エティの災難         page 2/2

 

やがて容疑者たちが連行されてきたというので、エティ、エフェンディ、ブディの

あとに着いて、さっきの捜査一課の部屋へ入っていきました。

 

テレビドラマや映画の刑事モノで行われる面通しは、被害者と容疑者はマジック

ミラーで仕切られていて、容疑者側から被害者側の様子が判らないようになって

いますが、

ここはインドネシア。  

そんなものはありません。

部屋に入ったとたんに容疑者と『ごたいめ〜ん』です。

 

容疑者はふたり居て、上半身裸で床に座らされていました。

刑事がふたりに、「被害者の女性だ! 見覚えあるよな!」

と言い切るやいなや、いきなり

『ぼかっ! ぼかっ! どすっ!!』

とふたりを殴りつけました!!!  

 

「えっ!? えええええ〜?!?!」

「おいおい! 刑事くん! そんなことしていいの?!」

 

小員が唖然としていると、ふたりの脇にいた別の刑事が、

『ばこっ! どす! どす! ぐしゃっ!!』

と、ふたりが体勢を立て直したところを見計らってさらに殴りつけます。

 

小員はこの時悟りました。

ここインドネシアは法治国家ではないのだと。

 

 

刑事がエティに向かって、「どうです? ふたりとも犯人でしょ?」

と訊きましたが、エティはすでにビビッてしまい声を出せないようです。

それでも蚊の鳴きそうな声で、胸に大きなイレズミをしてる容疑者を指差し、

「このヒトは違います・・・」

 

「違う」といわれたイレズミ男は、

いきなり元気を出して、

「そうだろ! なっ! そうだよな! オレじゃないよな!」

と自分を指差しながらエティに迫ってきました。

 

すると、単なる『付き添い人』であったハズのエフェンディがエティの前に立ち塞がり、

『ばっこーん!!!』

と、強烈な右ストレートをイレズミ男に叩きつけました。

腰の廻ったいいパンチでしたが、モーションが大きすぎたため、腕でブロック

されてしまいました。 

ブロックした体勢のまま後ろに吹っ飛ばされたイレズミ男は起き上がる間もなく、

3人の刑事に囲まれて殴る・蹴るの制裁を加えられてしまいました。

刑事たちは「勝手にしゃべるなと言っただろうがぁーっ!!!」ってなことを言ってました。

 

刑事が息を切らしながら、

「では ハァ、こっちの男は ハァ、犯人に間違い ハァ、ありませんね? ハァ」

とエティに質すと、エティはますます小さな声で、

「私にナイフを突きつけたのはこのヒトです・・・」

と、先ほど殴られて左の頬を既にオタフクのように腫らせている男を指差しました。

 

すると今度はブディがそのオタフクの前に歩み寄り、

『ズコーン!』

とオタフクの喉元に前蹴りを炸裂させました。

 

息が出来ずに目を白黒させているオタフクを、また3人の刑事が取り囲んで、

『やっぱりおまえかーっ!!!』

と叫びながら、また殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る。

 

ひとしきり痛めつけたところで、刑事がオタフクに対して、

「オマエがバイクでヌサンタラビルから後をつけて、仲間のタクシーが停まった

ところでこの女性から金品を奪ったのだな!!」 『ばこっ!』

「オマエがナイフをこの女性に突きつけたのだな!!」 『ぐしゃっ!』

「オマエがキャッシュカードでATMから金を引き出したのだな!!」 『どすっ!』

刑事の手にはいつの間にか1メートルほどの角材が握られていて、それで

オタフクの鳩尾や胸、足の甲などを殴りつけます。

あとで訊くと、やはりその角材は犯人に自供をさせるためだけに置いてあるそうです。

 

面通しまで「オレは無実だ」と言っていたオタフクもついに観念したらしく、角材に

怯えながら自供を始めました。

 

犯人の調書を取るからもう帰っていいよ、と言われた私たち一行は、複雑な心境の

まま捜査一課を後にしようとしたのですが、「あっ!」 そうそう。 せっかくだから

写真撮らなくちゃ。

 

話の判りそうな青いシャツを着た角材刑事の肩に手を回し、

「写真撮っていいかな?」 と訊くと、

「え〜? 写真はダメだよ〜!」 と予期した答え。

そこですかさず、ポケットに用意していた10万ルピア(1400円)をそっと手渡し、

「頼むよ〜、 すぐ終わるからさ!」 と言うと、

「OK!」

すぐに容疑者ふたりを整列させてくれました。

 

 

 

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ファインダーを覗くと、被写体の容疑者ふたりが急に哀れに思えてきました。

「ごめんよ〜。 ボクはキミ達に何もしてあげられない。 きっとアムネスティに

訴えたって、こんな拷問があったことなんて信じちゃくれないよ。」

「そうそう! 裁判になったら自白を強要されたって言えば無罪になるかも

しれないし!」

 

最後にみんなで記念撮影をしようとしましたが、刑事くんたちは「自分たちは

ダメ!」だと。 エティも恐がって容疑者に近寄ろうとしないので、ブディと

エフェンディを撮ってあげました。

 

 

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写真をとる前に場の雰囲気を盛り上げようと、

「ハイ! みんな笑ってー!」と言ったのですが、反応してくれたのは

いつも脳天気なブディだけでした。

エフェンディは血中アドレナリンがまだ引かないようです。

 

結局イレズミ男は『誤認逮捕』ということで釈放されたそうです。

殴られ損です。

そもそもバタック人ではなくバタック語も話せないとのこと。(ガチョーン)

おいおい! もっとよく調べてから殴れよ!

 

あとで聞いた話ですが、その場で20万ルピア(2800円)払っていれば

別室にて容疑者のことを好き放題殴ることが出来たそうです。

 

 

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(ジャカルタ警視庁スリーピ署)

 

 

それから5日後、賊のタクシー運転手が逮捕されました。

 

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この新聞記事によると、この運転手はエティの銀行から引き出した金は

3百50万ルピアだけと言っているとのこと。 往生際が悪いヤツです。

 

この運転手が勤務していたのは『メトロポリタン・タクシー』といって、

ジャカルタでは中規模のタクシー会社です。

逮捕翌日、このメトロポリタン・タクシーの従業員30人がスリーピ署に

「犯人を出せー!」 「犯人を殴らせろー!」 と押しかけたそうです。

新聞にも社名がデカデカと出ていましたからね。

 

エティの自宅をメトロポリタン・タクシーの役員3人が訪れたそうです。

慰謝料か見舞金でも持ってきたのかと思いきや、「ウチの社名をマスコミ

に喧伝するのはやめてくれ」 だと。  さすがインドネシア!

 

エティは運転手の面通しを拒否しました。

もうあんな恐い思いをするのはイヤだと。  そうだよね〜

 

 

小員以下、サムデラ・インドネシア・日之出ディビジョンでは、エティに

カンパをしました。

また、日之出本社の但野さん、後藤さん、並木さん、新井さん、寄木さんから

多額のカンパをいただきました。

エティに代わり、この場を借りて御礼申し上げます。

 

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