夜這い
第四話「人肌恋しい年頃」
「今年のMVPだったぞ?あれは」
ユウヤは満面の笑顔で俺の前を歩く。
結局野良犬と追いかけっこしたあげく川にダイブしてしまった俺は、昨夜はそのまま濡れ鼠で家に帰ることになった。
「くっそー、ビデオカメラ持ってくりゃよかった!」
あれを撮影されでもしたら俺は首を吊るしかない。
「笑うなよ。あんな強烈なやつが現れたら普通逃げるだろ」
ニヤニヤ笑いながらユウヤはこちらに振り返った。
「外見だけでその人の人間性を決め付けちゃいけないってママに教えてもらわなかったのかい?」
「お嬢様に害なすかもしれない人間を相手にするのに人間性はいらないだろ」
「それがお前の間違いなんだよ。人が話をしている最中に絶叫しながら走り去っちゃいけないってママに習わなかったのか?」
まるで俺がマザコンかのような言い方に少しむかつきつつ尋ねる。
「どういう事だ?ユウヤ、あのシュワちゃんと話できたのか?」
ユウヤは誰だと少し考えるそぶりをしてポンッと手をたたく。
「あぁ、あのガードマンね。上手い表現だな、確かに似てる」
はははと笑うユウヤ。どうやらあの和製シュワちゃんはガードマンだったらしい。
「お前はトチ狂って行った後に聞いてみたんだけどな。別にまだ危害を加えるつもりじゃなかったんだってよ」
「まだ…って、俺が何かしたら危害を加えるってことかよ?」
「そーゆーこと。ってかな、マジだったんだって俺も驚いた。夜這いすることができるんだってさ」
「驚いたって…、おい、お前…」
確証もないことに俺をぶつけようとしたのか。
「おっと、逆恨みはよくないぜ?俺はあくまでも噂だって言ったんだ。本当かどうかは確認しなきゃ分からんよ」
「確認するにしても、あれは直球だわな。シュワちゃんに夜這いしてもいいんですかって訊いたのか?」
「まぁそんなところだ。そしたらどうだ、夜這いに関しては勧めはしないが拒否もしないって答えが返ってきた」
勧めはしないが拒否もしない…?まどろっこしい言い方だ。
「夜這い文化は残ってるってことだ。少し趣向が変わってるけどな」
「趣向?家族の前で夜這え、とか?」
ユウヤは俺の言葉に、少し小ばかにしたような顔つきをして手を横に振る。
「それじゃただの変態家族じゃないか。もし愛しの女がそんなだったら俺は幻滅するぞ」
それもそうだ。というか冗談のつもりだったんだが、真面目に否定されてしまい俺は少し凹んだ。
「まるでドラマとかその世界の話みたいだけどな、あの家の親父さんは、娘の婿には知力体力時の運を持った人がなって欲しいんだそうだ」
「どこかの大会みたいな文句を言う親父だな」
「俺の脚色だ、気にするな。つまり、逞しい男なら娘を夜這いしてもいいんだそうだ」
それもおかしな家柄だなと思うのは俺の気のせいか。胸中で怪しがりながらも話しを聞く。
「その逞しい男ってのは、どう判断するんだよ。夜這いされてから判断するのか?」
「事後より事前だ。あの屋敷の庭は木がワサワサ生えてて中の様子が分からないって言っただろ?」
「だな、そのせいで俺はシュワちゃんとご対面することになったわけだし」
思い出したようにユウヤは腹抱えて爆笑した。
「あっはっは、ばか、思い出させんなよ!あぁ、マジでビデオ撮っときゃよかった」
「黙れ、笑ってないで続き話せ」
笑わせたのはお前だろうがと呟きながらユウヤは笑うのをやめてこちらを向いた。でも顔は少し引きつってるのが切ない。
「外からは分からないけど、中に入ると凄いらしいぜ?あの庭」
「凄いって、どんな風に」
「たくさんのシュワちゃんが待ち構えてる」
「……」
つまり、死ねってことか。
「そろそろ察しろ。シュワちゃんや幾多の罠を掻い潜って娘の部屋に辿り着けた人間が晴れて夜這いできるってことだ」
「…知力体力時の運の内、時の運が特化してるな」
シュワちゃん達に出会ったら即、死じゃないか。
「運は自分の力で掴み取るもんだ」
親指をグッと立てるユウヤ、ついで眩しいほどの爽やかな笑顔を見せる。
一般の人から見れば好青年に見えるんだろうが、俺は騙されない。
「まぁ、安心しろよタク。シュワちゃんに捕まっても別に股裂きをされるわけじゃないし。外に追い出されるだけだ」
とりあえず俺の命は保証されたようだ。
「言えることは、お前に拒否する権利はないってこと」
こいつのこの横柄さはなんだろう。俺は眩暈がした。よっぽど俺に夜這いをさせたいらしい。
「お前、なんだかんだ言ってるけど、要は楽しんでるだけだろ?」
俺がそう突っ込むと、ユウヤはまた笑顔で、さっきの爽やかな笑顔とはかけ離れた邪悪な笑みを浮かべてフッと笑って歩いていった。
あいつは悪魔だ。
第五話「唸れ三角跳び」
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