<ウルトラマンに助けられたある街のある後日談>

*この物語はフィクションです。
登場する団体、人物は全て架空のものであり、ウルトラマンは正義の味方です。




さて、明日も早い。 次の話で最後にして、今日は帰らせてもらおうか。

君に話してない話なんて、もうそう多くはないのだがね。

そうだな。 ウルトラマンは知っているかね?   結構。

では今日はそれにまつわる話をしよう。




ある所に一人の女性がいた。

年は21、健康的な印象の、短い髪のよく似合う女性だった。

彼女の仕事はオフィスの受付で、毎日様々な来客に対してその笑顔を振りまいていた。


ある日、一人の男性が仕事の用事でそのオフィスを訪れた。

二十代後半の、真面目で明るい男だった。

あいにくその時担当者が席を外していた為、二人は時間つぶしに軽く世間話をした。

それが二人の初めての出会いだった。

彼女は彼に好印象を抱き、彼もまた彼女の笑顔に癒された気がした。





その後も度々彼は打ち合わせで会社を訪れた。

初めは彼女も会釈するだけだったが、ある日思い切って食事に誘い、二人は昼食を共にした。


二人がより親しい間柄になるまで、そう時間はかからなかった。



ある日彼は彼女にうち明けた。

次の異動で彼は昇格し、外国勤務になる。

ついては彼女に今の職場を離れて、一緒にその国に来てほしい、と。

彼にとっては精一杯のプロポーズだった。


彼女は内心迷った。もちろん付いて行きたい気持ちもある。

しかし今の仕事にやり甲斐を見いだしかけているところなのだ。

このまま彼に付いて外国に行ってしまうと、一生主婦として家事に追われるかもしれない。

仕事を満喫できるのは今だけかもしれないのだ。

彼女は彼に、少しだけ考えさせてほしいと答えた。一生の問題だからと、彼も承諾した。



それから日が経った。彼女は気持ちの整理がつかないまま、会社の受付をこなしていた。

彼もまた、彼女の答えを待ちながら、仕事に忙殺されていった。

どうやら彼の転勤は早くても半年後になる様だった。

半年の間ゆっくり考えたらいいさ。 彼は電話で言った。

でもその代わり、待たせる分いい返事をくれよな、とも。


ある意味で、それは彼らにとって一番幸せな時期だった。

二人とも仕事を楽しみ、つかの間の時間を二人で過ごした。

彼女の心の中で、彼に付いて行こうという気持ちが大きくなっていった。



間もなく、彼女は彼と結婚した。

つつましくも幸せな結婚式だった。仲人は、席を外していた担当者だった。


彼女の退職金を元に、ちいさなマンションも借りた。

半年後の旅立ちに向けて、彼らは準備をし始めた。二人で、だ。





しかし、どんな美しい花も、やがては枯れる。

幸せや、喜びや、優しさほど、時の移ろいに流され易く、忘れ去られ易い。

我々のこの世界では、形あるものは必ずいつしか壊れ、形なきものは色褪せ、消えていく。

そして残るのはいつも哀しみと憎しみのみである。





ある日、街の郊外に怪獣が現れた。

軍隊が要請され、街に避難勧告が出された。

彼は彼女を連れ隣町の親戚の家へ避難しようとした。

彼は駐車場へ車を取りに行き、彼女は必要な物を持って、階段を下りていた。


そして、ウルトラマンがやってきた。

ウルトラマンは街に降り立ち、怪獣によって危機に瀕していた軍隊を助け、

人気のない山岳部へ、怪獣を誘導した。




おかげで、街の被害は驚く程少なくてすんだ。

しかし、人がどれほど注意して歩いても小さな虫を踏み殺してしまう様に、

ウルトラマンも決して万能ではなかった。

最初にウルトラマンが降り立った場所には大きな足跡が残り、

コンクリートで舗装された駐車場は地面にめり込んでいた。

足跡の中には、押し花の様になった彼の車があるだけだった。

あまりの圧力に、車をこじ開けて中を確認する事すらできなかった。




彼女は泣き続けた。

それは哀惜の慟哭とも、憎悪の雄叫びとも聞こえた。

それはある種の悲劇だった。

彼女のお腹には子供ができていたのだ。


だが宿ったばかりの子は、彼女の涙と共に流れ落ち、二度と戻る事はなかった。


彼女はウルトラマンによって、最愛の夫と、
転勤先で生まれてくるはずだった子供の二人を殺されたのだ。



彼女は決意した。

いつかウルトラマンに復讐してやろうと。

その為には、ウルトラマンの弱点を調べ上げ、
出現時には、可能な限りウルトラマンの近くにいる必要がある。

彼女はありとあらゆる可能性について、狂いかけた頭で計算した。



そして半年後、彼女はウルトラ警備隊に入隊した。

採用はけして易しいものではなかった。

それはある種の、家族を殺された者が持ち得る執念だった。



今でも彼女はウルトラ警備隊員として、復讐の機会を窺っている。

諸君もウルトラ警備隊の出てくる画面があったら目を凝らしてよく探してみるといい。


ウルトラマンの活躍に沸く隊員達の中に一人、

燃える様な憎しみの目でウルトラマンを見つめる女性隊員がいるはずだから。







私の話を聞き終わると、男はゆっくりと煙を吐き出し、アルコールの代わりを注文した。

バーテンダーがうなずき、(余談だがバーテンダーとは、酒場の素敵な番犬という意味だ)

煙草を一口吸った彼は私に視線を戻し、煙と一緒にゆっくりこう言った。



「何度も言うけど、前置き長ぇって。」





ウルトラマンに助けられたある街のある後日談・完


*再度確認しますが、この話は作り話です。
ホントに画面にそんな隊員探さないでください。実際居ても怖いけどね。




2001年謹製。 2004年、リメイク。