モンスターNO.−35「東海道熱海怪談」

(MAT隊長報告)






この報告は、最近本格的な怪獣にとんと出会わなくなったとお嘆きの諸兄へ贈るものである。



急遽決まった人事異動で、長年在籍していた先輩が部署を去ることとなり、送別会を兼ねて

課内で小旅行をすることとなった。

場所は,あまりにもベタすぎてかえって新鮮な香り漂う熱海。個人的には大学のサークル合宿

以来の訪問である。余談だがこの際の滞在では、熱海秘宝館でスイッチを押すと下から風が

吹いてきて、マネキン・モンローの股間が露わになる、というイカしたカラクリに

大いに脱力させ られたものであった。とはいえ、それでも念のため覗きこんで

しまった
あたりが、まだ若かった証 と言えなくもない。



閑話休題。

現地集合ということで、夕方に1人列車を降り立つと、そこは観光地独特の雰囲気。東京から

たった100kmしか離れてないのに、心なしか風も暖かい。

あえてタクシーには乗らず、隣の来宮駅から海辺にある宿までのんびり坂を下って行くことにし

た。このときは、久しぶりに凪いだ海を間近に見たせいか妙に浮き立っていて、妙に生暖かい

風も別に不快には感じなかった。その風こそ、ここのところ安全圏に身を置きすっかり戦うこと

を忘れた隊長への、天からのせめてもの警鐘だったとも知らずに。



宿の方は、部屋も食べ物も格安パックそのままの、なんてことはないものだった。リニューアル

する資金が無いからとりあえずはダンピングしてでも稼動させた方がマシ、ということなのだろう。

露天風呂が屋上にあるとのことで行ってみたが、庭でコイを飼うためのいびつなプラスチック製

の池みたいなシロモノがポツンと置かれているだけ。ジャグジーになっているようだが、それに

してもあまりにもお粗末な有様だ。

対照的に地下にある海底風呂とやらは、洞窟の中に広がるちょっとした大空間で、暗闇で七色

の光が揺らめいていて異常に妖しい。土曜ワイド版でのパノラマ島奇談

で伊東四郎が作りあげ た地底のパラダイス、これが思いっきり風化したような妖しさである。

叶和貴子を先頭に世界の 美女軍団
が薄着でチン入して来たら満更で

もなかったのだろうが・・・。



部屋に戻って、この日一番楽しみにしていたW杯観戦。わざわざ熱海の宿で雁首揃えて見るの

も間抜けではあるが、この日は何と言ってもイングランド×アルゼンチン戦。実は最初、ピンク

コンパニオンを部屋に呼んでドンチャン騒ぎ
をする予定だった

のだが、私を含めた過半数がサッカー見たいがために猛烈に反対したのである。しかし、スケベ

に命を賭けるこんな私の色気までスッ飛ばしてしまうとは、いかに巷のW杯熱が凄かったかわかろ

うというものである。



応援していたイングランドが勝ち、騒ぎ疲れた私はそのまま床に就きグッスリと寝たのであった。


・・・てな結末になるわけはなくて。



試合が終り、持ちこんだボトルが底を尽いたころ、サッカー代理戦争といわれたゲームによって

闘争心に火がついてしまった我々は、みな一様に目をギラツかせはじめた。


「うーん、まだこんな時間かあ」

「寝るには早いっすよね」

「かといって、宿のビールはバカッ高いしなあ。やっぱ外行くかあ?」

「どうせ外行くのなら、今日はコンパニン呼ばなかったことだし、ストリップでもどうかな」

「ああ、それいいっすね〜」

「いいねいいね〜」


