秋の彩り

               余命一ヶ月。
               その事実を知ったのは三日前だ。医者は母にその事実を告げ、母は僕に
              それを包み隠さず話してくれた。不思議と驚きや戸惑いといったものはな
              く冷静にその事実を受け入れた。自分でもある程度は覚悟していたという
              こともあったが、それ以上に自分を落ち着かせる何かがそこにはあった。
              今思えば十九年間という短い生涯ではあったが、わりと幸せな人生であっ
              たと思う。
                幸せ
              そんなことを考えたのはいつ以来だろうか。ひょっとすると生涯において
              も初めてかもしれない。幸せなんて言うものはそう簡単に見つけられるも
              のではない、そんな僕の常識は死というものを前にしてひらりと否定され
              たのだ。日常のどんなに小さなことにでも幸せが潜んでいたのだ。しかし、
              それに気付けなかったことを後悔する訳でもなく、むしろその事に気付く
              ことができた自分にも幸せを感じるのである。そして追憶に浸り、心に仕
              舞い込む。
                春に咲く一斤染の桜
                夏にそよぐ水浅葱の風
                秋に散る赤朽葉の木の葉
                冬に舞う瓶覗の雪
               どれをとっても僕には欠かせない大切な想いである。そんなささやかな
              幸せに彩りを添え、さよならを告げていく。白黒の写真に拙い手つきで色
              をのせていくように。彼等にとってはなんでもない別れでも、僕にとって
              はどれをとってもひとつひとつ大切な終止符なのである。そうやって限り
              ある残された日々は、彩りを与えることで静かに過ぎていった。

               僕の想いが様々な色で染まり上がる頃、一ヶ月を迎えようとしていた。
              それでも彩りを添えることが出来ないものがたったひとつだけあった。
                終わりゆく秋
              自分と同じ立場に置かれたものとして、別れを告げることなどは到底でき
              なかった。ましてや彩りを与える必要もなかった。飾ることもなく、目に
              は清かに見えなくとも綺麗であるのだ。そこには同情とは何か違う、偽り
              や作為といったものもなく、ただただやすらぎや不変の幸といったものを
              強く感じた。たとえ何かが終わろうとも変わることのない真実。それだけ
              が僕に与えられた最後の希であった。

               僕の去った朝、秘色の澄みきった空気が冬の訪れを告げていた。

to colum