夜這い

第一話「愛しのあの子」


「ちっくしょう、なんであんなに可愛いんだ」

学校から出て行く女生徒を道の角から見つめていた俺はため息をはいた。

同じ学校の同じ学年でなおかつ同じクラスの女子なのに、こうやってストーカーまがいのことをしてる事に半分苛立っている。

「よ〜タク、なにやってんだ」

「違っ!俺は犯罪なんかしてない!」

っと誰かが通報したものと思った俺はそう言いながら振り返ってみると、そこには悪友のユウヤがいた。

「って、ビックリさせんな!あと少しで口封じするとこだったぞ」

「…やたらキョドってたくせに偉そうだな。どれどれ」

俺の反応に何か感じたのか、ユウヤは俺を押しのけて角の向こうを覗いた。

「お〜、エリちゃんじゃないか。なんだ?もしかしてあの子を御所望っすか?」

ニヤニヤしながら俺の方を見る。俺はムスッとしたままそっぽを向く。ユウヤはまぁまぁと俺の肩を掴んだ。

「そう邪険にしなさんな。それならちょうど良い情報があんぜ」

「お前の情報はあてにならない事は誰も知ってる」

「あれ〜、そんな事言っていいのかな〜?愛しのエリちゃんの事だぜ?」

むむむと俺はユウヤの顔を凝視する。相変わらず人を小ばかにした顔だ。とりあえず目潰ししてみた。しかし指の間をチョップされ、悶絶したのは俺だった。

「聞きたいのか聞きたくないのかどっちやねん」

「…聞く」

「よぉし、良い子だ。それでこそタク」

妙に盛り上がって鼻息を荒くしているお前は冷めた目で見ている俺に気づいているだろうか。そんな事を思いながら、話を促す。

「いいか、あのエリちゃん、凄い噂があってな」

「噂、実は口裂け女とか」

「んなわけないだろ、いいから聞け」

そんなもったいぶった喋り方をされては俺の気も散ってしまう。

「で、どんな噂なんだ?」

「この地域にある慣習なんだが夜這いという文化があるらしいんだ」

はぁ?と素っ頓狂な声をあげてしまう俺。

夜這いと言えば、男が女の寝床に侵入して、…なんだ…、色々することだ。同棲ってものがなかった時代では、男が毎晩女のところに通っていたらしいが。

この街で16年生きているがそんな慣習はあるなんて聞いたことない。

「いやまぁ驚くのは分かるけど、実際昔にはそういうのがあったらしいぜ?
 親父に聞いてみたら、俺は夜這いで出来た子だって言いやがった。俺じゃなかったらショックで自殺してるな」

「昔の話だろ?今じゃンな慣習なんてねぇよ」

ユウヤの出生の秘密を知ってしまった俺は別にどうするわけでもなく流す。もしかしたら俺も夜這いで生まれた子だったりしてとも思ったのは内緒だ。

「まあね、確かに今じゃそんな慣習は廃れちまってる。残ってたら、今頃俺は朝帰りで不機嫌なはずだ」

したり顔でユウヤは空を見上げる。変な妄想でもしてるのだろう。

「ンだから、それとあの子がどう繋がるんだ」

昔の慣習にそんなことがあったのはマメ知識として受け取っておくが、それだけだ。半目でユウヤを見る。ユウヤはより一層自慢げな顔になった。

「ここからが本題だ。あの子の家がどんなか知ってるか?」

「いや、知らない、良い所のお嬢さんなのか?」

「お嬢様っていうか、昔ながらに続く由緒正しき家柄らしい」

「へぇ…、ってか、まさか…」

「たぶん想像通り。過去の遺物となっていた夜這いの文化が生き残ってるって話だ」

…まじか。俺は少し悩んだ。あの清楚な女の子に夜這い、夜這いの文化、夜這い…。

「夜這い…」

俺の胸に熱い想いが燃え上がるのを感じた。

「エリちゃんはどうなのか知らないけど、あそこの親父さんは夜這いかかってこいな考えらしい」

「つーことは、通報はされないのか」

ユウヤは俺の顔をじっと見た。そして面白そうに笑う。

「警察にお世話になるこたぁない。安心しろ」

「そうか、そうか…サンキュ」

「いやいや、喜んでもらえて光栄だよタク君、はい」

と、右手を出してくるユウヤ。左手は人差し指と親指で丸を作っている。

「お布施おくれ」

俺は帰りにジュースでも買うつもりで入れてたポケットの裸銭をユウヤに渡して走った。



すぐにエリの後ろ姿が見えた。相変わらず可愛い。

後ろ姿だけ可愛くて正面から見るとこの世のものとは思えない生物がいるという展開もなく、

正面から見ても横から見てももちろん斜め四十五度から見ても可愛いものは可愛い。

(………)

俺はこっそり彼女をストーキングし続けた。通りすがりの人が見たら確実に数分後に巡察の人が来て逮捕されることうけあいだ。

しかし、今の俺はそんなことを気にしていられるほどシャイボーイではない。



エリはある一軒家に入っていった。

「…ここが彼女の家か」

でかい、でかいすぎる。例えるなら武家屋敷だ。周りはマンションやらが立ち並んでいるのに、ここだけ時代が巻き戻ってる。

さすが由緒正しきお家柄だ。そうでなくては燃えない。

「必ず、必ず夜這ってやるぞー!」

と両手をあげて叫んだ。交通量が少ないからやたら俺の声が響く。なんかエコーがかかってるし。やばっ、制服を着たガタイのいい男達が走ってきた。

俺は50Mダッシュでそこから逃げ出した。


第二話「とりあえずお前を倒したい」へ

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