などと、口々に喋り始めたのである。


「じゃあ、フロントのおじさんに聞いてみるか」ということになり電話したところ、ストリップ劇場の

人が車で迎えに来てくれるとのこと。

15分ほどして浴衣のままロビーに降りてみると、一台のごく普通の乗用車と冴えないオッサン

が我々を待ち構えていた。踊り子さんが冴えないのは勘弁願いたいが、オッサンが冴えないの

はまあいい。こっちだってどっから見ても冴えない5人衆である以上、贅沢なことは言えまい。

ただし、5人って前もって言っているにもかかわらず5人乗り

の普通乗用車に乗って迎えに来る
と いうのは一体どういうことであろうか。

ひょっとして計算が出来ないのであろうか、はたまたこの冴えないオッサンは、運転席を我々に

譲り渡して競歩スタイルでクネクネ随行する腹づもりなの か。

とりあえずバブル華やかなりし頃にしばしば味わった、タクシー捕まらないから仕方なく後部座

席に4人詰め という状態で劇場を目指す。



着いた所は熱海の繁華街らしき場所の一角で、見るとピンク色の看板に、大東京が誇るお洒落

な大繁華街の名前を頂戴した劇場名が書かれている。しかし、思っていたよりずっと小さい。

「こういうところは間口が狭く作ってあるものなんだよな」と思ったが、中に入って見るとそこは、

同じように狭く、しかも畳屋の土間の様な実に殺風景な空間である。宿の地底温泉と

同じく著しく 風化してしいる感じだが、何故か鎮座している等身大のタヌキの置物

によって、哀愁まで帯びて しまっている。5人共呆然と立ち尽くしていると、先ほどの冴えない

オッサンがやってきて金の徴 収を始め、払った人から奥の方に通される。失念したが、確か

4000円か5000円だったと思う。

京都の町屋を思い出させる薄暗い狭い通路を抜けると、カーテンが垂らされた入口にたどり着い

た。どうやら、この中のようである。



ここで蛇足ながら補足しておくと、私はストリップというもの、実はこれが初体験なのである。他の

人の話を聞くと、まずはストリップでこの世界へ踏み出し、ピンサロやヘルスを経てソープに至る

のが一般的な段階の踏み方だそうだ。見て、触って、イタす。実に理にかなった3段スライドである。

かくいう私も最初はちゃんと「見る」から入ってはいるのだが、高校生の時入ったそれは最近聞か

なくなったのぞき部屋だった。(オプションでしごき屋が回ってきたが、恥ずかしいので拒否をした。)



カーテンを開けて入ると、そこにはすでに先客が3人居た。我々と同じく浴衣姿で、やはり宴会後

なのか、テンションが高めである。しかし、そんなことより何よりも、あまりの部屋の狭さに驚いた。

一応「劇場」と名がつくんだからと、ミニシアター程度のスペースを勝手に想像していたが、この

部屋は舞台と観客席合わせても精々10畳くらいのものである。舞台の下は靴を脱いで上がれる

スペースになっており、7〜8枚の座布団が並べられている。さしずめ、砂かぶりならぬ

シオかぶり
といったところか。



「ささ、前にどうぞどうぞ」

「いやいやいや、そちらこそ前でごゆっくり」



と、シオかぶりの上で、先客3人とありがちな遠慮し合いをしていると、舞台の袖方から何か物音が。



スッ。



ドンッ。



ドドンッ。



シャーッ(カーテンを開ける音)



・・・・・。





うわっ!・・・で、で、で、出たーーーーーっ!!!




