スクラッチカードと伝達系(01.13.2002)
ミスタードーナッツというアメリカンチャイナ的喫茶店で友人Aとコーヒーを飲んだ。
このお店ではスクラッチカードというものを500円に一枚くらい配っていて、点数が10点たまると可愛らしいクッションとか弁当箱とかが貰える。今までの計算では一枚あたりの期待値は1.4点弱くらいなのでまあ3500円強くらいでその可愛いグッズが頂ける計算・・・なのに不思議と一度も貰ったことがない。
さてグッズはどうでもいいとして、本当はどうでもよくないんだけどここではどうでもいいとして、コーヒーカップの傍らに何気なく置かれているこのカードを見てふと思いついたことがあった。一枚拾い上げ上の端を親指と人差し指でつまみ、Aの前にかざし、Aにも利き手の親指と人差し指をカードの丁度下の端くらいのところにセットしてもらった。知ってる人もいるかもしれないけど、
「これからこのカードを落とすからキャッチして」
というわけ。
小学校のときのマジック漫画か何かだった気がするけど、このカードをキャッチできるヒトはいない、というのをふいに思い出したのだった。で被験者Aで検証してみた。
10回くらいやれば1回くらい当たるかもなと考えて10回試してもらったが、予想に反してというか予想に反しないでというか、10回ともカードはAの指をすり抜けてテーブルにかつん、と乾いた音を立てた。なかなか面白い。
なぜAは10回ともキャッチできないのか。なぜヒトはこのカードをキャッチできないと断言されていたのか。答えはどうせまあ、目で物体が落ちるのを認識してから指を実際に動かすまでの脳みその伝達にかかる時間が長すぎて、理論的に間に合わないから、というのことだろう。他に特に面白い答えは見当たらない。
じゃあ実際この伝達にかかる時間はどれくらいなのだろう?ここで伝達系はカードが落ち始めるのを目で見て脳に伝達して「認識する」のに1ステップ、認識後脳が指に「動け」と指令を出して実際に指が動くのにもう1ステップ、と分けることができそうだ。
今までの自分のイメージでは神経を刺激が伝わるのは電気のスピード、光のスピードなんだからそりゃあもう時間が止まってるくらいのスピード、という感じだったけど、なんとなく実際に計算できそうな気配だ。定量化ってやつ、やるか。と前向きに行ってみた。
定規を取り出しカードの縦の長さを測ってみよう。目測8cm・・・実測8.5cm。
駅前で貰った飲み屋のクーポン券の裏紙を取り出して、状態を2つ絵にして書いてみた。指を離した瞬間のt=0とカードが8.5cm落下したt=tの2状態。何秒でカードが落ちてしまうのかを知りたい。つまりtが知りたい。
カードが受けている力fは重力のみでf=mg、gは重力加速度で9.8m/s2。
もちろんニュートン物理学で十分で運動方程式より
m*(dv/dt)=f
f=mgを代入して
dv/dt=g
積分してv=gt+v0、
初期条件t=0のときv=0より、v0=0、よってv=gt。t=0からt=tまでの間に8.5cm=0.085m進むから、
S0t (v) dt=0.085
S0t (gt) dt=0.085
(1/2)gt2=0.085
よって
t=(0.085*2*g)1/2=1.3
1.3秒。計算してすぐおや?と思った。このカードがカード一枚分の距離を落ちるのに1.3秒もかかっているだろうか?紙を上から下まで見直しても計算間違いは見つからなかった。何回かかつん、かつんとテーブルに音を立ててみたが、何とも言えない。時計で測ってみたかったがあいにく私もAも秒針のある時計を持ち合わせていなかった。
指を離した瞬間はv=0だから、落ちはじめを感知するのは難しいのだろうか。ちょっと落ち始めてからようやく「落ち始めた」と思うので、その分時間を短く感じてしまうのだろうか?微妙に不可解。
とにもかくにも以上が正しいと仮定して、計算で分かったのは、上で述べた伝達系は1,3秒以上もの時間を必要としているということだ。遅い。見てから指が動くまでに1.3秒以上。持っていたイメージが揺らいだ。こうなると1.3秒「以上」なんて曖昧な結果には満足行くわけがない、一体何秒かかるのか、きっちりばっちりはっきりぱっきりさせて欲しいわけです。
カードを落とし始めるのを見て、実際に指を動かした時には既にカードは指をすり抜けている・・・やはり友人Aが落とすカードを私はキャッチできなかった。
実際に親指と人差し指が接触したとき、カードが一体どのくらいのところまで落ちてるのかを調べよう。Aがカードをぱっと離して私が虚しくぎゅっと空をつかむ。何回も何回も繰り返しては、じーっと二人で様子を見、カードがおよそ20cm落ちたところで私ががっちり虚しさをつかんでいる、と空間に定規を当てるという挙動不審者のレッテルを背負ってまでして結論した。20cm=0.2m。・・・隣の人達は無関心を装いながらも面白そうにこちらを窺っていた。
さっきの式の所に今度は赤ペンで書き加える。
(1/2)gt2=0.2
t=2.0
で2秒。2秒?上の2ステップで2秒もかかるのか。なんという遅さ。神経を伝う電子のシグナルは超高速、神経回路の各節でおきてる酵素の触媒反応なんて1秒で何千万回と起きうる反応、と本で読んだにも拘らず2秒。ちょっとまったく個人的には衝撃的、であった。
例えばあらゆる球技で、ボールが飛んできて体が動いていなきゃいけないのは絶対、2秒以内だ。バスケ、野球、・・・。ボールが来る前から体を動かし始めていないと間に合わない、というよい証明になりうる考察結果だ。
更に、Aが「もどがしい」と言ったのに注目した。カードが落ちると知っていながら指でカードつかめないのが非常に歯がゆいという。かつん、かつん、かつん、ああもどもどがしいもどがしい。この感覚はやってもらうと分かると思うんだけど。
これは、目は落ちていくのを見ているのに指が動かせないから「もどがしい」のではなかろうか、と仮説を立ててみた。動かしたいのに動かせない束縛状況のもどがしさ。つまり上のステップでいうと、最初の1ステップ「認識」が達成されているにも関わらず次の1ステップが終わらないから「もどがしい」。
とすると、最初の1ステップにかかってる時間は1.3秒より短い。2秒で2ステップだから、仲良く1ステップ1秒、と「目」の絵と「脳」の絵と「指」の絵、を結ぶ「神経」の絵、のところに2つ「1秒」と書いてみたりした。でも恐らく「認識」よりも「動け」の指令が指に伝わって、アクチンとミオシンがすべり理論で収縮を開始して筋肉が複雑に伸び縮みし、親指と人差し指の動きを司る部分をテンス=緊張させる分、長くかかりそうだった・・・皮膚の下の複雑な筋繊維の動き。
さて、一応考察が終了して更なる究明心に突き動かされ、今度は指だけでなく腕を使ってよいことにした。落ちていくカードを、まるで鳥人が崖から落ちるヒロインをキャッチするかのごとく頑なにナナメに、腕全体を動かして手を運んでいき、テーブル近くでキャッチングを試みる。
かつん、かつん。
何度か失敗したが、なんとなくいけそうな気配がした。もう一回・・・、もう一回・・・、
がっちゃーーーーーん。
うわー、コーヒーカップに横薙ぎの掌底を猛スピードで喰わせ、1カップ分全部を左ナナメあたりに万遍なく撒き散らしてしまった!ごめんなさい!ホントにすいません調子に乗りました反省してます!
隣の人達は無関心を装いながらも面白そうにこちらを窺っていた。