夜這い
第二話「とりあえずお前を倒したい」
家に帰り自分の部屋に入った俺はさっそくどうするか考えた。
「考える余地なんてないだろ。当たって玉砕、これ最強」
「ユウヤ…なんでいんだよ」
入った時には誰もいなかったのに。俺の背中にずっと取り憑いていたのか…?
「ニンニクでもぶら下げとくか」
「人を吸血鬼扱いかよ。お前の状況把握能力が足りないだけだ」
目の前のこの男を殴り倒したいどころかコンクリ詰めにして海に沈めてやりたい衝動を胸に押さえ込み、俺はそいつを無視して計画を練ることにした。
「まず何時に決行するか」
「二時だな」
即答するユウヤ。俺はなんでそう思うんだといった表情でユウヤを見る。
「あんまり見つめるな惚れてしまいそうだ」
「馬鹿言うな、なんで二時なんだ?」
「だってエリちゃんの部屋が消灯するのが一時前後だから、二時ぐらいがちょうどいいだろ?」
なんでこいつはエリの寝る時間を知ってるんだ。部屋の場所も。
「お前、夜這いしようと思った事あるだろ」
「ピンポーン大正解」
むやみに明るい調子で答えるユウヤ。だから夜這い文化とかの事を知っていたのか。
「身辺調査はしたんだけどさ、タクがあの子にご熱心と知ってたから泣く泣く我が親友に夜這いという尊い任務を託したわけよ」
感謝しろと言わんばかりに俺の背中をバンバン叩く悪友。
「親友に夜這いを勧めるのがお前のポリシーか」
「細かいことは気にするな。禿げるぞ」
「俺はそこまで神経質じゃない」
「好きな子に話しかけることもできない小心者がよく言う」
腹を抱えて笑うユウヤ。さっきの事を思い出してるんだろう。
殺意が沸いてくる俺を神様は許してくれるだろうか。
きっと許してくれる、そうであるはず、そうあるべきだ。
結論に至った俺はベッドの上で転げてるユウヤの上に飛び掛った。
突然のことにユウヤは逃げることができず、見事に俺はマウントポジションを取った。
「さぁて、どうしてくれよう、焼くか煮るか」
「ミディアムで頼む。外はカリカリ中ジューシーだ」
「…お前はなんでそう余裕なんだ」
「決まってる。まさか親友を殴るなんて非道な行為をタクがするはずがないと信じているからさ」
歯が抜けてしまいそうな台詞を平気で吐くこの男に俺は一瞬呆気に取られたが、すぐにユウヤの脳天をどついた。
ってー!ともんどりうつユウヤ。
「信じられねー、本気で殴るか普通?!」
世間の厳しさを教えてやったことに満足した俺は改めて夜這いについて考える。
「やっぱ当たって砕けるしかねえのかな」
「あの家の中がどうなってるのか分からない以上、策はあまり練れないだろ」
頭をさすりながらユウヤが口を割る。
確かにそうだ。あの武家屋敷みたいな馬鹿でかい家の中がどうなってるのか分からない。
特に俺はエリの部屋がどこにあるのかすら知らないのだ。
「彼女の部屋を知ってるぐらいだからユウヤはあの家に入ったことあるんだろ?どんな具合なんだ」
「いや、入ったことねえ。向かいのマンションから覗いただけだからな、しかも庭にやたら木が生い茂っててどうなってるのかよく分からん」
う〜んと唸る俺。ということは中に浸入してみない限り内部構造は分からないって事だ。
「エリちゃんの部屋は分かってるんだから、あとはそこに真っ直ぐ進むだけだろ。考える事なんかあるか?」
「まあな…、だな、やるしかないな」
それでこそタク、とユウヤが息巻いて立ち上がりどこからかバッグを取り出した。
「この中に色々素晴らしいアイテムが入ってる。これがあれば七回は夜這いができる」
「…マジか」
「マジだ、本気と書いても言ってもいい」
そのバッグを恐る恐る受け取る。爆発物でも入ってないかと不安だったが、意外に軽かった。
「懐中電灯とかが入ってるだけだ、安心しろ。さぁ出発だ今すぐ出発だ」
無理やり俺を立たせて玄関へと押していく。
「お、おい、まだ心の準備が…」
「はよ行けボケ」
ユウヤは俺の背中を蹴って外に追い出した。後ろでドアが閉まって鍵のかかる音がする。
「ありえねー!なにすんだこのヤロウ!」
「これも友人のロスト童貞を思ってのことなんだ。俺の涙の決断を無駄にするな」
ドアの向こうでくぐもった声が返ってくる。しかし俺には想像できる。ヤツがこのドアの向こうで口を押さえて必死に笑いをこらえてる姿を。
「あぁあぁ!やりゃいいんだろ!やりゃ!今日で童貞ともオサラバだ!明日の俺の笑顔を見て後悔するなよチクショウ!」
ドアの向こうで堪えきれなくなったユウヤの馬鹿笑いが広がる。やっぱりこいつは俺で遊んでる。
俺は気にしないようにして、ユウヤからもらったバッグを肩に担いで走り出した。
あいつをギャフンと言わせるために。
そして俺の目的達成の為に。
ぜったい夜這ってやる!