2002/08/11(日) 日野啓三『抱擁』・『夢の島』〜蘇生都市(1)〜
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ここのところ打ち合わせや調べもののために、数日おきに都心に出かけております。主に新宿で用事を済ませるのですが、この炎天下の都心に出かけるのは、はっきり言って苦痛であります。いろいろな出会いがあることで気持ちの方はいいのですが、ビルやアスファルトの照り返しの凄まじさには閉口します。都心の熱気が流れ出ているので郊外の方がヒートアイランド化は進んでいるという話もききます。でも、多摩地域には市街地のすぐそばに緑豊かな山や森があちらこちらにあって、ほっと息をつける場所があります。勿論、都心にだって探してみれば緑地は多いのですが、樹木になんだか生気がないような感じがするのは私の思い過ごしでしょうか。

2千年紀に入った一昨年から首都圏の夏の気象に大きな異変が見られるようになりました。東京が亜熱帯化しているのではないかと危惧する人もいます。これまでとは異なった種類の植生に移り始めているという人もいます。私は生態学の専門的な知見を持ち合わせてはいませんが、充分ありえる話ではないかと思います。

日野啓三さんの1980年代の小説の幾つかが、すでにこのような東京の亜熱帯化を背景に、そこに暮らす人々の意識と人間関係の変容を主題にしていました。都心にある古びた洋館を見慣れない植物が覆い始めたり、「夢の島」と呼ばれるゴミ処分場の果てに流れ着いた熱帯性の植物が繁殖し始めたり、「破局」と言うほど大仰ではないものの、かすかだが確かに起こりつつある「変容」が夢のような物語を支えていました。堅実なビジネスマン・タイプの主人公が東京に起こり始めたかすかな変化に気付いたある日を境に、熱病にとりつかれた様な行為にのめり込んで行く、という物語群です。

この東京の亜熱帯化というビジョンは、やがて地方の辺境の地で生じ始めた世界の砂漠化のビジョンに移り行きました。「地球温暖化」というのが、当時この特異な小説家の視野にどの程度まで入っていたのかは定かではありません。しかし、1980年代に日野さんが想像した以上に首都圏の亜熱帯化というのは、今切実な問題になりつつあるのではないでしょうか。しかもそれは「物語」という甘美な世界を紡ぎ出す暇も無いほど、急速かつ切実な問題となって私たちの前に立ちはだかり始めたのです。
2002/08/12 (月) 01:56


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