夜這い

第九話「突撃あなたの晩御飯」

何回来ても、この巨大な武家屋敷には圧倒される。

「どう考えてもいち学生の俺に超えられそうもない壁に見えるんだが」

俺はビデオカメラをこちらに向けている男に話しかける。

「タク君の愛の深さを測る壁ですよ」

カメラを向けたままユウヤは答える。

深さと高さの勝負か、噛み合ってない気もするが…。

「こんなことしないで告白できる勇気がお前にあれば、それが一番いいんだけどな」

俺の一番痛いトコを突いてきたから少む凹む俺。

「こ、これを乗り越えられたらその勢いで俺は告白するんだ…見てろコンチクショウ!」

「見てろコンチクショウって…、俺について来いってことか?」

ユウヤの瞳が怪しく輝く。

「ごめんなさい、ついて来ないでください」

「安心しろ、遠くから盗撮しといてやる」


わー、よかったー。これで安心だー。


「って、ンなわけねーだろ!…って、一人突っ込みしちまった…」

ユウヤはニヤニヤと笑顔で俺のアホな姿をずっとビデオカメラに収めている。

今回のこの流れを記録しているあのビデオは、もしかしたら末代までの弱みとされてしまうかもしれない。


「あ〜、そういやさ、タク」

思い出したようにユウヤはカメラを置き、ポケットを探りながら手でこっちに来るように合図する。

「お前、吸わないよなぁ」

取り出したのは煙草だった。

「吸わないよなぁ、って、一応俺たち設定上は高校生なんだから吸っちゃやばいだろ」

「…設定上って言うな」

ユウヤは頭をガックリさせる。どうやら禁句を言ってしまったようだ。

「俺がこうやって横で吸ってても文句言わないトコから、別に嫌いじゃないとは思うんだけど、吸わない?」

別に臭いが嫌いとかそういうのはない。

ただ、煙草のおかげで貧乏生活を送っている生きた見本が目の前にいるから吸う気が起きないだけだ。

「あ〜あれだろユウヤ。俺がゴホゴホと死にそうな顔をするのを見たいのか」

ユウヤはまたニヤリと笑う。煙草を一本手馴れた動きで出して、俺の口の前に差し出した。

「先行祝勝会。俺からの祝いだ」

俺は煙草を咥えた。ユウヤはもう片方の手でライターを出して火を点けた。

なんだかんだ初めてなもんだから、少し緊張しながら煙草の先っぽを火に当てながら吸ってみる。

「肺まで浸透させろよ。口ン中だけでスパスパしてたらバカするぜー」

言われるままにゆっくりと深呼吸のように吸ってみる。

「お、意外に吸えてる」

本当にユウヤは意外そうに感心した面持ちで俺を見守った。

「何か妙にスーってするな。もっと埃っぽい感じがすると思ったんだけど」

「タク用に軽いヤツにしておいた」

なるほど、いつもユウヤが持ってる箱とはデザインが違う。

「ともあれ、これで大人だタク。おめでとう」

これって大人への一歩だったのか…?


俺とユウヤはしばらく煙草を吸ってボーッとしてた。





「ンじゃ、行くわ」

ご丁寧にギリギリまで吸った煙草を地面に押しつぶして俺は立ち上がった。

「おう、そっちの方も大人になってこい」

どっちなんだとツッコミたかったけど、答えが分かりきってるから俺はあえて流した。

「んで、前にも言ったように、鉤縄はゴム防御してるから安心して使ってやってくれ」

俺はバッグの中を探る。ごちゃごちゃとローターやらおっぱい型のボールやらの中に混じっている鉤縄を取り出した。

「ユウヤ…なんか変なものが増えてる気がすンだけど…」

「欲求不満の時にでも使ってくれ」

俺は黙ってバッグを背負い、鉤爪を持つ。

「カウボーイスタイルでやらないのか?」

ユウヤが不思議そうに俺の手元にある鉤爪を見つめる。

「別に回さなくても、このまま投げりゃ届くことを俺は悟った」

と言ってポイッと塀の上に投げたら、案の定うまい具合に先が引っかかった。

外れないかどうか何回か縄を引いて確認した後、俺は壁に脚をかけた。

「んじゃ、ちょっくら挑戦してくる」

「シュワちゃんみたいな戦闘員がワラワラいるぜ、大丈夫か?」

急に心配そうな声を出すユウヤ。

「死ぬ気でやればなんとかなるだろ、多分」


ユウヤは冗談でこの話を持ちかけたのかもしれないけど、これはいい契機だ。

今となっては夜這いするという気持ちはほとんどない。

けど、この茨を乗り越えていけたら、何かが変わるかもしれない。


「ま、ユウヤは俺の雄姿でもカメラに収めといてくれや」

そう俺が言うと、ユウヤは左手を上げて小さくガッツポーズをした。

俺は空いた片手で同じようにポーズをした後、塀を乗り越えて巨大な庭の中に飛び込んだ。





「えっと…?」

俺は軽く頭を抱えた。

塀を飛び降りたらそこは欝蒼とした森林のような場所だった。

ってのを予想していたのだが、ありえない程それは外れだった。

「いきなり到着」

目の前には屋敷の建物がどっしりと立ち構えていた。

入ってくださいと言わんばかりに裏口らしき扉が開いていた。

何故だか知らないが、俺は軽く凹んだ。

たぶん、これからの展開が少し見えた気がしたからだ。


第十話「結局騙された」

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