われたとおり交際相手の所に向かった。
緑が多い住宅街のあるマンションの前に車を止める。
「ここね、え〜と、101号室は・・。鈴木美智ね。」
ドアのインターホンを押すと、暗い顔をした女性が姿を表した。
「ちょっといいかしら、警察の者ですけど。」
「はい、どうぞ」
部屋に入ると、女の子らしい部屋で写真が飾ってあった。
「あの・・用件はなんでしょうか?」
「あ、ごめんなさいね、佐藤光生さん知ってますよね?殺害されました」
「え、本当ですか?」
「ええ、首を絞められて殺されました。」
「そうですか・・」
「交際されてたんですよね?佐藤さんと」
「はい、結婚の予定でした」
「そうなんですか・・」
「誰が殺したんですか!光生さんを!」
急に表情を変え、小島に突っかかってきた。
「まだ、犯人は捕まっていません。でも、検討は付いてます。」
それとなく、小島が言う。
女の目つきが急にキツクなった。
「今日は眼鏡かけてるんですね?」
「え?いつも眼鏡かけてますけど・・・。」
「そうなんですか?でも、写真の美智さんはかけてませんよね?」
女の目つきが更にキツクなった。
「たまたま、かけてなかったんですよ。そんなに目が悪い方じゃ
ないから」
小島が急に部屋を見渡した。
「なんですか?刑事さん!」
女が慌てた様子で声でかける。
「あ、良いネックレスですね?」
写真の横に置いてあったネックレスを見つけた。
「それは、彼から貰ったものです・・・・・」
鈴木は寂しそうに語りだした。
「それは、彼から、誕生日に貰ったんです。すごい嬉しかった・・。
でも、彼は私以外に女が居たんです。結婚の約束もしていたのに・・。」
鈴木は寂しさから憎しみの顔に変わっていった。
「もう、いいわ。全部解ってるから・・。」
小島が言い出した。
「佐藤光生さんを殺したのはあなたね?鈴木美智さん。」
そう小島が言うと鈴木は涙ぐんだ。
「あなたはあの日の夜、鈴木さんのマンションに行った。そこで、彼に
他に女が居る事を知ってしまった。そこで、口論となり、殺意を抱いて
しまった。彼の手の指が切れていたのは、あなたと争った時にガラスの
コップが割れて切った傷ね。マンションの床にガラスの破片があったの。
後ね、コンタクトレンズも発見されたわ。このコンタクトはピンク色の
レンズであんまり見たこと無いものね。きっと、あなたのレンズもピンク
色のはずよ。争った時に落としたのね・・・。あなたは佐藤さんが油断
をした隙にそのネックレスで首を絞めた・・・・。最初は何で絞殺された
のか解らなかったわ。でも、首を絞められた跡を見て解ったの。
一箇所だけ、跡が変だった。多分、きっと何かが付いているネックレス
か何かって思ったの。それで、あなたの部屋に来たらコインのネックレス
があった。それで、あなたが犯人って確信したわ。」
鈴木は黙って小島の推理を聞いていた。
「恋愛をすると人は、感情的になってしまう。自分の理性も見失ってしまうわ。
もう、あなたの愛した佐藤さんは帰ってこない。でも、あなたの心の中に
生きてるわ。」
鈴木はその場で泣き崩れた・・。
事件は解決した。小島は切ない気持ちで署へ戻って行った。
「部長、今、帰りました。」
「おー!帰ったか。お前に手紙が届いてるぞ!」
「誰かしら?あっ!鈴木さんからだわ」
小島はすぐに手紙を読み出した。
「小島さん、私は、大変後悔しています。愛した人は帰ってきません。あなたのその
言葉を聞いた時、私は愛していたんだと、実感しました。それなのに、私は・・・・・。
これから、罪を償い、生きて行くつもりです。」
小島は読み終わると、部長に語りかけた。
「部長、恋愛すると、何故、憎んだりするのでしょう?」
部長は面倒な顔をして言った。
「それはなぁ、気持ちの大きさだな。大きければ、大きいほど、愛してしまう。
その分、傷付いたときに爆発してしまう。」
「へ〜、部長でも、そういう事言うんだ。ちょっと、びっくり。でも、
また、ちょっと、惚れちゃったかも。」
「うるさい!早く、捜査に行け!」
部長は照れた顔で怒鳴る。
「はいはい、行きますよ〜。」
小島は笑いながら、部屋を出て行った。
「まったく、あいつは、なんなんだよ。」
部長は照れくさそうに笑いながら、コーヒーをすすった。
End