そりゃ、所詮は温泉街、大きな期待があったわけじゃない。むしろ、この場でただ1人、この展開

を期待していたと言っても過言ではないかもしれない。しかし、それでも完全に意表を突かれた。

ピグモンを予感して小さく構えていたら、はるか頭上から

レッドキングに睥睨されていたことに気付 いた
ようなギクリ感。

そうか、あの時来宮駅で感じたナマ暖かい風は、温泉街に巣食うコイツの

寝息だったのか・・。よりによってこんなところに世を忍ぶ仮の姿で、しかも単独で来てしまうとは。

MATスーツもなければ隊員に招集もかけられない。迂闊だった・・・あまりにも迂闊すぎた・・・。



そう、引越しのサカイのCMでエレベーターから出てきて「ほんま〜かいな そうかいな」とでも歌い

だしそうな風貌の、50代半ばと思われるレッドキングがネグリジェ

姿で
舞台に姿をあらわしたのである。こちらに挨拶するでもなく、舞台の袖からラジカセを持って

きて何やら準備を始めた。 と、聴いたことのない演歌が流れ始める。舞台演出も自前

なのだろうか、そう考えるとちょっと 可哀相な怪獣ではある。



その、聴いたことのない演歌に合わせクネクネ踊る姿の前で、私を含めたこの場の8人はただ

凍りつくしかなかった。となるはずだが、先客の3人のテンションが異常に高いのである。

「コラババァ、何しに来た」
「なんだその腹は」
「誰も呼んでねーぞ、引っ込め〜!」


まるで毒蝮三太夫が3人居て、ジェットストリームアタックを

仕掛けている
ような状態である。本来 彼らは味方なはずなのだが、あまりのセリフの数々

にちょっと同情しかけた刹那だった。レッドキン グがこっちをカッと見据えるやいなや、火を噴いた

のである。


「じゃかあしいわ!黙って見れ!!」


舞台の上からの突然繰り出されたストレートな返しに、思わず笑ってしまった。だが、これには毒蝮

たちは黙ってはいない。

「見てらんねえから言ってるんだよ〜!」
「そだそだ、金返せ〜!」
「今すぐ引退しろ〜!・・・でもその前にとりあえず脱げー!」


興味があるんだかないんだかイマイチわからない毒蝮たちである。


「ああ言えばこう言う・・・いちいちウルサイね
アンタたちは。
じゃあサッサと脱ぐから大人しくしてれ!」



レッドキングは苦笑しながらもネグリジェを脱ぎ捨て寝転ぶと、意味不明の

柔軟体操らしき動き
を 披露し始めた。と、毒蝮のうち1人がこっちを向き、


「ほれ兄ちゃん、一番前でちゃんと見とけや。
こんなババアの腐れオ○コだけど金払ってんだからさ」


といえば、またしても舞台上から


「あのな、好きでババアになったんじゃねって!
いちいちババババ言うなっての!そこの
○○ホテル さんよ!」

(浴衣に旅館の名前がプリントされてるため、泊まっている場所が一目瞭然なのである)

