「…お前、いーがーいーとっ!繊細なんだな」
例によって俺の部屋に上がりこんできたユウヤはベッドに寝転がっている俺を見てそう言う。
「…あのな、単純に触られたくないところを好きな子に触られて凹まないやつはいねぇだろ」
俺は鏡に映る少しだけ落ち着いたアフロ髪をブラシでとかしながら毒づく。
「そうなんか?俺はどっちかというと触ってもらえたら気持ちいい派なんだけど」
ユウヤは楽しそうに腰を突き出す仕草をする。
お前は何かが間違ってるぞユウヤ…。
「つまりだなタク。お前はこう言いたい訳だ」
こいつが急に改まった口ぶりをしだすと、やたら不安になるのはなんでだろう。
「童貞を捨てる時、緊張のあまり本番でたたないという話はよくある」
「やっぱり下ネタか…」
俺はガックリ肩を落とした。
「だから、第二の亀頭とも言えるアフロヘアを触られてしまったタクは萎縮して夜這いに行けないんだ」
「俺の頭を勝手に亀頭呼ばわりすんなよ…」
「んや、これは万人に共通だわ。男は基本的に頭を上から見られたり触られるのを嫌う性質みたいだぜ?」
こいつのこういう知識だけはちょっとだけ尊敬する。
…あやかりたくはないけど。
「そんなこたぁどうでもいい。つまりアフロとともにお前の愛も萎縮しちまったのかってことを言いたいんだ」
今夜は夜這いに挑戦しないのかってことか。
ユウヤが俺の部屋にいること自体、俺の行動を見届ける楽しみを期待してるんだろうけど。
「あんま乗り気がしないな」
上半身を起こしてユウヤに向き直る。
「エリは俺が夜這いしようとしてるってのを知らないんだぜ?」
夜這い文化だなんだって馬鹿みたい意気込んでたけど、本人はそんなこと知らないんだ。
「今朝実際に会ってしまうと、恥ずい話だけど、ほんとに萎縮しちまった」
「…ふむ…」
ユウヤは珍しく真面目な表情で俺の顔を見つめた。
「いや、別に馬鹿にしてるわけじゃないよ、タク。そんだけ思いも深いってことだろうし」
ユウヤはおもむろに立ち上がり、色々な道具の入っている例のバッグを俺の前に置いた。
「たぶん、前のような勢いだけで本当にエリちゃんの部屋に着いちまってたら、タクの言うように萎縮していただろうな」
本人を目の前にして右往左往してそうだ。
「でもな、今はそれなりに心の準備ができただろ?」
確かに、夜這いすることの現実味を帯びたという実感がある。
「タクの萎縮ってのは夜這いの罪悪感というより、好きな子を夜這いっつーアンフェアな方法でいいのかって、そういう意識の方が強いと思うんだわ」
「今日のユウヤはやたら正論っぽい事を言うな」
俺は少し茶々を入れるようにそう言うと、ユウヤはニヤリと笑った。
「俺はいつだって真面目だぜ?真面目に楽しんでる」
ユウヤはバッグを俺に投げた。
「夜這いするかどうかはタクの判断。とにかくは、何かのきっかけだ」
「きっかけ?」
「例えば、夜這いの勢いで告白するとかな。まぁ、外で待っとくわ」
ユウヤは軽くガッツポーズのような仕草をして部屋を出て行った。
よくわからんが、頑張れという気持ちは伝わった。
今まで散々俺を笑いのネタにしてきたユウヤが真面目に応援するぐらいだ。
俺も、少し気合いを入れなきゃいけないな。
バッグを肩にかけて外に出た。
「はい、カット!」
玄関を出た正面にユウヤが立っている。
片手にはビデオカメラ。
「どこの監督やねん」
「中々いいシーンを撮れた。迷う男を励ます親友ってな」
やっぱり俺はネタにされてるみたいだ…。