トップ

想い・・omoi・・おもい
その5

回想・・・命

命について思うとき
いつも妹の事が浮かんできます。
もう随分昔の話・・・・

17歳の多感な時期に 自分自身を
傷つける行為に走り
口を閉ざし・・・・気が付くと
命さえ終わりにしようとしていた。

私は、家族として一緒に生活していながら
何も気づいてやれなかった。
何も言わないまま、ただ苦しみ続ける妹。
病院で医師から耳を疑う事実を聞き
呆然とする私たち。

妹は薬物を口にしていた・・・。
一刻も早く薬物を特定したいと。

そんなはずは無いと繰り返し否定しながら
私は、家に戻り妹の部屋に入る。
机の上に液体の入ったコップがあった。
鼻を近づけると 息が詰まるような匂い。
鼓動が早くなって苦しくなる。
身体中が震え、喉が渇き、冷たくなった指で
病院に電話をかけ、そのまま病院に向かった。
頭の中は何も考えられない。

それは農薬だった。
前の晩に飲んだらしい。
量ははっきりしないけれど それから一晩中
一人で苦しんでいたんだね。
古いジュースを飲んだんだって誤魔化して。
怖かったよね、きっと・・・。
すぐに透析(解毒)がはじめられた。
父が先生に呼ばれた、しばらくして
戻ってきたときの顔はとても険しかった。
「20パーセントだって。」「今晩がヤマだそうだ」
一つ一つ自分自身に言い聞かせるように
私に話してくれた。
泣きじゃくる私に父は
「まだ、あきらめちゃいない」といった。
妹の口からはおよそ想像付かない物が
途切れることなく出てきた。

口はただれ、おそらく喉の奥、内臓も全て
焼けただれてしまっているだろうと言うことが
妹の目からあふれる涙が語っていた。
とても苦しいはずなのに 一言も何も言わず
必死で生きようとしているようにみえた。
内臓が全て出てきてしまうかのような
激しい嘔吐は一層激しさを増していた。
黒い固まりがあとからあとから吐きだされる。

そばにいるのが辛くなる。
・・・早く楽にしてあげたい・・
そんな思いがよぎってしまう。

意識はあるのか無いのか
とにかくただ、静かに涙を流している。
不安な夜は明けた、嘔吐は相変わらず
続いているけれど間隔が長くなった。

「一応の峠は越えたようです。
まだ、安心というわけには行きませんが。」
「よかったー」
力が抜けたら涙が出てきた。
着替えや排泄の世話を
しようとした母を妹は避けた。
「お姉ちゃんにいてほしい」
しゃがれた声で妹は言った。
それは私には衝撃だった。

今まで姉らしいことなんて
何もしてあげなかった。
可愛がることもしなかった・・・。
それなのに・・・。

私の中の妹はいつもあとをくっついて
足でまといになる3才のまま。
体を拭いたり、オムツを替えたりしながらも
会話はなく、時間だけが過ぎた。
一番知りたい事を聞いて良いものかどうか
とても迷うー。

両親はその件には一切触れないと
決めたらしい。
というよりも無かったことにしてしまったようだ。
若いと言うことは何でも急激に動くもので
回復しだしたらあっというまでした。
危篤と言われたのが嘘のよう。

唇の皮がズルリと剥けたら
下から血色の良いきれいな唇が
出てきた。

病院のカウンセラーを受けたものの
心をひらいてくれないまま・・・退院。
あれからもう、随分年月が経ちました。
後遺症もなく、結婚し子供も生まれました。

あのことは、妹の心の中にだけ
真実があります。
何がそうさせたのかはまだ分かりません。
いつの日か自分から語るときが来るまで
聞かないでおこうと思います。

生きていてくれてよかった。