という怒りのオタケビが。


同い年の同僚など店入るまでの元気はどこへやら、青い顔を激しく左右に振って後ずさりして

いく始末。私はといえば怪獣そのものよりも、舞台の上下でなされるあまりに

遠慮ないトークと不 条理極まりない展開
に苦笑が止まらない状態である。



この後もひたすら脱力の展開が続くことになる。レッドキングはおもむろに起き上がると、ラジカセを

いじり始める。どうやらカセットテープの早回しをしているようである。挙句かかった曲はなぜか

「チャコの海岸物語」。これはひょっとして裸で踊る「ジルバ」を「ババア」

と掛けてる
のだろうか。もしそうなら今すぐ南の島へ飛んで行って欲しいところ

だが、残念ながら袖からタバコとライターと灰皿を持ってきたかと思うと、あろうことか舞台の中央にデンと

あぐらをかいてタバコを吸いはじめた。



一体どこまで失礼な怪獣、もとい踊り子なのであろうか・・。罵声に嫌気がさして職場

放棄か!? と思いきや、多摩川のアゴヒゲアザラシのように寝転んだ

と思うと、下の口にタバコを突き刺して吸いはじめたでは ないか。

・・・これが、俗に言う花電車ってやつなのだろうか。

しかし・・それにしてもタバコの先の 色が微妙に変化するだけで、花電車という名称の

割には恐ろしく夢のない芸
である。どういう反応をしたら良いのか、我々も毒蝮たち

も少々困惑気味であったその時。



「・・・お、おおー!」

こういう場所に妙に場馴れしているうちの課長が、遠慮がちに歓声をあげ、

拍手をはじめた。流石に大人である。我々もあとに続いてパチパチと手を叩くと、レッドキングも

今日はじめての満足そうな表情を浮かべ、タバコを 抜いて今度は夜店

で売ってるような安っぽい笛
を挿入。



「プゥ〜〜」


案の定、オロロン鳥も哀れむほどの情けない笛の音が饐えた部屋にこだますると、予定調和の如く間髪を

入れずパチパチパチ。


「どうせなら音楽に合わせて吹いてみろー!」という毒蝮のツッコミに対しては


「そんなこと言うのならアンタタチがやってみてや!」と返し、


「だって、吹く口がねえもん」という、毒蝮の方もこれまたお約束のようなオチで応酬。



ある意味凄い。舞台の上下でストリップ漫談が完結している・・・・。



そんなこんなで花電車も佳境に入り、最後はタバコ飛ばしという大技だ。

これは、お世辞じゃなく凄いと思った。前もって入れておいた管にタバコを挿すと、腹にパワーを

溜め込み、「ヒュンッ!」と勢いよく放つのだ。奥の壁に突き刺さるほどのスピードでタバコは

次々に宙を切り裂いていく。そして、これが不覚にも、私の顔に一本命中してしまったのである。

意外な発射台から繰り出されるテポドン攻撃に驚愕すると同時に、

私は倒れた。 怪獣界広しといえど、まさか原始的な怪獣が飛び道具を持って

いる
とは・・・。一生の不覚だ・・・・。



私が倒れている間、その朦朧とした意識のなかで聞いていた記憶では、こんなやりとりがあった。



「この飛んできたタバコ、吸ってもいいんだろ?」


「ダメダメ、ここは禁煙だーよ。そこに書いてあるだろ」


「アンタさっき吸ってただろーよ、しかも上と下の口両方でよ」


「うるさいねぇ、観客席が禁煙なんだよ。
舞台の上は何したって許されるんだよ。悔しかったら
アンタガタも舞台上がって下の口で吸ってみれ!」




客に向かってなんというセリフだろうか。恐ろしい・・・。敵うわけがない・・・。



しかし、本当に辛く、恐ろしかったのは実はこの後なのである。レッドキングが引っ込む間際に残し

た「次はウチの看板娘だよ」との言葉に、ほんの少しだけ期待したのがまずかった。



ただ、次に現れたモンスターに関して書けることは少ない。レッドキングと同い年くらいだろうが、

小川知子ぽいがじっくりみりゃオランウータン似の顔とガリガリの身体、

皺だらけの首筋を持つ謎の生命体が ピンクのネグリジェを

チラチラさせながら遠くを見つめ踊っている
のである。



そのイタさといったら、レッドキングの時はツッコみ通しだった毒蝮3人衆も終始無言だった

くらいである。笑いに転化させようにも小脳レベルで歯止めがかかるような

タブーの香りが充満し、 どうにもこうにもただ固まっているしかないのである。 我々のそんな様子

に特に注意を傾けるふうでもなく、オランウータンはひたすら舞い 続ける。挑発的なポーズがエス

カレートするほど場が重くなっていき、私はある心の叫びとともに気を失っていた。



レッドキング!カムバァ〜ック!!あんたが良かった・・




この後私は、マン力でリンゴを切るというオランウータンの助手として、一方がオランウータンに

繋がったヒモの片端を引っ張ったりしていたようだが、意識喪失状態でのことで、私の記憶には残って

いない。



漸く山伏修行のような苦しみから解放され劇場を出ると、「個室で女の子とイイコトしな〜い?」という

客引き数人に取り囲まれたが、普通見ることで扇情され、次の段階に雪崩れこむことはあっても

最初よりずっとクールダウン、を通り越して鬱状態にまで落ちている状態ではいかんともしがたい。

また、この先更なるモンスターが待ち受けてるとしたら、それこそ命を落としかねない状況だし、

町の広さを考えれば

「続きやるだ〜よ キバって抜きんしゃい!」

という台詞とともに、レッドキングやオランウータンの二次攻撃

晒される危険だって捨てきれないのである。そんな所に突入するには、まず自分自身を労わり、

傷を癒さねば。



今夜の水も、苦かった。明日はどっちだ。



教訓:温泉街は、やっぱり温泉街だ。 でも、笑えるうちはまだ幸せだ。








危険度:★★★★☆