音楽的無意識6

香川の誇る長寿番組、その名は『タンゴ・アルバム』

私の生まれ育った香川県は、ディープなジャーマン・プログレ・マニアが(人口の割には)数多く棲息していることで(ごく一部で)有名です。「うどん」しか名物のない日本一小さな県で、いったいどうしてなのか疑問に思う向きもあろうかと思いますが、答えは簡単です。25年前程前のことですが、地元のラジオ局のアナウンサーが自分の持ち番組で、電子楽器を駆使した一曲数十分におよぶ長大かつイカレタ音楽をかけまくったことがありました。当時中高生だった少年少女たちは、他にこれといっためぼしい娯楽のなかったこの地で、未知の音響のたっぷり詰まった異郷の音楽に親しむようになったのです。

でもこれは、今となっては、所詮四半世紀前に地方で起きた一エピソードでしかありません。けれども、マイナーな音楽を妙に偏愛するこの局の姿勢を象徴するのが、1953年の開局以来続いている『タンゴ・アルバム』という番組なのです。

この番組、その名の通りタンゴの専門番組なのですが、中身はといえば、地元高松の学校教師が自分のコレクションしたレコードを解説しながらかけるだけという、実に地味きわまりない番組なのです。十年程前のワールド・ミュージック・ブーム以来、中南米音楽の専門番組がいくつか登場しました。でも一つのジャンルだけをひたすらかけ続けている番組なんて、そうあるものではありません。しかもこの番組、スポンサーなしで45年間も続いているのです。そのためか、土日の早朝深夜の時間帯をあちこちいったりきたりしたものですから、残念ながらかのギネス・ブックには「参考記録」としてしか記載されていません。でも大したものだと思いませんか?

少し冷静に考えてみれば、リスナーを楽しませる話芸に秀でている訳でもないこの教師のやっていることなんて、自分で演奏したり作曲したりするのでもないのだから、実は自分の好きな音楽をただ垂れ流しているだけだと言えないこともないでしょう。現に、この番組を何度も聴いて育ったであろう香川出身のミュージシャン、例えば吉川洋一郎やファンキー末吉の音楽に、「タンゴ」の影響が特に認められるわけではないのです。地元の「音楽文化」にどれだけ影響を与え貢献してきたのか、いささか疑問なきにしもあらずです。

けれども、たまに実家に帰ってこの番組を聴く度に、世の音楽の流行り廃りとは関係なく、自分の好きな音楽を愛好し続けてきた熱意と根気に頭が下がる思いがします。この30年ばかしの短い間に、「若者」と呼ばれていい気になった私たちが、いったいどれくらいのジャンルの音楽を使い捨ててきたのか反省させられてしまうのです。

もし、この文章を読んでこの番組に興味を抱いた方がいたら、日曜の深夜1時に1449キロヘルツに周波数を合わせてみて下さい。関東の空のもとでどこまでちゃんと受信できるのか保障できないのが残念なのですが・・・


初出:『月刊モダンビーム』第8号、1998年3月
段落ごとに改行した他は、原文のまま再録しました




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