音楽的無意識3
誰にでも弾けるブライアン・イーノ
やあ、みんな、ブライアン・イーノの新作『ザ・ドロップ』は、もう聴いたかな? この新作、聴いた人の大半が、「こんなんだったら誰にでもつくれる」と思っちゃうでしょうが、実は、そうなんです。ポータサウンド一台バックに歌うポンチャックもすごかったけど、こっちの方は、もっとすごい。有り体にいえば、簡易なミュージック・コンピューター、たとえばローランドのMC−303一台あれば、誰にでもつくれます、こんなアルバム。楽器なんか弾けなくたって、譜面がよめなくたって、コード進行がわからなくったって、ぜんぜんへっちゃら。めんどうなステップ入力も必要なし。リズムパターンを指定して、てきとーに鍵盤おさえていりゃ、あとは機械が勝手にやってくれま〜す。
音楽的マニフェスト、「ミュージック・フォー・ノン・ミュージシャン」以降、イーノが一貫して行ってきたのは、成りゆきと思いつきを組織することさえできれば、音楽なんか誰にでもつくれるってことだったんだ。ジミ・ヘンみたいにギターが弾きたい、坂本教授みたくピアノが弾いてみたいと思って、挫折してしまったひとは、いっぱいいるだろうけど、イーノみたいに音楽つくってみたいと思って挫折したひとって、いるのかしら?
ロック・ミュージックって、クラシックに象徴される権威に対する反抗の音楽って、よくいわれるけど、名人芸的な演奏技術がつくりだしてしまう、演奏する側と聴く側の距離の拡大を商売にするとこなんか、ロマン主義音楽そっくり。デビュー当初のビートルズや、パンク・ロックなんかに特徴的だった、楽器もろくに弾けないシロウトが、かっこいい音楽をやってるってのも、そのこと自体が神話化されて、音楽の作り手と聴き手との間の越えがたい壁ってのを突破できなかったでしょう?
イーノの場合、名人芸的、職人芸的なところがあったとすれば、アレンジの緻密さや、演奏技術ではなくって、U2をも魅了した、エコーや、リヴァーブ、ディレイ等の空間系のエフェクトを駆使したミキシング技術。ほら、どんな稚拙なピアノの音でも、神秘的に聴こえるって、例のやつ。でも、こんなの、ミキサーとエフェクターをてきとーにいじっていれば、楽器をマスターする1万分の1の努力でなんとかなります。それも今や、実売5万円以下の機械一台で可能になりました。そして、イーノの新作は、徹底してチープで、平板で、書き割り的で、ドラマチックさとは思いっきり無縁な音作りで、「誰にでも弾ける音楽」の先導者らしい、いさぎよい姿勢が好感が持てます。圧倒的なテクニックで聴き手を制圧するのではない、「誰にでもつくれる」触発者としての面目躍如ってとこかな。
で、音楽なんか誰にでもつくれるってとこまで進歩した音楽テクノロジーが普及しつつある以上、これからのミュージシャン最大の課題は、音楽を発表する場を確保することと、流通のためのチャンネルを開拓することの、二つになるでしょうね。るんるん。(談)
初出:『月刊モダンビーム』第5号、1997年12月
(C)1997,2002 Yoshiaki Miyano 音楽的無意識リストへ TOPへ