夜這い
第七話「わさわさ」
「んじゃ、今夜あたりまたリベンジするか?」
学校へと続く道、ユウヤは楽しそうな口調でそんなことを言う。
「なんつーか、ここんところ毎晩行ってるような気がするんだが」
そろそろ付近の住民に怪しい人物として注目されているんじゃ、と俺は怯えた。
「なるほど、不審者と思われているんじゃって思ってるんだろ?」
「まさにその通り。たまには休憩しようぜ?」
俺がそう言うと、ユウヤはいかにもヤレヤレと言わんばかりのため息をつく。
「あのなぁ、危機感が足りないぞ?お前の愛は世間体に負けるものだったのか?」
「まるで俺が悪役じゃねぇか…」
「まさにその通り」
俺の口調を真似てユウヤは俺を指差す。
「今こうしてダベってる間にも、愛しのエリちゃんは誰かと色々プレイしてるのかもしれないんだぞ?」
「…ウソだろ…?」
「ありえないとも言い切れないのが夜這い文化の恐ろしさだ」
こう自信満々で喋るユウヤを見ていると、もしかしたらという気がしてくる。
エリが誰かに夜這いされる…?
「そんなこと…」
「そんなことがあるかもしれないんだぞ!それでいいのかタク!」
「そんなこと、ゆるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
俺は思わず大声を出した。ユウヤは後ろで拍手している。
「それでこそバカだ!」
一言多いのを俺は聞き逃さなかったが、構ってる暇はない。
「ユウヤ!今からでも行くぞ!」
「お、マジか!」
「マジだ、本気と書いてもいい!」
ユウヤはものすごく嬉しそうな顔をした。
「よく言ったバカ男子代表、俺たちは今からどこに向かう!」
「もちろん…エリの部屋だ!!」
「エリの部屋?」
後ろから聞きなれない声がした。
「そう、俺の人生の目標がそこにある!」
俺は振り向いてそう言った。
…
……
………
あれ?
振り返った俺の目の前にいたのは、そのエリ本人だった。
俺はまたユウヤの方に振り返る。
ユウヤは腹を抑えて地面に蹲っていた。今にも爆発しそうな笑い声が聞こえる。
ハメラレタ。
もう一度振り返る。エリは何事かわからないと言った表情でこちらを見ている。
話の内容をよく分かっていないらしい。
「あーあれだ、うん、あれだ、それだ」
「どれなの?」
フォローしようにも相手がいわゆる愛しのあの子だけあって、パニくる。
「やぁエリちゃん」
不意に横からユウヤが現れた。顔が笑いすぎで涙が出ている。
「あ、ユウヤくんおはよう」
ユウヤに気づいたエリは丁寧に挨拶した。
「えっ、知り合いなのか?」
ユウヤも一度夜這いに挑戦しようとしたというのは以前に聞いていたけど、知り合いだとは思わなかった。
「よし、状況をよく把握していないエリちゃんのために俺が手取り腰取り説明しよう」
紳士のような物腰でユウヤはエスコートするようにエリの横に立つ。
「ここにいる熱い男はただいま熱烈な恋に燃えてる熱血漢でございます」
俺がユウヤの言うとおりの人間なら、夏場に邪魔な存在だろうな。
「しかし、不器用な男ですので、夜中に襲い掛かることしか手段を用いることができない者でして」
「あら…まぁ…!」
どこの貴族の夫人だと言いたくなるような声をあげるエリ。
もしかしたらこの子も意外に俺たちに近い人種なのかもしれない。
自分で言うのもアレだけど、バカな人種に。
「まぁ、そういうわけだからエリちゃんも応援してあげてな」
目の前にいるその子夜這うっちゅーねん。
「そうなんだ〜、タクくん、頑張ってね」
「あ、うん分かった頑張ります、はい」
急に名前を呼ばれてまたパニくる俺。
「それじゃ私先に行くね」
「ういー、またなー」
手を振るユウヤ、小声でまた今夜ーと言うのを俺は聞き逃さなかった。
目立たない程度にわき腹に肘鉄をかましつつ俺も手を振る。
「あ、それと」
思い出したようにエリは振り向いて俺の前まで歩いてきた。
う…、近い。
ここまで至近距離で見つめるのは初めてだ。
「ど、どしたん?」
俺は純真ウブな青年よろしくな気配丸出しで尋ねる。
エリの顔がちょっと綻んだ。手を俺の顔に伸ばす。
「すごいねこれ」
エリの手は顔を素通りして頭に向かっていた。
「…」
先日の電気ショックで出来たアフロ頭を触っている。
「わさわさやん」
エリはわさわさ俺の頭を触ったあと、満足したように歩いていった。
「…わさわさ、か…」
俺は夕焼けに向かって走り出していた。
「タクっ!」
ユウヤは走り出した俺を追いかけて肩に手をかけた。
慰めてくれるのかユウヤよ。
「今はまだ朝だ!夕焼けに向かって走ることは出来ないぞ!」
「人の思考を読むなボケエェェェェェ!」
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